モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer III~
- IngaSakimori
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(秩父から回るルートもあるみたいけど……今日は大多磨経由なんだよな) 先頭を走るグロムが高速に乗れないことを考慮したわけではないが、地図だけで見るなら、八王子から長野県戸隠までの一般道オンリーの道のりは実に遠い。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:08:59まずは新滝山街道を進む。圏央道あきるのインターチェンジを右手に眺めながら、普段は左折する睦橋通りの交差点を、今日は直進する。 日中はとにかく流れが悪いこの道路も、早朝とあって車の姿はまばらだった。吉野街道へ入り、梅郷(ばいごう)の前を通過。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:09:23コンビニエンスストアに面したT字路では、国道411号線と再合流する。 「朝ご飯は食べてきましたわね、志智?」 「ああ」 五分ほどの小休止。さらに進むと、すぐに小河内湖が見えてくる。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:09:31午前八時にゲートオープンの大多磨周遊道路へ乗り込むには、まだ早い。 それでも明らかに『走る』ために来たと思われるスーパースポーツを湖畔に面した大麦代駐車場に見つける。よほどの早起きなのだろうか。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:09:57地図上では、小河内湖の北湖畔にあたる位置を走るのが国道411号線であり、大多磨周遊道路は南側になる。 西進。県境を抜け、山梨県に入ると一気に風景は緑深い━━別の見方をすれば、寂れたものになる。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:10:39点在する集落のあいだを糸が縫いとおすように、曲がりくねった411号線をひた走る。三人とも十分すぎる技量を備えているだけあって、荷物を満載していてもペースは速いままだ。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:10:51上り坂ではしばしばティックのグロムが失速するものの、それでも公道走行にはまったく問題ない程度のトルクを備えているのが125ccという排気量である。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:10:55何台かの先行車を抜き去り、丹波山の集落をスルー。 小河内湖の源流にあたる川が深い谷底へ見えなくなったかと思うと、真新しいトンネルが連続して現れる。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:11:07(横に行く道が……あれか。おいらん淵ってやつか) 脅かし半分にZRX1200の『おやっさん』が語ってくれた怪談を思い出す。もっとも、現在ではトンネルの開通にともなって、旧道自体が封鎖されているため、怪談の現場に近づくことは容易ではない。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:11:18長いトンネルを抜けると、一気に傾斜がきつくなった。 ヘアピンの先に枝分かれしているのは、笠取山登山道への小道だが、二輪にとっては基本的に縁のないものだ。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:11:27途中に集落をはさみながら、上り勾配が続く。 どこまで登るのかと思う頃に、路面は縦溝を切ったグルービング舗装へ切り替わり、そして唐突に木と山にさえぎられていた前方の空がひらけた。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:11:44「へぇ……」 「ここで休憩しましょう」 柳沢峠。いかにも峠の最高地点というその駐車場からは、うっすらと雲にかすんだ富士山が見える。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:11:53その先は一気に甲府盆地へむけて下っていく。 勝沼から国道20号のバイパスへ入り、甲府市の中心部を突き抜ける。 ぎりぎり通勤時間の終わるころにさしかかっていたが、片側二車線の道路だけあって、二輪にとってストレスを覚える交通状況ではない。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:12:13道路が片側一車線に戻る頃には、日本の田舎らしいのどかな風景が眼前に広がっていた。 韮崎を抜け、諏訪、塩尻へ至るころには太陽がもっとも高い位置へやってくる。 ざるそばに舌鼓をうち、国道19号を一気に北上。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:12:25善光寺を外観だけ眺めて、夕食の買い出しを済ませると、戸隠バードラインを北上する。 徐々に秘境めいた景色が広がり、太陽の傾きと共に肌寒さをおぼえるころ、三台のモーターサイクルは目的地のキャンプ場へ到着した。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:12:34「さてと。ティック。 テントの設営は任せましたからね」 「うん、わかった。あの、お兄さん、手伝ってもらえますか?」 「ああ……だけど、俺はやり方とかは分からないぞ」 「簡単ですから~」 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:13:35グロムのタンデムシートへ満載された荷物をおろすと、ティックは何か『骨』のようなものを地面に並べ始めた。 志智がたずねるとテントのフレームにあたるものだという。興味深そうに眺めていると、今度は『骨』の上に一枚、二枚と布をおおいかぶせている。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:13:44「お兄さん、そっち側持って下さい」 「こうすればいいのか?」 「はい。いきますよ……いち、に、さんっ」 地面に並んでいたフレームが立ち上がると、そこには一軒のロッジのようなテントがすでに完成している。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:14:08「おお」 その光景は志智からすると、魔法のように見えた。感嘆の声と共に、おもわず手を叩いてしまう。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:14:21「あとは地面に固定しますから、これをハンマーで地面に打って下さい」 ティックから渡されたのは、『杭』のようなものだった。テントの四隅のフレームへ引っかけて、固定するように地面へ打ち込んでいく。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:14:34振り向くと、ティックは小さな体で何かロープのようなものを引っ張っては、近くの木に巻き付けている。 「それ……大丈夫か? 一人で」 「大丈夫ですよ~。こうやって、ロープで固定すると、急に天気が荒れてきても平気なんです」 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:14:48「へえ」 テントの入り口には『ひさし』のような覆いがあった。タープというらしい。その下へ亞璃須のXR650Rに積まれていた椅子やテーブルを並べていく。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:15:04「はー……すっかりそれらしくなったな……」 あとはテントの中に寝袋があれば、それだけで何日も過ごせてしまいそうだった。志智の目からみると、ほんの数十分の間に、家が一軒建ってしまったようなものだ。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:15:27「すごいな、これ」 「お兄さんキャンプするの初めてなんですよね。慣れると楽しいですよ」 「いや、今の時点でものすごく楽しいよ」 亞璃須はというと、コンロを組み立てると、折りたたみ式のバケツに水をくみ、野菜を洗い始めていた。 #mor_cy_dar
2013-07-25 10:15:36