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【twitter小説】イミルアの心臓#3【ファンタジー】

観光客のフィルとレッドは忘れ物が眠る館、遺失物の館を訪れますが、そこで……。小説アカウント @decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
書籍 文学 Twitter小説 減衰世界 ファンタジー
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減衰世界 @decay_world
 がらくたが辺りを取り囲む小さい部屋でフィルとレッド、シンクアイ、そして市長はしばらくにらみ合いを続けていた。市長は鎧から飛びだした2本の刃を掲げながら、ゆっくりと近寄る。刃は魔法で淡く緑に光っている。 63
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 フィルのマフラーも、あの刃の前では容易く切り裂かれてしまうだろう。そのときシンクアイが二人の間を割って前に出てくる!  「わたしが相手だ!」  しかしシンクアイもまた丸腰なのだ。 64
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「おい、危ないぞ!」 「大丈夫、ちょっとはすばしっこいから」  そう言ってシンクアイは振り向き、ウィンクをした。市長はもはやすぐそこまで来ている。シンクアイは一瞬の隙を縫って足元に飛び込む!  65
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「勇気だけはあるようだなッ」  市長は刃を恐ろしい速度で振り下ろす! だがシンクアイは器用にそれを避け、背後に回り込んだ。刃の先はがらくたを切り裂いただけだった。悲鳴のような音が響く。 66
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「な、なんだこの声は」 「がらくたは未練の塊よ。大切にされながらも主人の元を離れたがらくたたち、それをあなたは切り裂いたのよ」  がらくたの切り口から虹色の糸が噴き出す!  67
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「がらくたの怒りを思い知りなさい!」  シンクアイは市長を後ろから羽交い締めにして動きを止めようとする。がらくたたちは目覚めたように虹色の糸を纏い四方から襲いかかる! 68
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「何故だ、モーターが動かない……やめろ、近寄るな!」 「シンクアイさん!」  フィルはシンクアイに逃げるように促す。だが、彼女は首を横に振った。 「イミルアを……頼みます」 69
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 市長はぎこちなく刃を振り回し糸を切り裂こうとする。だがその刃にも虹色の糸は絡みつき、やがて動かなくなった。市長と、それを押しとどめたシンクアイの上に大量のがらくたが虹色の糸を絡ませながら覆いかぶさっていく。 70
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 そして、後に残ったのはがらくたの山だった。虹色の糸は光を失い蜘蛛の糸に変化していた。レッドは掘り起こしてみようとするが、密度が高く動かすことは出来なかった。 「しょうがない、イミルアを探そう」 71
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 フィルはまだ未練があるレッドの腕を引っ張り、さらに館の奥へと足を踏み入れた。がらくたが積み上がった立体迷路。しかし、それまでと違い迷路には微弱な振動が感じられた。館が目覚めようとしているのか……二人は、地下へ地下へと潜っていった。 72
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 フィルとレッドは闇の中螺旋階段をずっと降りていった。進む方向は完全にカンに頼っていたが、何か導かれるようなものを感じるのだ。やがて二人は壁や床がセラミックプレートで覆われた部屋へと辿りついた。 73
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 シャワーのノズルやバルブがたくさん壁に設置されている。どうやらお風呂場のような感じがする。空になった湯船が朽ちて転がっていた。レッドは部屋の奥に人が立っているのに気付き、どきりとする。 74
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 部屋の奥に立っていたのはカラールだった。湯船の一つを見つめたままじっとしている。フィルはカラールに声をかけた。するとカラールはゆっくり振り返って微笑む。 「やぁ、君たちも来ていたのか」 75
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 フィルとレッドはカラールに近づいてみる。カラールの目の前にある湯船……はたしてその中には……一人の美女がその身を横たえていた。ボロ切れのようなドレスを身に纏い、手を組んで死んだように眠っている。 76
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「このひとがイミルアかい?」  フィルはカラールに問うてみた。カラールは黙ってゆっくりと頷く。そしてイミルアの胸を指差した。指差した先、彼女の胸はパズルのピースが抜け落ちたように四角くパーツが抜け落ちていた。 77
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「彼女には心臓が無いんだ」  そう言って肩をすくめた。カラールはイミルアを探してこの館へと来たという。しかし、心臓が無くては意味が無い。そうどこかもの哀しい顔で言った。イミルアの顔は蝋人形のように生気が無かった。 78
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「カラール、そう言わずに持って帰ってくれよ。いま大変なことになってるんだ」  レッドはカラールに市長の暴走を告げた。しかしカラールは困った顔をするばかりだ。頭を振りイミルアに背を向ける。 79
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「僕はイミルアの人形が欲しいんじゃない。イミルアの心が欲しいんだ。この館のどこかにあるはずだ。僕の忘れ物……」 80
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 イミルアとカラールは同じ街に生まれ、幼い時を共に過ごし、将来を誓い合った仲だった。しかしイミルアの美しさに惹かれたたくさんの男たちが彼女につきまとう。イミルアはそれが嫌で、いつも悩んでいた……。 81
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「そしてイミルアはある日の夕暮れ、突然姿を消してしまったんだ」  カラールはイミルアのことを語ってくれた。そのときの出来事は今でも詳細に覚えているという。イミルアは夕暮れの中カラールと歩いていた。 82
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「ねぇ、カラール。二人だけでどこか遠くへ行きたいね」 「うん」  幼い二人はそんな夢をいつも語り合っていた。暗くなってきた夕暮れの道、街灯が闇を照らしはじめていた。 83
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「でも最近誰かが囁くんだ。遠くにいけるのは一人だけだって。静かで安らげる場所には、私しか行けないって」 「どういうこと?」  イミルアは一人駆けだして、街灯から外れ少し暗くなったところで立ち止まった。 84
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「みんな私を忘れた方がいいの。そのほうが……みんな幸せに暮らせるから」  彼女は夕暮れのさらに深い闇を見つめながら言う。 「嫌だよ。そんなの。僕は忘れないよ」  イミルアは振り返って、笑ったような気がした。それは夕闇に包まれ良く見えなかった。 85
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