【twitter小説】砂の魚#4【幻想】

砂漠で釣りをしている一人の男。水も無いのに彼はなぜ……? 不思議な男の物語。小説アカウント @decay_world で公開した物語です。この話はこれで終わりです
Twitter小説 減衰世界
rikumo 481view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:20:42
     レジルとミレウェは約束の日まで観光を楽しんだ。このオアシスはたくさんの甘い果物があり、食べ物もスパイスが効いていておいしい。だが、やはり頭の中からクローキのことが離れることは無かった。 77
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:27:22
     二人は旅の中でたくさんの人たちに出会ってきた。彼らの夢が果たされる時もあったし、果たされない時も同じようにあった。ただ魚を釣るだけだ。釣るだけのことに彼は全てをかけているのだ。 78
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:33:07
     夢が果たされても、一匹の魚が釣り上がるだけ。だが、レジルはそこに込められた思いを感じずにいられなかった。それはミレウェも同じだった。そして……約束の日が来た。レジルとミレウェは宿で眠りについている時だった。 79
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:38:44
     レジルとミレウェのオアシス滞在もまた最終日を迎えた。二人は今日この街を去りさらに南……竜芽山脈を越えて新たな街を目指すのだ。窓辺には極彩色の鳥がとまり、朝の歌声を響かせている。東向きの窓から朝日が差し込み、レジルの顔を照らした。 80
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:43:05
     ミレウェは美しい寝顔で隣に横たわっている。レジルはゆっくりまぶたを開き、腕を伸ばし伸びをした。今日も一日が始まる。何気ない普通の一日が。レジルはベッドから起き上がり、コンロにポットをかけた。紅茶でも飲もうとした、その時だ。 81
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:49:36
     ズズーン……と遠くから振動が響いてくる。地震だろうか? レジルはコンロの火を止める。続いて数回の地鳴りが響き、窓を揺らした。ミレウェも起きたようだ。目をこすりながらベッドから起き上がる。 82
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 20:56:50
    「レジル……これは……」  ドーンと大きな振動が響いた! レジルは窓を開け街の外を見渡した。鳥が驚いて街のあちこちから飛びあがる。レジルは街の外、森の中に土煙を見た。あの場所は……。 83
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:03:57
    「クローキのいた場所じゃない?」  ミレウェがレジルの後ろから外を見る。確かにあの森の場所から土煙が上がっている。そして土煙の奥に……何か巨大な影が見えたのだ! 84
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:09:24
    「やったんだ……彼はやったんだ!」  レジルは急いで着替え始めた。ミレウェもそれに続く。宿を飛びだすと、街のひとがみな外に飛び出し土煙を眺めていた。 「砂の……魚……」 85
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:13:21
     今や土煙の向こう側にぼんやりとその巨体が見えるようになっていた。砂のような黄色い鱗に三角形の頭、鰭は長く極彩色に染まっている。そう、巨大な……森をひと飲みするような巨大な影が砂を巻き上げ踊っていた。 86
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:18:08
     そしてその巨大な魚は大きく身をよじると、空高く跳ね上がった! 七色の鰭を翻し、空中を泳ぐ。目指す先は……領主の庭だ! 魚は眠りから覚め、水を求めていた。水にめがけて、彼は空中を泳いだ。 87
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:23:47
     魚が空中を舞うと、その跡は七色の虹になった。俄かにさらさらとした雨がオアシスに降り注いだ。街のひとは魚だ、魚だと大喜びで雨に打たれている。魚は、そのエメラルドグリーンの大きな目で銀色に揺れる小さな水面を見つめていた。 88
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:28:46
     そして、魚は領主の池をひと飲みにする……。 89
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:34:51
     領主は轟音で眠りから覚めた。豪奢な寝間着をひっかけたまま、彼は裸足で館を駆けた。 「何事、何事だっ! 何が起こった!」  館の警備員が武装し彼に付き従う。 91
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:39:42
     門を開き、庭に飛び出す。領主は呆然とした顔で庭を見るしか無かった。警備員たちは絶句している。広く大きく、豊かな水をたたえていたはずの池が……一滴の水も残さず渇きひび割れた泥の底を見せていたのだった。 92
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:43:31
     領主は力なくへたり込み、呆然と呟いた。 「水が……水が無くなってしまった。水が……」  池を中心として周辺の土が次々と乾いていき、草木が萎れていく。その光景を領主はただ見ていることしかできなかった。 93
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:48:14
     数年が過ぎた。レジルとミレウェは旅を終え、帝都に居を移した。そんなある日、レジルは新聞の記事にオアシスのその後を見つけたのだ。オアシスの外周に新たな水源が出没し、オアシスの規模は数倍になったという。 94
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:50:48
     レジルは新聞を読みながら椅子に座っていた。そばのテーブルには温かいコーヒー。ミレウェが淹れてくれたものだ。ミレウェはこの新居の窓から外を望遠鏡で眺めている。 「レジル、眺めのいいとこね。ここに家を買ってよかったよ」 95
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:54:10
     コーヒーの香りが新居の新しい匂いと混じって心地よかった。レジルは新聞の続きを読む。そこには昔の領主の話も載っていた。何でも、あの後領主の水源は逆に枯れてしまい、領主は破産したというのだ。 96
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:56:34
     オアシスは活気に満ち溢れ、豊かな水源を利用し果樹栽培を拡大させているらしい。そういえば砂の魚は水を食らうという。あのとき森に潜んでいた魚が領主の土地へ移動し、水を吸い尽くしてしまったのだろうか。 97
  • 減衰世界 @decay_world 2013-09-02 21:59:04
     あの後街を出るまでクローキに会うことは無かった。彼は約束通り魚を釣り上げたのだろうか、それとも偶然だろうか。それは分からなかった。ただ、彼が信じた魚はいた。それだけは確かだ。彼はきっといまでも魚を釣っているだろう。 98

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