友野詳氏の「シャハルサーガ 第4部」 全部入り版
シャハルサーガというのは、ツイッター上で、趣味でゆっくり書いてる、ルナル世界第三の大陸を舞台にした小説です。物語の区切りで、みなさんに投票してもらって多数の票があったほうの続きを書く、という変なノベル。こっちのアカウントでやってます> @syahalsaga
2013-08-28 22:42:45@maricom15 いえいえ、好きな作家の話をする時、ふつうの読者さんは、敬称とかつけないものだよ思います(^^)。あ、ルナルといえば、別の大陸、別の時代の話を、趣味で書いているので、お暇な時にでも、この別アカウントを> @syahalsaga
2013-09-04 00:34:44またもやお待たせしました。24対27で、主人公は、エルファの女の子となりました。シャハルサーガ第四部の開幕です。10時ごろから更新いたしますので、しばしお待ち下さい。 #シャハルサーガ雑記
2013-09-13 20:16:12長らくお待たせしました。シャハルサーガ、第四部の開幕です。主人公は、森の民エルファ族の少女、ソフィア・ラウンドアイ。彼女は、養父の盟友であるとある女性の依頼で、はるか海を渡り、マーディール大陸に渡ってきました。 #シャハルサーガ雑記
2013-09-13 22:11:06これまでの第一部から第三部までとは、ラストで合流することを目指しています……が、それもこれも、まあみなさんの選択次第であります。それが選択肢ノベルたる、シャハルサーガの宿命。ともあれ、エルファの密偵少女の冒険を、一緒に作ってやってください。 #シャハルサーガ雑記
2013-09-13 22:11:20第4部 第1夜
マーディール大陸の北領域には、森が広がっている。地峡砂漠を越えたあたりは、まだまだ広葉樹だが、さらに北へ向かうと針葉樹が増えてくる。最北には、一年のなかばが雪に覆われている地域もあった。 #シャハル4 1
2013-09-13 22:12:12黒みを帯びた太い木々と、細い葉が、雪にくるまれた森に、ひとりの少女が姿をあらわした。人間としても小柄、エルファとしてなら、まだ幼児とも見える背丈だ。しかし、横に広がったとがった耳の形は、すでに成人しかけている年齢のもの。 #シャハル4 2
2013-09-13 22:12:27防寒服でふくれあがった少女は、森の入り口で、雪の中にひとりたたずんでいる。いや、彼女の足もとに、ころころした小さな影がもうひとつ。白と灰色の毛皮につつまれた、毛むくじゃらの生き物。幼い狼だ。 #シャハル4 3
2013-09-13 22:13:20かふ、かふかふかふっ。仔狼が、森の一角に向けて吠える。 「静かにしなさい。あなたはサイレントウルフの名を継ぐ者でしょう」 かふ、かふかふっ。 「だからこそ吠える? 隠れた相手の匂いをかぎつけたくらい、自慢にはなりませんよ」 #シャハル4 4
2013-09-13 22:14:02森は黒い。枝や根の上、地面に積もった雪は真っ白でなめらかだ。何か動物がそこにいる痕跡など、そこには認められない。人間の目なら。だが、ここはエルファの森だ。 #シャハル4 5
2013-09-13 22:14:24この大地に三番めにあらわれた緑の月。その月に住まうのは、あらゆる動植物たちの祖霊(トーテム)たち。彼ら祖霊に学び、自然との調和を尊び、森と一体となって生きる、長身痩躯に、長くとがった耳の種族、それがエルファである。 #シャハル4 6
2013-09-13 22:14:46エルファ族は、森の民である。広大な大陸北部を覆う森のほとんどは、彼らの領域であった。だが、黒い森の前にたたずむ少女は、まとう衣装は人間族のもの近く分厚く、また身体にほどこされて個人の経歴をあらわす刺青も、この大陸のエルファたちとは、微妙に異なっていた。 #シャハル4 7
2013-09-13 22:15:44「我はサイスの森、西南の三本の大樫の丘の部族において、緑の守りたる偉大なる樹人ラナーク・レスティリの養い子、カアンルーバと梟を崇めるラウンドアイ(全周を見る目)にて螺旋を進める、ソフィアなり」 #シャハル4 8
2013-09-13 22:16:19少女は、その小柄な体つきからは想像もつかない、朗々とした声で名乗りをあげた。木の枝のひとつから、雪が、はらはらと零れ落ちた。細い、とうてい一人の体重を支えられるとは思えない枝の上に、人影が現れる。だが、少女ソフィアへの直接の返答は、まるで異なる場所から響いた。 #シャハル4 9
2013-09-13 22:17:17「そのような森の名、聞いたこともないぞ、来訪のはらからよ」 人影が見えたのは少女の左にある木だが、声は右の高い杉から聞こえた。幹の先端から聞こえ始め、だんだんとおりてくる。だが、ところどころ雪がはりついた幹に、動く影など見当たらない。 #シャハル4 10
2013-09-13 22:18:02ソフィアの足もとで、狼が小さな声で唸った。 「……そう、魔法の気配はないのですね。体術だけで姿を隠しているということですか。これほどの手腕を持つならば、この森こそは期待できようというものです」 少女は、小さく息を吐いた。 #シャハル4 11
2013-09-13 22:18:37少女から数歩の位置で、突然、雪が噴きあがった。雪煙がおさまると、そこに長身の男が立っていた。雪の中にいるのに衣服は手足がむきだしだ。あるいは手足にほどこした鱗のような刺青に、魔法的な防寒効果でもあるのかもしれない。ジャング、見張りを役目とする氏族である。 #シャハル4 12
2013-09-13 22:19:59エルファは、崇める祖霊ごとに、異なる役割を持ち、同じ役割を持つものたちの集まりを氏族(クラン)と呼ぶ。あらゆる禁忌を排除するジャングの氏族は、森の外から穢れが入りこむことも防がねばならない。 #シャハル4 13
2013-09-13 22:20:18「おまえの森ではどうだか知らぬが、このゼアレタの森では、偽りの名乗りは、懲罰を受けるのだ」 深い皺を刻まれた男の顔は、頑固とか狭量といった言葉を形にしたものように思えた。 #シャハル4 14
2013-09-13 22:20:38膝まで届く長い両腕が、体の左右にだらりと垂れ下がっている。手の中はからっぽだが、ジャングの氏族は大蛇を祖霊としており、その身を大蛇のごとく敵に巻きつけ、締め上げて骨も砕く武術を心得ている。男からは、明確な殺気が放たれていた。仔狼が、相棒をかばって前に進み出る。 #シャハル4 15
2013-09-13 22:21:19「少々、失礼させていただきますわね」 だが、ソフィアと名乗った少女は、まったく怖じけたようすもない。彼女は、ふところから、目のまわりを囲む枠だけの仮面を、顔に装着した。男が身構え、仔狼が唸る。 「……なんだ、それは?」 「眼鏡と申しますの」 #シャハル4 16
2013-09-13 22:21:48