「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第二章 土方歳三~明治元年十月~北への旅で」
お待たせいたしました。 「独白~新選組隊士たちのつぶやき」第7回 第二章「土方歳三~明治元年十月~北への旅で」第1回 ゆるゆると始めていきたいと思います。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:10:32二章前文 明治元年十月、二ヶ月前会津で斎藤一と別れた土方歳三は、庄内、仙台とまわり、江戸を脱出した榎本武揚率いる旧幕府艦隊と合流、寒風沢から蝦夷を目指した。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:11:57榎本は、旧幕臣や戊辰戦争で東軍として戦い敗れた諸藩の藩士達の生きていく場所として、蝦夷地に独立国を建てることを半ば本気で考えていたようだ。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:13:04しかし、土方は、そんな夢物語などどうでもよかった。ただ、戦いの場が欲しかっただけだ。 土方は、生命のある限り、新政府との戦いをやめるわけにはいかなかった。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:14:09既に雌雄が決した今、それがどれほど無益で愚かなことであるかは、土方にもよく判っていた。 しかし、多くの仲間を失い、一人になってしまった土方には、もう、他の道は選びようがなかったのだ。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:15:03今、土方は、蝦夷を目指す艦隊の旗艦開陽丸の船室に居る。 凪いだ夜の海は、船に乗っていることを忘れさせる。 土方は、独り寝台に横たわり、天井を見つめていた。 冬の海の寒さが身にしみた。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:15:47第二章 土方歳三 ~明治元年十月 北への旅で~ 静かだなあ。さっきまであんなに揺れていたのに・・・。今は、海の上にいることを忘れてしまうくらいだ。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:17:05俺は、慣れない寝台で、寝返りを打った。 寒い。まだ、十月も初めだというのに、今年の冬はやけに早い。 俺は、毛布とやらに包まり、まるで百年も昔のことのように、この前の船旅のこと、そして、その後の出来事を思った。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:18:14九ヶ月前、今年の正月も、俺達は船の中にいた。 大阪から江戸へ向う船。鳥羽伏見の戦に破れ、江戸へ逃げ帰る旅。 いや、俺達は、決して諦めてはいなかった。江戸で、もう一戦やるんだ、雪辱するんだと・・・。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:19:20俺達のその思いは、不思議に激しくはなかったが、皆それぞれ静かに心に決するものがあった。 俺達か・・・。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:20:26そう、あの時は、まだ一緒だった。近藤さんも総司も新八つぁんも左之助も、そして斎藤も。だが、俺達は、山南さんと平助と源さんがいないことを嘆いていた。 今から思うと贅沢な話じゃないか。まだ、六人もいたというのに。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:21:21この戦、もう、とうに勝負はついている。 負けだ。どう贔屓目に見ても、俺達の負け。 そんなこと、鳥羽伏見で負けたときから解っていた。 だが、俺は戦い続ける。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:23:18ここで戦うのをやめたら、京でやってきた事が全て無意味になる。山南さんの、平助の、源さんの、総司の、そして、近藤さんの死が無駄になる。それは俺には耐えられない。 だから、俺は戦い続けるんだ。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:25:06俺は、落城寸前の会津を出た。 容保公に援軍を連れて来いと命じられた時、俺は我耳を疑った。 今更、どこへ行けば援軍を求められるというのか。 聡明な殿がなぜ? #試衛館の青春
2013-05-20 18:26:09俺は、殿のお顔を見た。 殿は、無言で頷かれた。 そのとき俺は、はっきりと殿のお気持ちがわかった。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:27:01「土方、最早これまでだ。悔しいが、これ以上、家臣やその家族達に戦いを強いるわけにはいかん。されど、お前達は、会津と運命を共にする必要はない。ここを脱して、納得いくまで戦うがよい」 殿の目がそう言っていた。 俺は黙って頭を下げ、そこを出た。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:27:54会津を出る。そのことに何の抵抗もなかった。 落城寸前の会津を見捨てる? それは違う。最期まで官軍を苦しめる者がいてこそ、会津での多くの者達の死が意味を持つのだと思う。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:28:52俺とて、そう永く生きるつもりはない。さっさと仕事を片付けて、早くみんなのところへ行きたい。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:29:46俺は、母成峠の陣地に戻り、斎藤を呼んだ。 斎藤一、ピン。あいつには、ずいぶんと辛い仕事をさせてきた。 あいつは役に立ちすぎた。役に立つから、ついつい便利に使ってしまう。 #試衛館の青春
2013-05-20 18:31:11あいつと初めて会ったのは、さて、いつの事だったか。 はっきりと覚えてはいないが、確か、あいつが十七、八の時だったと思う。 最初は、そう、総司が連れてきたんだった。 #試衛館の青春
2013-05-21 18:02:45暫くちょこちょこ顔を見せていたが、知らない間に居ついてしまっていた。 まあ、それは、あいつに限った事ではない。俺を含めて、当時試衛館に居た連中は、多かれ少なかれ、みんな同じようなものだったんだが。 #試衛館の青春
2013-05-21 18:03:30貧乏御家人の次男で末っ子。剣の腕は、同い年で試衛館の塾頭をつとめる総司といい勝負、いや、あいつの方が上かもしれなかった。だが、学問はからっきしで、家族には、愛されてはいると思うが、期待は全くされていない。 なんだか、俺自身を見ているようだった。 #試衛館の青春
2013-05-21 18:04:20総司、平助、そしてあいつ、三人をひき連れて岡場所に行こうとしたのを、山南さんに見つかって、さんざん説教されことがあったっけ。 #試衛館の青春
2013-05-21 18:05:16俺が叱られているのを、総司は興味津々で覗いていたし、生真面目な平助は、半べそかいて部屋の隅に座っていた。 そして、あいつは・・・。 ちゃっかりと、左之助に連れて行ってもらっていた。 #試衛館の青春
2013-05-21 18:06:14