「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第一章 斎藤一~明治二年五月~越後高田謹慎所にて」
そりゃあ、総司や平助と違って、俺と一緒に居ても、和まないし癒されないとは思うけど、その分、俺、仕事しましたよね。あいつらよりも、辛い、難しい仕事、俺、そこそここなして来たじゃないですか。それでもダメなんですか?それでも俺じゃダメなんですか? #試衛館の青春
2013-05-18 18:10:04離れたくない。最期まで土方さんと一緒に戦いたい。 言ってください。俺、どうなればいいんですか?どうなれば一緒に連れて行ってもらえるんですか? 言われても、無理かもしれないけど・・・。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:12:39でも、俺、頑張りますから。そうなるように頑張りますから。 お願いですから、一緒に連れて行ってください。最期まで一緒に居させてください。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:13:43俺はガキみたいに繰り返していた。 子供の頃、母上にも、ここまで聞き分けの悪かった事はなかったと思う。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:14:37土方さんは、俺を引き寄せた。 殴られる。 そう思った時、抱きしめられた。 強く、乱暴に、俺の顔が土方さんの胸に押しつけられた。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:15:39こんなにも強く他人に抱きしめられるなんて、初めてだった。 頬に感じる土方さんの胸は、厚く、広く、そして暖かだった。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:16:52俺の鼻と口が土方さんの胸にまともに押しつけられて、息が出来なかった。俺は、苦しくなって、少しもがいた。 俺を抱きしめていた力が、ちょっとだけ緩まった。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:18:01少し間を置いて、耳元で、 「お前にしか頼めないんだ。残ってくれ」 という声がした。 土方さんの顔を見ると、涙を流している。 うそだろ。土方さんが泣くなんて・・・。 気が付いたら、俺は土方さんの胸で泣いていた。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:19:21「残ってくれるな」 土方さんの言葉に、もう逆らえなかった。俺は顔をあげ頷いた。そして、もう一度、土方さんの胸に顔を埋めた。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:20:08土方さんは、庄内、仙台へ援軍を求めに行った。 今更援軍なんて何処を捜しても得られるわけがない。 そんな事、百も承知で・・・。 #試衛館の青春
2013-05-18 18:21:30土方さんが行ってしまった後、俺は、新選組を率いて戦った。 新選組を率いているんだ。土方さんの名代なんだ。ぶざまな戦いをしちゃいけない。 そう思って、俺は必死で戦った。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:02:18だけど、敵は勢いが違ってた。 時代の流れ。 そんなこと、言い訳にしたくはないけど、言い訳にしちゃいけないんだけど、悔しいけど、どうしようもなかった。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:03:17一月後、会津は落城した。 結局、土方さんは帰ってこなかった。 そんなこと、母成峠で別れた時から判っていたことだ。 判っていたことだけど、心のどっかで、ひょっとしたらって思ってた。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:04:36いくら、そんなことはありえないって、頭で否定しても、俺の心が期待することをやめなかった。 だから、噂で、幕府の軍艦に乗って、蝦夷へ渡ったと聞いたとき、 ああ、本当にもう会えないんだな って、たまらなく寂しかった。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:07:00落城から半年以上が経った。 俺は、まだ、生きている。戦いで死ねなかった。 会津藩士として、ここ、越後高田で、謹慎の日々を送っている。この先どうなるかは、何も判らない。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:08:12ひょっとしたら、生き延びられるかもしれない。 そういう思いが現実味を帯びるようになった頃から、俺の心が、また、淡い期待を持ち始めた。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:09:18土方さんも生きていれば、生きてさえいてくれればって。 だけど・・・。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:10:04今日、五稜郭が落ちたことを聞いた。 土方さんは? 生きていて欲しいと思った。 お願いだから、生きて居て下さいって。俺一人にしないで下さいって。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:11:31だけど、生きているはずがないと思った。 あの土方さんが降伏するわけないじゃないか。 だんだん詳細が判って来た。 やっぱり、土方さんは死んでいた。 函館政府要人の中で、たったひとりだけ・・・。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:12:38ずるいですよ。自分だけ・・・。 俺、独りぼっちになっちゃったじゃないですか。 この先、一人で、どうやって生きていけって言うんですか? 総司も平助も、そっちにいるのに。 俺ばっか、いっつも、俺ばっか・・・。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:14:25別れる時、土方さん、俺の顔を見て、 「なんて顔してる」 って笑った。 多分、俺、泣き出しそうな顔してたんだと思う。ううん、泣いてた。 「斎藤一はいつも一人だったはずだぞ」 土方さんは、そう言って俺の頬を軽く叩いた。 #試衛館の青春
2013-05-19 18:15:33そう、俺は一人だった。 試衛館で一人じゃないって気づかされるまでは。 そして、京でまた一人になった。 新選組で長い時間をかけて、やっぱり一人じゃなかったって思えるようになるまで。 また一人に戻るだけ・・・、か。 (第一章 了) #試衛館の青春
2013-05-19 18:26:16