第五十五話:岩石オヤジ 第五十六話:手、再び。 第五十七話:腕
- C_N_nyanko
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暇だったんで、近所の寺にぶらりと行ってみた。 見事な枯山水があってね。近所にこんなところがあったのかと驚かされたよ。 それで、縁側にあぐらをかいて日向ぼっこしながら、のんびり考え事をしていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 23:41:15と。 「ダメだ、煩悩にまみれとる」 砂利の上にどっかりと座り込んだ男が、こちらを睨みつけた。 「僕が考えがわかるんですか?」 「姿勢を見れば一目瞭然だわい」 そりゃそうだ。和みに来てるんだから弛んで当然だ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 23:42:13「お坊さんですか」 「いかにも」 男は厳しい面構えで頷いた。 「どうして出家されたんです?」 「煩悩まみれの人間にうんざりしたんじゃ」 「はぁ……」 曖昧な返事をすると、男は、今時の若いもんは、とぼやいた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 23:43:08僕はやれやれと庭を見渡す。そして、あることに気がついて苦笑した。 「ですけど」 と、男に言い返す。 「あなた、そうやって振り回される人間がさほど嫌いじゃないんでしょ?」 男はぎょろりとこちらを振り返った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 23:43:46「なぜそう思う、小僧」 「そりゃぁ」 僕は肩をすくめた。 「本当に人間を見下してたら、なろうとするはずないですから」 「何?」 だって、と、僕は言った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 23:44:03「あなたホントは、岩じゃないですか」 次の瞬間、男はふっと揺らいで消えた。 あとには、オヤジがあぐらをかいてこちらを睨んでいるような形の岩石が、ごろり、と転がっているだけだった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-06 23:44:10第五十六話:手、再び。
前に、手の化物の話をしたの、覚えてるかな。僕の部屋で、畳む前の洗濯物の袖から、人の手がにゅぅって伸びてたって話。 あいつがまた出てきたんで、そのことを話そうと思う。 気がついたのはさっきなんだけどさ。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-07 00:00:58僕は、部屋を出る前にコンセントを抜いて出る癖があるんだ。少しでも節電したいからね。 それで、今日も外出の前に不要なコンセントを抜いてたんだけど、視界に違和感がある。なんだか前にもこんな感じがあったと思ってね。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-07 00:01:57もしかして、と思って部屋をよく見渡したら、壁から人の手がひょこりと生えていた。で、冷蔵庫のコンセント抜こうとしてるんだ。 「待て! 冷蔵庫はマズいって!」 咄嗟に声を上げると、手は驚いたようにひょいと跳ねた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-07 00:02:24そのあと僕の後ろに回って、扇風機のコンセントを抜いてグーサインを出した。 「……あ、ありがとう」 とりあえず礼は言ったよ。 それでまた、手はバイバイと揺れて、嘘みたいに消えた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-07 00:02:34一体あいつは何なんだろうね? やっぱり悪い奴じゃなさそうだったから、次は真剣に、筆記でもって留守番を頼んでみようと思う。 宅配便程度なら、受け取ってくれるかもしれないよ。 ……なんてね。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-07 00:02:57大学の食堂で食事を終えてバスを待っていると、隣に君が立った。 「あら偶然ね」 「そうだね」 答えて、僕はいじっていた携帯をポケットにしまう。 「ちょっとした話があるの」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:01:36「ふぅん」 お決まりの相槌を打つ。気が進まないように切り出す君が、本当は僕に何か話したくて仕方がないのだとよく知っているからだ。 「それで、どんな話なの」 君は腕組みをして、話し始めた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:01:44「夢を見たの。私が作った人形たちが笑ってる夢。それも、以前に壊れてしまったはずの人形たちが、そこで微笑んでるの」 「へぇ」 なんだかゾッとするなと思った。僕は人形がさほど好きではない。 だが君は違ったらしい。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:02:08「幸せな夢だった」 君は言った。 「ねぇ、もう二度と手に入らないものを再び欲しいと望むのは、業が深いのかしら」 「さぁ」 同意も否定もしなかった。 僕も、一度は望んだことがある。 多分誰だってそうだろう。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:07:45「悪いことでは、ないと思うよ」 そうとだけ返事をして、到着したバスに乗り込んだ。 君は、そのまま僕を見送っていた。 その夜、夢にたくさんの人形が出てきた。 人形に囲まれて、両腕をなくした君が泣いていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:08:22「何をしたの」 驚くと、君は泣きじゃくりながら言った。 「腕利きだから、お前の腕をよこせって言われたの。そしたらまた巡り合わせるからって」 「同意したのか」 君は答えず、ただ泣いていた。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:08:49「お母さん、泣かないで」 人形の一人が君の涙を拭う。 「私たちがお母さんの手足になる」 「だから泣かないで」 「お母さん」 人形たちが取り囲んで、彼女を慰める。 君は泣きながら、微笑んだ。 「……本望よ」 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:12:30可愛いあなたたちのためならば、と、肘から先を失った手を伸ばす。 「あなたたちのためなら、私はなんだってできるわ。あなたたちの母親なんだもの」 そう言い切った君は、涙でぐしゃぐしゃなのに、とても凛々しかった。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
2013-06-08 00:13:51人形たちが取り囲んで、彼女を慰める。 僕の入る余地はなかった。 と。 僕のそばへ一人の人形がとことこと歩いてきた。少し大きめの、人間の少女ぐらいの大きさのものだ。 彼女は行儀よく一礼をして、僕を誘った。 http://t.co/Yoa5FrowrV #角川小説
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