@inu06 さんのクッキークリッカー物語

9/23 いぬさんがまとめた完成版がupされました☆ 「クッキークリッカー異聞 あるいは阿呆のマリア」  http://www.twitlonger.com/show/n_1rovc0t   ↑こちらでじっくり読みふけれます!
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おろかドッグ @inu06

121)とても不安を掻き立てられる味とでもいうのか、まるで自分がここにいないかのような、髪が逆立つような、そんな味わいだった。またしばらく後、隔離されていても分かるほど俄かに外が騒がしくなった。頭脳共有、という単語が聞こえたような気もする。窓の外が雨降る夜にも関わらず深紅に染まる

2013-09-23 01:49:14
おろかドッグ @inu06

122)こともあった。偶に運び込まれる外界のニュースでは、老婦人が溶け出したなどの荒唐無稽なことが書かれており、いったい世界全体がどうなってしまったのか、不安で仕方が仕方がなかった。マリーンは全く現れなくなった。次に届けられたものは名前すら付けられていなかった。白い砂糖に見えた。

2013-09-23 01:52:00
おろかドッグ @inu06

123)口に含むとあの不安が背筋を続々と這い上がってくるように思われた。これに一番似ているものは猫の断末魔だ。可愛そうなあのミルククリームの。どうっと音を立てて部屋全体が揺れた。とうとう終わりの時がやってきたのた。割れないはずの窓にひびが入り、室内にしずしずとなだれ込んできたのは

2013-09-23 01:55:47
おろかドッグ @inu06

124)クッキー生地だ。いたるところに蕩けかけたグランマの顔や腕や乳房も見えるが。心臓の鼓動のような音が地面のそこから響いてくる。クッキー生地はどんどん流れ込んでくる。甘い匂いが周囲を包む。エキゾチックナッツの薫り。白檀と龍涎香と動物の死骸の薫り。あのよからぬ砂糖の薫り。死臭。

2013-09-23 01:59:17
おろかドッグ @inu06

125)そしてその流れの中心に、気怠そうに座っているのはマリーンだ。魔女の娘は、今や真の魔女となり、疲れは老いとなり、ほとんど老婆のそれであった。椅子がクッキーに飲み込まれたのか、クッキーが椅子だったのか。もはや判別のできないそれに身を委ね、単純な黒衣も重そうで身動き一つしない。

2013-09-23 02:02:00
おろかドッグ @inu06

126)私はこれを知っていた。と遠くで彼女が呟いた声が、どうしてか耳元でそうされたかのように響いた。これを知って、このようになればよいと、思った。そのように、なった。私は満足である。まるで、わたしが一生懸命話すときのような切れ切れの言葉は彼女の叡智を剥ぎ取りより一層哀れに聞こえた

2013-09-23 02:04:38
おろかドッグ @inu06

127)ああ、どうしてこんなことになってしまったんだろう。彼女はパパのクッキーすらを取り戻したのに。彼の手からではなかったものの。わたしたちはどうして彼女を止めることができなかったのだろう。足元に寄せては返しながら着実に進んでくるクッキー生地は波のよう。わたしは地に伏せた。

2013-09-23 02:06:59
おろかドッグ @inu06

128)そして祈るような姿で伏した。視界に広がるクッキー生地の端に、いつか見たようなあの黄色い古い布が見えた。古い古い布だ。異界からわたしのクッキーを取りに来た何かの……。マリーンの座っていた生地はもはやぼろぼろと崩れ、彼女自身の姿もその波の中に消えていった。

2013-09-23 02:09:17
おろかドッグ @inu06

129)そうかマリーンはこの結末を「あれ」に聞いていたのか。わたしは何となくそう思った。崩れる生地と一緒に、世界が崩壊していく音が聞こえた。伏せて地を見る私の前に翼の柄が刻まれた青いチップが落ちてきた。わたしはこれを持ってやり直さなければならない。もう一度上手くやるために。

2013-09-23 02:13:02
おろかドッグ @inu06

123)チップの名前はヘブンリーチップ。これがあれば今度はきっとうまくいく。何度でもやり直す。次はマリーンをうまく止めれるだろうか。世界はクッキーと一緒に壊れていった。

2013-09-23 02:14:18
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