稲川淳二　つぶやき怪談　2013年9月25日

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、今日子について奥さんが触れたのは、この時だけだった。

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そうこうして、どうやら片づけもすんで、新居での、ふたりの生活が始まった。

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その夜は引越しの疲れで、少し早めに休む事にした。

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新しい畳の匂いのする和室に、蒲団を敷いて、床についたんですが、夜中近くに浅井さんが、何かの拍子で目が覚めると、隣で奥さんが、

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「・・・今、畳の上を誰か通ったみたい・・・・」と、呟くように言ったんで、

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「そんな事、あるはずないだろう」と、答えたものの、実のところ自分も、何か妙な気配のようなものを感じていたんで、背筋のあたりが、ゾクッとした。

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（まさか・・・何かいるんだろうか？）浅井さんは、ラジオの深夜番組を担当してるんで、週に一度は、帰りが明け方になってしまう。

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その時は、奥さんひとりで家にいるわけですから、ちょっと気になった。 そして、二日後、その晩がやって来た。

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気になりながらも、浅井さんが、深夜の番組を終えて、午前四時を回った頃に帰宅すると、（？）家中の窓から、明かりが洩れている。

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（いったい、どうしたんだろう）玄関を開けて、「ただいま」と声をかけると、

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「ううう―――っ！」と声を上げながら、奥さんが飛び出して来た。 血の気の失せた顔で、ブルブルと震えている。

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只事ではない様子に、（やっぱり、何かあったんだな）と直感した。

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「どうしたんだ」と言おうとすると、奥さんが、 「恐かったぁ・・・」と言って、話し出した。

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それは、浅井さんが出かけて、する事も無く、ＴＶを観ていたらしいんですが、気が付くと、かれこれ、夜も十一時になるんで、

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（そろそろ休もうかな）と、明かりを消して、床についたものの、なかなか眠れない。

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目を閉じたまま、蒲団の中で、何度も寝返りをうっているうちに、いつかしら、眠ってしまったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

夜中を回った頃に、ボンヤリと目が覚めた。

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部屋の中は静まり返っていて、天井の就寝用の小さな明かりを見ていると、一瞬、 ス――ッと影が動いてゆくのが見えたんで、ドキッとした。

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自分は蒲団の中だし、浅井さんはいないし、動くものなど、ないはずなのに・・・。 と、かすかな足音が、頭の先を歩いて行った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・・誰かいる！？） と感じたとたんに、もう恐くなって、うつ伏せた恰好で、頭から蒲団をかぶると、心の中で、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（助けて下さい・・・助けて下さい・・・） と夢中で祈りながら、そーっと様子をうかがうと、シーンとして、何の音も聞えてこない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・・気のせいだろうか？） 恐る恐る蒲団を少し持ち上げて覗いてみたんですが、別に変った事もないし、自分の思い過ごしだったらしい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、蒲団から頭をだして、（は―っ） と、ひと息つくと、再び寝返りを打って、仰向けになったとたん、グンッと、髪の毛が引っぱられた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あいたた・・・・」 長い髪が、何かに引っ掛ったらしい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

無理に引っ張って、髪の毛が傷ついてもまずいんで、仰向けのままの状態で、手を伸ばして、髪の毛にそって、頭の先の辺りを探って行くと、