ギリシア語で読むギリシア神話 番外編 「天空」と「万人」のアプロディーテ
- Hellenike_tan
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今回は前置きというより言い訳が…
【二種のアプロディーテー】いわゆる「天空の~」と「万人の~」と呼ばれる「二種類のアプロディーテー」というお話。普通の神話叙事詩類に掲載されているものではなく、哲学者たちが言い出した話なので、なかなか取り上げにくい話ではあります。(続きます)
2013-08-02 13:30:18(承前)しかも、これを取り上げているのが、よりにもよってプラトンの『饗宴』だというところが更に微妙です。『饗宴』のテーマは「エロース」と「少年愛」―と書いただけで、「誤解を招かない説明」ができるのかと頭が痛くなってきます。(なお、『饗宴』は実は興味深い本です)
2013-08-02 13:35:13(承前)と悩ましいところではあるものの、一度は取り上げておきたい話でもありますので、「8月最初のウェヌスの日」を期して連続ツイートしていきます。該当箇所は、『饗宴』の180Dから180Eにかけてです。
2013-08-02 13:40:15開き直って(?)本題に入りました。
【アプロディーテーとエロース】"πάντες γὰρ ἴσμεν ὅτι οὐκ ἔστιν ἄνευ Ἔρωτος Ἀφροδίτη. μιᾶς μὲν οὖν οὔσης εἷς ἂν ἦν Ἔρως:"
2013-08-02 14:00:30(承前)"πάντες"は「全員が」、"ἴσμεν"は"οἶδα"(知っている)の直説法過去完了一人称複数能動態。"ὅτι"以下が従属節です。"οὐκ ἔστιν"は「何もない」、"ἄνευ"は「~なしで」という意味の属格支配前置詞です。(続きます)
2013-08-02 14:05:15(承前)"οὐκ ἔστιν ἄνευ Ἔρωτος Ἀφροδίτη"は「エロースなしではアプロディーテーもない」という意味で、"πάντες γὰρ ἴσμεν"はこのことを「我々みなが知っている」という意味になります。(続きます)
2013-08-02 14:10:14(承前)"μιᾶς"は"εἷς"(一つ)の女性形単数属格、"οὔσης"は"εἰμί"の現在分詞女性形単数属格で、両者の組で「一つある」という意味です。"εἷς ἂν ἦν Ἔρως"は「エロースは一つである」という意味です。(続きます)
2013-08-02 14:15:16(承前)"μιᾶς οὔσης"の女性形単数属格の組は、文脈から「アプロディーテ-」を指しているのは明らかです。つまり「アプロディーテーが一柱であるならばエロースも一柱である」となります。
2013-08-02 14:20:13【実は二柱】"ἐπεὶ δὲ δὴ δύο ἐστόν, δύο ἀνάγκη καὶ Ἔρωτε εἶναι." 「しかし実は二柱あるため、必然的にエロースも二柱ある」という意味です。
2013-08-02 14:30:16「天空のアプロディーテ」について
【ウーラノスの娘=「天空の」】"πῶς δ᾽ οὐ δύο τὼ θεά; ἡ μέν γέ που πρεσβυτέρα καὶ ἀμήτωρ Οὐρανοῦ θυγάτηρ, ἣν δὴ καὶ Οὐρανίαν ἐπονομάζομεν:"
2013-08-02 15:00:33(承前)"πῶς"は「どのように」。"οὐ δύο τὼ θεά"は「女神が二柱でない」。疑問符までは「どうして女神が二柱ではないか?」ですが、文脈からは「でないといえようか」という反語ととるべきでしょうね。(続きます)
2013-08-02 15:05:15(承前)"πρεσβυτέρα"は「年長の」、"ἀμήτωρ"は「母がない」で、"Οὐρανοῦ θυγάτηρ"は「ウーラノスの娘」です。"ἐπονομάζομεν"は"ἐπονομάζω"(~と呼ぶ)の直説法現在一人称複数能動態です。(続きます)
2013-08-02 15:10:16(承前)以上全体で「どうして女神が二柱ではないといえようか。その一柱は年長で母のないウーラノスの娘、"Οὐρανία"(天空の)と我々は呼んでいる」という意味になります。
2013-08-02 15:15:13「万人のアプロディーテ-」について
【ゼウスとディオーネーの】"ἡ δὲ νεωτέρα Διὸς καὶ Διώνης," ここまでが「180D」とされます。"νεωτέρα"は「年少の」、"Διὸς καὶ Διώνης"は「ゼウスとディオーネーの」という意味で、"θυγάτηρ"(娘)は省略されています。
2013-08-02 15:30:17【万人の】続く「180E」の冒頭は"ἣν δὴ Πάνδημον καλοῦμεν."。"καλοῦμεν"は"καλέω"(呼ぶ)の直説法現在一人称複数能動態で、「"Πάνδημος"(万人の)と我々は呼ぶ」という意味です。
2013-08-02 15:35:16両者をつなげると、「もう一柱は年少でゼウスとディオーネーの娘、"Πάνδημος"(万人の)と我々は呼んでいる」となります。
2013-08-02 16:00:20「エロース論」への回帰
【本題=エロースの件】"ἀναγκαῖον δὴ καὶ ἔρωτα τὸν μὲν τῇ ἑτέρᾳ συνεργὸν Πάνδημον ὀρθῶς καλεῖσθαι, τὸν δὲ Οὐράνιον."
2013-08-03 00:05:15(承前)"ἀναγκαῖον"は「必然的な」、"ἔρωτα τὸν"は"ἔρως"の対格に男性単数対格の冠詞が続き、「(冠詞以降)であるエロースを」となります。"τῇ ἑτέρᾳ"は女性形単数与格で「片方に」です。(続きます)
2013-08-02 16:05:17(承前)"συνεργὸν"は"συνεργός"(協力者)の単数対格です。"Πάνδημον ὀρθῶς καλεῖσθαι"は「"Πάνδημος"(万人の)と直接呼ばれる」という意味です。(続きます)
2013-08-02 16:10:14(承前)"τὸν δὲ Οὐράνιον"は同じ文に"Οὐράνιον"が代入されます。全体で「必然的に、一方の協力者で"Πάνδημος"(万人の)と呼ばれる方と、他方の協力者で"Οὐράνιος"と呼ばれる方のエロースを区別しなければならない」という意味になります。
2013-08-02 16:15:14