【twitter小説】ニェスの蛇の巣#3【ファンタジー】
「テレポートなら何回もしたことあるけど、こんな……」 「今日は特別に感覚を数千倍にしているだけさ。超空間なら帝都からも電影機や電話無しで話せるからね、いい機会だよ」 「そんなの……いま忙しいの! 大変なことが起こって……」 113
2013-07-11 21:38:01ミクロメガスの幻影はにやりと笑って言った。 「わかってる。僕は君のことを何よりも知っているよ。この罠は最後の門だ。羅針盤を持たぬものをはじく最後の砦さ。だが、君は玄室に辿りつけないわけじゃない」 そう言ってミクロメガスはこちらに手を伸ばす。 114
2013-07-11 21:44:18「手を掴め。君に力をやろう。チャンスはもうすぐ終わりだ。早くしろ!」 「そんなこと言ったって……」 メルヴィは魔力の奔流の中を必死に泳ごうとする。だが、なかなか彼には近づけない。もう少しで指先が触れそうな距離なのに……。 115
2013-07-11 21:49:44「手を伸ばせ! 力はいつだって手を伸ばせば掴めるんだ。君ならできるさ、ほら、いち、に、さん!」 掛け声に合わせて思いっきり手を伸ばす! すると何か暖かいものに手が包まれた感触があった。それと同時に視界が変わる! 116
2013-07-11 21:54:04メルヴィは目を開けた。辺りは完全な闇に思えるが、魔力を感じ取れば見えないことは無い。魔法使いの術の一つとして目を使わず周りを感知するというものがある。メルヴィも魔法使いのはしくれなのでうっすらと分かるくらいにはなっている。 117
2013-07-11 22:00:29帝都の魔法使いは常に目隠ししたまま一日を過ごすという者もいるとか……。通路は左右に伸びていたが、メルヴィは左を選択して進み始めた。これは完全なカンであったが、左の方から僅かな空気の振動を感じ取ったのだ。さっきから感覚が異常に鋭く冴えわたっている。 118
2013-07-11 22:05:34ミクロメガスから与えられた力だろうか? 左手が……さっき何かに触れた方の手が暖かい。まるで恋人と手を握り合ったようなむずかゆい、暖かい感覚だ。そこまで考えて、気まずそうにその考えを打ち消した。ミクロメガスが恋人だなんて……そんなことはありえない。 119
2013-07-11 22:26:27そんなことより一刻も早くこの迷宮を脱出せねば。玄室かはてまた出口か。羅針盤を持つニギミニアはいまいない。頼りになるクシュスも、いない。闇の中を這いずりまわっているうちに、メルヴィはだんだん心細くなってきた。どれくらい進んだだろうか? かなり歩いたように思える。 120
2013-07-11 22:29:53メルヴィの呼吸はだんだん荒くなってきた。辛い、苦しい感覚が彼女を襲う。以前もこういうことがあった気がする。自分は一人生き残って目的も分からず彷徨っていた記憶。みんないなくなってしまった。そう、あのときに……。記憶の底に封印したあのときに。彼女は身震いをした。 121
2013-07-11 22:34:26そうだ、自分はひとりでは何もできないのだ。脂汗が浮かび心拍数が上がる。メルヴィは闇の感情が膨れ上がるのを感じた。自分はただの小娘にしか思えない。月に行くという夢もなぜ叶えられると思ったのだろう? 自分には大きすぎて叶えられないものなのに……。 122
2013-07-11 23:05:13メルヴィは歩くのをやめ、膝を抱いて座り込んでしまった。今にも涙が出そうだった。誰かの助けが欲しい。力が欲しい。しかし自分には何があるだろうか? クシュスのように強く才能があるわけでもない、ただの小娘。自分はどうして誰かから力を得ることができようか……。 123
2013-07-11 23:10:19そのとき、左手が熱で疼くのをメルヴィは感じた。メルヴィの思考が冷たい闇に覆われそうになるたび、左手がさらに熱を帯びるのだ。メルヴィは左手を抱きしめ、一滴だけ涙を流すと再び歩きだした。124
2013-07-11 23:13:00やがて、道なりに進むと大きな広間に出たようだった。真ん中まで進んだところで背後で突然扉が閉まる! そして天井にいくつも火が灯った。メルヴィは眩しそうに目を細める。広場にはひとつの大きなミノタウロスの石像があった。 125
2013-07-11 23:17:04