艦これSS ある戦艦と提督

深夜に書き上げたSSです。暗い話と結末に注意。
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高峯みやび @sukamelancholy

通信機越しに聞こえた爆発音。ノイズ交じりの通信。かすれた声。それはいつも提督の周りで元気に笑っていた彼女と同じとは思えなかった。 続いて、彼女の名前を呼ぶ仲間の悲鳴。水の音と共にノイズが増していく。 彼女の名前を呼べども返事は無い。 彼女は、ヴァルハラという場所へ行ったらしい。1

2013-08-11 03:35:45
高峯みやび @sukamelancholy

数時間後、祈るように司令室で彼女達の帰還を待っていた提督に、ボロボロになり涙を流した彼女達が、出撃戦果の報告書を提督に提出する。 無言で提督はそれを読み、装備の修理と治療を命じる。 報告書に何も言わない提督に文句を述べる者も居た。しかし、それは意味がないと悟ると、退室した。2

2013-08-11 03:39:06
高峯みやび @sukamelancholy

提督は遠い海の水平線を眺める。ここから遠い海の底、深海に、きっと彼女は居るのだろう。ヴァルハラとは、深海の事だったのだろうか? 日は暮れて夜になり、提督は彼女の言葉の意味を知ろうと資料室に足を運んだ。 ヴァルハラとは、戦死者の館という意味のようだ。 提督はその場で膝を付き叫ぶ。3

2013-08-11 03:42:01
高峯みやび @sukamelancholy

翌日。提督は変わらぬ表情で主力の第一艦隊、遠征艦隊に出撃命令を下す。 昨日と何も変わらない命令。何も起きていなかったかのように、日常は始まる。 しかし、誰も提督を責める者は居ない。昨夜の慟哭は、彼女達全てが耳にしていたからだ。 使われる事の無くなったティーセットが、鈍く光る。4

2013-08-11 03:44:50
高峯みやび @sukamelancholy

約一週間後。主力の第一艦隊からの緊急通信が入る。以前制圧した海域に、未確認の超弩級型深海凄艦が出現。高速で規格外の火力を持つという。 提督は、その通信をすぐさま本部に報告。第一艦隊に撤退命令を下す。 提督は重い溜息を零す。 ……その海域は、彼女が沈んだ海域だった。5

2013-08-11 03:48:58
高峯みやび @sukamelancholy

帰還し、治療を終えた第一艦隊との緊急会議。彼女らの証言によると、未確認の超弩級型深海凄艦は、間違いなく戦艦であり……。 そこで彼女の妹、三女は言葉を濁す。提督は続きを促した。 超弩級戦艦型深海凄艦は、姉に酷似していた、と涙を流しながら報告した。 悪い予感はまた、当たった。6

2013-08-11 03:52:19
高峯みやび @sukamelancholy

長い沈黙の後、提督は漸く口を開く。 先ほど本部からの命令が下った。 『超弩級戦艦型深海凄艦ノ存在ハ脅威デアリ、早急ニ駆逐スル事ヲ命ズ』 続いて、提督は彼女達に告げる。 明後日、超弩級戦艦型深海凄艦の駆逐作戦を決行する事。その為に明日は休息とし、英気を養うように、と。7

2013-08-11 03:56:47
高峯みやび @sukamelancholy

本来ならば明日、すぐに駆逐作戦を開始しなければならないかもしれない。だが、敵は一週間前に沈んだ彼女に酷似しており、精神的動揺も大きい。 彼女達は兵器と変わらないが、人間だ。心を持ち、感情もある。 一日の時間を使い、心の整理をつけてからでも遅くは無い。提督はそう判断した。8

2013-08-11 03:58:36
高峯みやび @sukamelancholy

――作戦決行日。 今持てる最大の装備を持ち、第一艦隊は脅威となっている超弩級戦艦型深海凄艦を撃滅する為、出撃した。 少々遅れて、駆逐艦五隻、そして提督の乗るイージス艦が後を追うように出撃した。 戸惑う駆逐艦の彼女達を説得し、提督は海へ向かう。 この目で、確認する為に。9

2013-08-11 04:02:16
高峯みやび @sukamelancholy

硝煙の匂いと、何度も立ち上る水柱。そこはまさしく戦場であり、今居る自分は全くの場違いに感じた。 目標の超弩級戦艦型深海凄艦一隻と交戦する第一艦隊は苦戦しており、既に装備が故障している者も居た。 提督は、戦場に近づくよう命令を下した。 危険を伴うが、まだこの目で確かめるまでは。10

2013-08-11 04:06:43
高峯みやび @sukamelancholy

近づいてくる提督と駆逐艦に気付いた次女は何故ここに居るのかを責める。 すまない、と提督はそれだけを返す。 続いて四女は戦闘の邪魔であると提督に叫ぶ。 すまない、と提督はそれだけを返す。 それでも前進する。そして、漸く見えた。 目標の超弩級戦艦型深海凄艦は、彼女と瓜二つだった。11

2013-08-11 04:09:46
高峯みやび @sukamelancholy

目は赤く、髪色も身体も白色。だが、瓜二つであった。 目標の彼女も第一艦隊に苦戦しているのか、ところどころ装備が壊れており、殺意を剥き出しにして砲弾を撃つ。 提督は黙って戦場を間近で見守る。 ……そして、第一艦隊の攻撃により大きなダメージを受けた目標は活動を停止する。12

2013-08-11 04:13:23
高峯みやび @sukamelancholy

無力化には成功した。しかし、深海凄艦は時が経てば傷は癒えて復活する。 今ここで確実な止めを刺さなければならない。 だが、その止めを誰もやろうとはしなかった。 砲撃音と硝煙にまみれた戦場が、静寂を取り戻す。 力を失い、うなだれる目標……彼女を、提督は片時も目を離さなかった。13

2013-08-11 04:15:35
高峯みやび @sukamelancholy

不意に、彼女は面をあげた。血の色に染まったその目は、提督の姿を映し出す。 両者共に見つめ合い、そして、また彼女はうなだれる。 その様子を見ていた三女は、静かに告げる。 ……目標の攻撃命令を。 四姉妹の中でも特に彼女と仲がよかった三女は、自ら進んで攻撃命令を仰いだ。14

2013-08-11 04:20:38
高峯みやび @sukamelancholy

変わらず、提督は彼女を見つめたまま、命令を下した。 ……目標、超弩級戦艦型深海凄艦を撃滅せよ。 命令を受けた三女は、ゆっくりと主砲を彼女に向ける。 その時、三女が何かを言っていたようだったが、聞き取れなかった。 砲弾は、彼女に命中。 再度、彼女は深海へと沈んでいった。15

2013-08-11 04:23:04
高峯みやび @sukamelancholy

作戦は成功。通信で本部に報告し、第一艦隊、駆逐隊、提督の乗るイージス艦は帰投。 沈黙に包まれたまま、装備の修理と治療に入っていった。 提督は誰も居ない司令室に入り、腰掛ける。 静寂に包まれた司令室。果たして、自分は間違った事をしていたのかと、自問する。16

2013-08-11 04:26:05
高峯みやび @sukamelancholy

しかしそれは考えるまでも無い。 彼女はヴァルハラとやらへ行った。 彼女に似たモノは深海へ沈んだ。 任務は達成した。それだけの事だ。何もない。答えなど最初からない。 提督は辞令書を取り出し、ペンを走らせる。 一二〇〇ヲ持ッテ武装解除ヲ命ズ。 皆、今後ハ女トシテ生活スル事ヲ命ズ。17

2013-08-11 04:30:43
高峯みやび @sukamelancholy

軍規もクソもない、ただの我儘な、辞令にもなっていない辞令書。 だがこの鎮守府の最高責任者は提督である。彼女達の使命をここで終わらせる権力も、持っているのだ。 提督の胸に光る階級の勲章が、それを物語る。 ともかくこれで思い残すことは何も無い。 もう一度提督は彼女が眠る海を見る。18

2013-08-11 04:32:56
高峯みやび @sukamelancholy

一度も使用する事の無かった自動拳銃の撃鉄を起こし、自らの頭にそれを当てる。 誰に言うでもない、すまないの言葉を飲み込み、沈黙のまま、引き金を引いた。19

2013-08-11 04:35:58
高峯みやび @sukamelancholy

死は何も無い。魂など在りはしない。 天国も地獄も極楽浄土も、ヴァルハラも。 全ては人間が作り出した幻想。 死は無でしかない。 だが、もしもあるとしたら。 ……眩しい光の中、いつも見せていた彼女が、愛しい彼女が、手を伸ばしている。 提督はその手をしっかりと握った。20

2013-08-11 04:38:43
高峯みやび @sukamelancholy

提督「……うわああああああっ!!?」 金剛「What happened!?」 提督「ハァ、ハァ」 金剛「提督?」 提督「…………」 金剛「?」 提督「……よかった、夢で、よかった……」 金剛「どうしましタ?」 提督「……いや、悪い夢を見ただけだ」 #提督と金剛四姉妹

2013-08-11 04:41:13
高峯みやび @sukamelancholy

皆嫌いな夢オチにしてごめんね

2013-08-11 04:41:35
高峯みやび @sukamelancholy

あー なんかずっと誤字ってる 深海凄艦じゃないよ深海棲艦だよ

2013-08-11 04:47:47
高峯みやび @sukamelancholy

まぁあれよね 中破したら即撤退 疲労度は回復してから出撃を遵守しようね

2013-08-11 04:50:22