稲川淳二　つぶやき怪談　2013年9月25日

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（ん！？） 指先に何か触れたんで、手で摑んで確かめると・・・・、その瞬間、身体中が凍りついた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんと、冷たく冷えた女の手が、自分の髪の毛をグっと掴んでいた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

就寝用の小さな明かりの下で、仰向けのまま動けない自分の顔を、逆光の黒い顔の輪郭が、ヌーッと覗き込んできた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時、一瞬、相手の目が見えて、うすれてゆく意識の中で、その顔に見覚えがあるような気がした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それから、どれほどか経って気がつくと、慌てて家中の明かりをつけたんですが、誰の姿も無かったというんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

どうやら相手は、この世の者ではないらしい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「この家、何かあるんじゃない？」 と訴える奥さんをなだめながら、浅井さんは、漠然と、ある想像をめぐらしていた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうして、蒲団に入って、眠りについた頃には、もう外はうっすらと明かるくなっていた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

五時間ほどの睡眠をとってから、昼を過ぎて家を出て、サテライトスタジオにやって来ると、夏の昼下りの陽射しを受けたサテライトの前には、既に十人前後のファンが集まっていた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（そうだ、今日子と知り合ったのも、こんな夏の陽射しが眩しく照りつけていた、このサテライトスタジオだったなぁ・・・・） と、ふっと思い出した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やがて、いつものように番組が始まって、サテライトスタジオ前には、いつしか、二十人くらいの人垣が出来ていて、最前列の五、六人が、ラジオ局のロゴの入った、大きな一枚ガラスに張り付くようにして見ている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、その中に深く帽子をかぶって、大きなつばの下から、口元だけがのぞいている女がいて、それが妙に気になった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうして、番組が終了の時刻となって、浅井さんが、別れの言葉を言いながら、サテライト前に集まっている人達に、手を振って順に視線を向けていって、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やがて、帽子をかぶった女に行くと、大きなつばの下からのぞいた口が、はっきりと、「待って」と動いた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その瞬間、浅井さんは言葉を失った。 昼下りの眩しい陽光の中で、女の輪郭が、自分を見つめている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・・今日子だ） それは、紛れも無く、今日子だった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして次の瞬間、その姿はかき消えていた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時、ふっと、 （今日子は、親友の結婚披露宴の案内状に書かれた、新郎の名が、自分を捨てた男と、同姓同名である事に気づいたはずだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

恐らくあいつは、すべてを知っていたに違いない。そして、これからも我々ふたりの生活にわり込んでくるに違いない）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、浅井さんは思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「つぶやき怪談」いかがでしたか？

稲川淳二 @Junji_Inagawa

怖・楽しい時間を、楽しんで頂けましたでしょうか？ 喜んで頂ければ、何よりです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

皆さん、節電には気を配って下さい。 そして、何か、自分が出来ることを、試してみて下さいね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

今日は、何もなかったですか？

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それじゃまた。