とあるテトさんの物語1(6/15『金曜日の思考』~7/8『不安になる部屋』)

こちらはその1になります。 (その2→http://togetter.com/li/534292) 消えてしまう前に私用としてまとめただけでしたが、teto_botさんより許可をいただくことができました。 botの管理人様≠まとめ作成者です。
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テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(テトは、動かなかった。動かず、ただ、フスマを見つめていた。)(右肩に乗ったフランスパンは、じっとテトの動きを見守っていたが、だんだん、焦れて――思わず、口を開いた。)(「おい、テトよ。まさかにおまえ、ここまで来て、開けるの止めたなんて言うつもりはないだろな。」

2013-07-02 22:35:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(テトは、かれの声に、はっ、とまばたきした。右肩を見る。あれだけふんぞりかえっていたフランスパンが、ひどくしおれた顔をしている。テトは、それが妙におかしくて、「すまない」といいながら、知れず、笑んでいた。)(「開くとも。ただ、ちょっと高揚して。部屋から出るのは、はじめてだから」)

2013-07-02 22:41:51
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(「はじめて?」フランスパンは、意外そうに言った。「うん。はじめて」テトは、ゆっくりと頷いた。)(「もう少し正確に言えばな、この部屋から出ようと思ったこともなかったんだ。いまの、今まで。だから、なんというか、なんというかなあ」)

2013-07-02 22:45:21
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(テトは、まだ見ぬ風景に心躍らせる、という感情に、はじめて出会っているのであった。この先になにがあるのか、という、期待と不安の混じった思い。)(「――ああ、この感情を知れただけでも、じゅうぶんな価値のある試行であったことだよ。」)

2013-07-02 22:50:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(テトは、一度目を閉じ、ややあって開き、そうして、引き手に手をかけた。今度こそためらわず、テトはフスマを引き、開けた。)(途端、目に飛び込んできたのは――)

2013-07-02 22:55:24
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(これまでのあらすじ:テトは、多くを学ぶために本を得たいと望み、「いるもの:ほん」と書いた紙ヒコーキを夜空に飛ばした。「本」はフスマの形をとってテトの部屋にあらわれ、紙ヒコーキもまたフランスパンへと姿を変え、テトの元へと戻ってきた。そしてテトは、期待を胸に、フスマを引き開けた。)

2013-07-03 22:35:21
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(途端、飛び込んできたのは――赤茶けた髪の猫だった。)(「うわ!」 テトは、驚いて身を引く。フランスパンは振り落とされそうになって、「うおうッ」と言いながら慌ててテトにしがみつく。)(猫はふたりの側を通りぬけ、そのままテトの過ごす部屋のほうへと走り去っていった。)

2013-07-03 22:40:21
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(「キミ、ちょっと! ……あれ」 テトは慌てて部屋のほうを振り返ったが、もう、猫の姿はなかった。どこかに去っていった気配もない。まるで、はじめからなにも通らなかったかのように。)(「いま、猫が――通った、よな?」テトは、とまどいながら口を開いた。「猫が、居たよな…?」)

2013-07-03 22:45:22
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(フランスパンはそれを聞いてかぶりを振った。「悪い。おれにはきちんと見えなかった。けど、何かが通ったのは確かなんだろ?)(「おそらく。…まあ、良いか」テトは首を傾げながらも、一旦思考を打ち切って、フスマの先へと向き直った。ぐるりと部屋を見渡して、眉をひそめる。「しかし、これは…」

2013-07-03 22:50:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(フスマの先の部屋は、予想より――どういうものがある、と、仔細に考えていたわけではなかったが――古びていた。木でつくられた部屋だ。床は畳で、小さい傷が無数にある。部屋の中央に、背の低い茶色いテーブル。紫色の、年季の入っていそうな座布団。なによりテトの部屋と違うのは、天井だった。)

2013-07-03 22:55:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(くすんだ色の座布団。ほつれた畳。壁にはシミ。そして、薄気味の悪い――天井。高いな、とテトは思った。それに、どこか不気味だ。おおきな梁がわたっていて、上にいくほど薄暗く、なにがあるのかよく見えない。この古びた空間は、自分がこれまで暮らしてきた部屋とは、あまりにかけ離れていた。)

2013-07-04 22:35:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(不気味である。そういう感情を抱くのは、テトにとってははじめてのことであった。同時に、離れたい、という気持ちがどこからか湧いてくるのも感じていた。この部屋は、眺めているだけで、いや、この空間の中に在るというだけで、不安になるような気がするのであった。)

2013-07-04 22:40:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(この感情に従い、即刻この空間を出て、自分の部屋に帰るべきであるのかもしれない。そうするのが最尤であるのかもしれない。――だが。)(「いいや。ぼくが、ぼく自身が知りたいと思ったんだ、帰るわけには――いかないだろう!」)(テトは勇気を振り絞り、右足を一歩、力強く踏み出した。)

2013-07-04 22:45:21
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(――いやな音がした。テトにとっては今まで聞いたこともない、古びた床が鳴らす音としては至極まっとうな、たわみ、しなり、きしむ音であった。)(テトはこの初めて耳にする異質な音に驚き、不退転の決意ほとばしっていたかんばせは刹那でくずれ、「うっ……」と、思わずうめき声をあげていた。)

2013-07-04 22:55:22
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(これまでのあらすじ:テトは知識を得るべく「新しい本」が欲しいと願い、その願いは叶えられ、部屋には「フスマ」が出現した。やってきたフランスパンと共に、期待を胸にフスマを引き開けたテトであったが、その先に広がっていたのは、思いがけなくも薄気味の悪い、古びた木造の部屋であった。)

2013-07-05 22:40:20
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(みしり、みしり、と嫌な音を立てながら、涙ぐみつつ、テトは歩みを進めた。部屋の中央に至る。置いてあるのは、ちゃぶ台だ。周囲には座布団が4つ。その他に、変わったところはない。)(テトは、深呼吸して、その更に先、部屋の奥にまなざしを向けた。真正面。そこにもまた、フスマがあった。)

2013-07-05 22:45:21
テトぺってんとフラン=スパン @teto_bot

(「進むのか?」フランスパンが言い、「もちろんさ」テトが返した。)(「そうか。そうだな。……しかし、薄気味悪い部屋だ」フランスパンは頷きながら、しかし、ため息をこぼすように言った。テトは、そのフランスパンの言葉にみょうに感じ入って、かれを、まじまじと見つめた。)

2013-07-05 22:50:20
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