「農業大規模化」崩壊の歴史

農業を大規模化して競争力を高めよう、という話題がマスコミを騒がしているが、大規模農業が崩壊する歴史を、すでに日本は繰り返している。それも奈良時代から、3度も。現在の大規模化は時代に趨勢かもしれないが、やがてそれも失敗する結末を迎えるだろう。
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shinshinohara @ShinShinohara

「農業の大規模化」がマスコミを騒がしている。しかし、大規模農業が行われては崩壊を繰り返す歴史が日本にあることを、多くの人が知らない。そのことを紹介してみたい。

2013-07-24 18:27:27
shinshinohara @ShinShinohara

まず、奈良時代に「口分田」、いわゆる班田収授法ができて、農民は強制的に小規模農家となった(例外多し)。しかし怠けたり生活に困ったりして田畑を売ったり耕作放棄する例が絶えず、政府はやむなく墾田永年私財法を発布。「荘園」という大規模営農が全国に広がるようになった。

2013-07-24 18:32:23
shinshinohara @ShinShinohara

荘園は、藤原摂関家など有力貴族の所有ということにして、税の優遇を受けた(不輸・不入の権)。しかしあくまで名前を借りるだけで栽培は手伝ってくれないので、実際には田堵(たと)と呼ばれる営農マネージャーが使用人を指揮し、大規模農業法人である荘園を経営した。

2013-07-24 18:36:36
shinshinohara @ShinShinohara

これは、大規模化を目指している現在の農業法人が、大手小売りチェーンと提携するのに似ている。大きな寺社や貴族の権威を借りて、荘園の経営を安定にするのが田堵(たと)という営農マネージャーの腕の見せ所だった。

2013-07-24 18:38:55
shinshinohara @ShinShinohara

名義を貸してくれた貴族が「もっと貢ぎ物をよこせ」とやかましいことを言うようになったら、その貴族よりも権力のある上位の貴族に荘園を「寄進」する形をとって対抗したりした。大規模農家が最儲かる販路を開拓しようと大手小売りに接触し、出資を受けたりするのとよく似ている。

2013-07-24 18:41:31
shinshinohara @ShinShinohara

荘園という大規模営農が進むと、藤原摂関家のような有力貴族に所属する荘園が続出し、それによって税の優遇策などを獲得した。これは、現在の農業法人が大規模化を進めていくうちに、限られた大手流通会社の系列に収まっていくのと似ている。

2013-07-24 18:44:30
shinshinohara @ShinShinohara

荘園はその後、所有権が複雑化していく。平安時代が終わりを告げて貴族から武士の時代に移ると、実力で荘園の所有権を事実上確保してしまう武士が現れたりした。京都にいる貴族は名義貸ししても実力がないので貢ぎ物が届かなくなり、荘園に移り住んで豪族化せざるをえなくなった者も現れた。

2013-07-24 18:46:31
shinshinohara @ShinShinohara

室町時代に突入すると、農地の所有権が複数にまたがっていたりなど、複雑化した。戦国時代に入ると戦国大名が実効支配し、荘園という大規模営農システムは存続が難しくなってきた。

2013-07-24 18:51:49
shinshinohara @ShinShinohara

豊臣秀吉による太閤検地で、荘園という大規模営農システムは崩壊した。大化の改新で田畑が口分田に分割されて小規模農家ばかりになったのと同じように、太閤検地では「農地は実際に栽培している農民のもの」と規定し、小規模農家が多数誕生した。

2013-07-24 18:53:29
shinshinohara @ShinShinohara

江戸時代は太閤検地のシステムをそのまま利用し、小規模農家が日本の農業を担うことになった。次第に没落する農家もいて、小作人になってしまう者が増えたが、基本的には「本百姓」と呼ばれる小規模農家を支援する政策が続いた。「村請」といって、村の自治システムで納税する仕組みが続いた。

2013-07-24 18:56:10
shinshinohara @ShinShinohara

明治維新を迎えて、再び小規模農家の没落と大規模営農システムの復活が始まる。農家は地租改正で税を現金で納めなければならなくなり、販売のノウハウがない農家は自分の農地を売り払い、小作人になっていった。大地主が小作人を使役し、まとめて販売・納税する大規模営農システムへと変質した。

2013-07-24 18:59:15
shinshinohara @ShinShinohara

しかし明治維新以後の大規模営農は、荘園と同じ問題を抱えることになった。京都に住む貴族が名前を貸すだけで収益を上げたように、地租改正後の大地主は都会に住むようになり、小作料を搾り取る「不在地主」になっていった。

2013-07-24 19:01:31
shinshinohara @ShinShinohara

戦前の農水省(農商務省)は、小作人から小作料を絞り取って都会で遊んで暮らす不在地主の問題に頭を痛めたが、不在地主は銀行の経営者だったり、権力が強い。小作人の窮乏を知っていても改善できないことを悔しがる役人も大勢いた。

2013-07-24 19:03:59
shinshinohara @ShinShinohara

絶好のチャンスが訪れる。敗戦によるGHQの支配である。「GHQの指導です」ということにして農地改革を断行、不在地主から安い値段で農地を買い取り、実際に作倍している小作人に安く譲り渡して、自作農化した。これにより、再び合い規模営農システムは壊れ、小規模農家の時代になった。

2013-07-24 19:05:54
shinshinohara @ShinShinohara

そして戦後から今日までに、小規模農家による農業の維持は困難になり始め、奈良時代の口分田の制度が崩壊して耕作放棄地が増えたのと全く同じように、現在も耕作放棄地が増えている。そこで再び、大規模営農システムに切り替えろ、という声が上がっている。そう、現代の「荘園化」なのだ。

2013-07-24 19:08:08
shinshinohara @ShinShinohara

なぜ大規模営農は永続せず、小規模農家による自作農化が繰り返されるのだろうか。それは荘園主や地主が寄生地主化して小作料を絞ることだけに熱心になり、生産性向上のための努力を払うことがなくなり、小作人は生産意欲を失って生産性が低下し、社会全体が低迷し、社会的矛盾が蓄積するからだ。

2013-07-24 22:00:09
shinshinohara @ShinShinohara

他方、小規模の自作農についても制度瓦解の歴史を繰り返している。口分田も戦後の農地解放もおよそ数十年で制度がぐらつき始めている。やや様子が違うのが江戸時代。「村請」で村単位の徴税をし、村の自治を極力認めたのが功を奏したのか、さほど極端な制度崩壊はしなかったようだ。

2013-07-25 12:23:41
shinshinohara @ShinShinohara

大規模営農は大規模営農の、小規模自作農は自作農の、制度疲労を繰り返している。ただ、江戸時代の村落共同体の自治を認めるやり方は、比較的小規模自作農のシステムを長続きさせる可能性がある。ただ、物流が激しく動く時代に江戸時代に戻ることも難しい。

2013-07-25 12:26:56
shinshinohara @ShinShinohara

アメリカの大規模営農が成立するのは、石油によって化学肥料、トラクターの燃料、農薬の使用が可能になるからだ。化石燃料が枯渇し始めればこのシステムも瓦解を余儀なくされる。その時代は果たしていつ訪れるのか。そう遠い話ではないかもしれない。http://t.co/UVAtJ7czNX

2013-07-25 12:29:12
shinshinohara @ShinShinohara

日本もアメリカにならって、農業の大規模化を進め、食糧増産に乗り出そうとしている。しかし日本は地形が山がちで大規模化にも限界があり、人でもその分必要になる。農業人口が大して減らなければ、アメリカと同様の所得保障制度を導入すると財政が持たなくなる。大規模化にも限界が見えてくるだろう。

2013-07-25 12:32:13
shinshinohara @ShinShinohara

日本の歴史では少なくとも3度、大規模営農(荘園、大地主)と小規模農家のシステム変更が起きている。現在は3度目の大規模営農システムへの変更が模索されていると言うことだ。ならば、大規模営農システムもおそらく過去の事例に近い失敗を迎えることになるだろう。歴史は繰り返すのだ。

2013-07-24 19:10:24