能川元一さん(@ nogawam)による「朝鮮人虐殺から『在特会』への記憶の連鎖」についての補足

「朝鮮人虐殺から『在特会』への記憶の連鎖」(『週刊金曜日957号)について、著者の能川元一さん(@nogawam)自身によるツイッターでの補足情報をまとめました。
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能川元一 @nogawam

さらに赤池は、震災直後に「鮮人暴動」の噂を聞いた際の自身の反応をこう記しています。「余は其瞬間に一部不逞鮮人は必ず不穏計画や暴挙を行ふだろうが、大部分の鮮人が団結連絡して組織ある暴動をなすが如きは断じて無いと思ふた」、と。この一節で赤池が目論んでいるのは次のようなことです。

2013-09-01 21:42:52
能川元一 @nogawam

まず、否定し尽くせない朝鮮人虐殺を、一時的にパニックに陥った被災民の所行として矮小化するだけでなく、そうしたパニックには現実的な根拠があったのだとして合理化すること。その一方で、「不逞鮮人」はあくまで少数派であったと強調すること、です。

2013-09-01 21:46:34
能川元一 @nogawam

日本による朝鮮半島の植民地支配を「恩恵」だとする立場からすれば、植民地支配を受け入れない朝鮮人はあくまで少数派であるとしなければならないわけです。とはいえ、植民地支配への抵抗を過少評価しすぎてしまうと今度は「鮮人恐怖の理由」が虚構に等しいということになってしまう。

2013-09-01 21:50:12
能川元一 @nogawam

虚構に等しい「鮮人恐怖の理由」に日本人が踊られたということになれば、「大国民の襟度」というセルフイメージは毀損されてしまうことになります。それ故に、赤池は“暴挙を企てた朝鮮人はあくまで少数だが、その脅威は現実的だった」という綱渡り的な主張をせざるを得なかったわけです。

2013-09-01 21:54:01
能川元一 @nogawam

韓国・朝鮮人についてのこのような自家撞着的な認識は、今日の「嫌韓」言説にも共通するものです。排外主義的右派は「韓国人は世界中で嫌われている」と主張しつつ、同時に韓国人が「慰安婦」問題について世界中を洗脳していると主張しています。

2013-09-01 21:58:24
能川元一 @nogawam

「韓国人の主張を支持するのは国際社会では少数派だ」と一方では言いながら、なぜか「慰安婦」問題については国際世論が韓国人に牛耳られているという矛盾した主張をせざるを得なくなっているわけです。

2013-09-01 21:59:51
能川元一 @nogawam

赤池のような治安官僚が「不逞鮮人はあくまで一部」と強調することの意味はもう一つあります。朝鮮人を弾圧する為なら、「朝鮮人のほとんどは不逞鮮人」とした方が有効じゃないのか、と思われるかもしれません。しかしながら……

2013-09-01 22:04:07
能川元一 @nogawam

「朝鮮人の大部分は不逞鮮人」だと治安当局が宣言してしまえば、治安当局としてはジェノサイド的な政策を提言するほかなくなります。これは国際的にも、国内的にもリスクとコストが高すぎる選択になります。

2013-09-01 22:05:26
能川元一 @nogawam

これに対して、「不逞鮮人は少数派である」とすれば、「朝鮮人」に対して踏み絵を踏ませることができるわけです。おとなしく植民地支配を受け入れるならば「不逞鮮人」認定は回避できるぞ、と。

2013-09-01 22:07:40
能川元一 @nogawam

この「踏み絵を踏ませる」という発想が今日の日本政府にも継承されていることは、昨今の朝鮮学校に対する日本政府の態度をみれば明らかでしょう。

2013-09-01 22:08:33
能川元一 @nogawam

赤池が朝鮮人虐殺を、被災民の「一時的」なパニックに帰責している点については、もう一つの論点があります。史実としては、朝鮮人虐殺が起こった大きな要因として、治安当局の秩序維持の意志がありました。すなわち、「震災に乗じて不逞鮮人が暴動を起こすはず」という予断があり、

2013-09-01 22:12:49
能川元一 @nogawam

その予断ゆえに軍官憲がデマの伝播に加担したり、自警団を煽動したり、さらには軍官憲が直接朝鮮人虐殺に手を染める、という行動に至ったわけです。

2013-09-01 22:14:38
能川元一 @nogawam

しかし治安当局としては、仮にも帝国臣民であった朝鮮人の虐殺という不祥事が、よりにもよって「治安維持」志向の権力によるものであったということは絶対に認められないことだったわけです。

2013-09-01 22:16:25
能川元一 @nogawam

これに対して、秩序の混乱の結果として生じた虐殺であれば、治安当局は(必要に応じて矮小化した上で)認めることができます。なぜなら、秩序の混乱の結果として虐殺が生じたという事実は、治安維持権力の正当化のために利用できるからです。

2013-09-01 22:17:58
能川元一 @nogawam

横浜市の副読本において「虐殺」という表現とともに軍、警察の関与が攻撃の対象となったことも、こうした文脈において理解することができます。統治者サイドにとって、「混乱」の結果として虐殺が起こったという歴史記述は容認可能なのです。

2013-09-01 22:20:12
能川元一 @nogawam

しかしながら、治安を維持しようとする意志が虐殺を引き起こした、という歴史記述は公安警察的な発想そのものを揺るがしかねないものであるが故に、統治者にとっては極力排除すべきものとなるわけです。

2013-09-01 22:21:44
能川元一 @nogawam

本日はこれまで。『週刊金曜日』の次号が発売された時点で、また補完ツイートを行なう予定です。現在販売中の957号に掲載の拙稿、ご笑覧いただければ幸いです。

2013-09-01 22:23:37