鎮守府昔話 「幸福の戦艦」

いつも自分のことを「不幸だ」と呪う戦艦、扶桑。 彼女のもとにやってきた提督は意外な話を持ちかける。
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CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

むかしむかしある鎮守府に、扶桑という旧式戦艦がおりました。速力は遅く、装甲も薄く、改良型の伊勢姉妹からは「欠陥戦艦」と罵られ、毎日妹の山城と一緒にドックから空を眺めて過ごしていたそうな。そんなある日、提督が扶桑のもとへやって来ました。

2013-09-26 21:12:02
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「扶桑、扶桑」「なんでしょうか、提督」扶桑はゆっくりと提督のほうを振り向きました。「お前さん、いつもいつも不幸だと言っているそうじゃないか」「はぁ……」否定とも肯定とも取れない溜息をつくと、扶桑は興味なさげにため息をついて提督から視線を逸らしました。

2013-09-26 21:13:12
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「近代化回収、してみないか?」「えっ?」意外そうな表情を浮かべ、扶桑は再び提督の方へ顔を向けました。「私には……必要かも」「よし、腕を出せ」「?」首を傾げながらも扶桑は白い右腕を提督の方へ伸ばします。「少し痛いが、我慢してくれ」提督はポケットから注射器を出しました。

2013-09-26 21:14:58
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「うっ……」針が刺さると、扶桑は少しだけ顔をしかめました。冷たい薬液が腕の中に入ってきます。「よし、終わったぞ。副作用で少しふらつくかもしれないが、大丈夫だ」「妹の山城の近代化改修も、お願いします……ね」そう言い終わると、扶桑はそのまま椅子にもたれて眠ってしまいました。

2013-09-26 21:16:38
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「うぐっ……」目を覚ました扶桑は、下腹部のあたりが焼けたように痛いことに気づきました。艤装は外され、巫女服のような服装のまま布団の中で眠っていたのです。その痛みの理由が何なのか、扶桑には全くわかりませんでした。眠っている間に提督に何をされたのか、扶桑は知る由もありません。

2013-09-26 21:49:21
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

次の日も、また次の日も、提督は扶桑のもとにやってきては注射を打ちます。そのたびに扶桑は自分の布団で目覚め、身体のあちこちに違和感を覚えるのでした。ある日、扶桑はその理由を聞きに自分から提督のところへ行きました。「提督、あの注射は何なのでしょうか?」

2013-09-26 22:15:05
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「君も気付いているだろう、あの注射を身体が欲していることに」「っ!」扶桑は注射跡の残る右腕を袖で隠しました。「あの薬はまだ実験段階でね、副作用も実のところはわかっていないんだ」「そんな……!」提督の言葉に扶桑は絶句しました。「技術部の連中いわく、依存性があるのは確からしい」

2013-09-26 22:32:28
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「提督、私……初めてあの薬を打たれた時から身体が変なんです」提督に歩み寄り、扶桑はじっと上官を見上げます。「よく、調べて下さい」扶桑の手が提督の胸板に触れ、ゆっくりと上へと伸びて頬をなでました。「ふ、扶桑?」「ねぇ、提督?」熱を帯びた扶桑の眼差しに、提督の理性ははじけ飛びました。

2013-09-26 22:41:12
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「うぅ……私は……」翌朝、提督は自分の部屋ではなく、扶桑の部屋で目を覚ましました。「提督、お目覚めになられましたか?」扶桑は長い黒髪をかき上げました。「このお薬、男の方にも効くのですね」「ま、まさか……」提督が自分の腕を見てみると、真新しい注射の跡がありました。

2013-09-26 22:48:27
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「ふふ、提督……私、本当の夜戦を初めて知りました」「扶桑、私は……」弁解しようとする提督の口を指で制し、扶桑は提督を優しく布団の上に押し戻しました。「提督は私と一緒にいればいいんです。私に幸せをくれる人だから」提督は扶桑を振りほどこうとしますが、超弩級戦艦にはかないません。

2013-09-26 22:52:53
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「扶桑、離せ……んむぅ!?」「ふふ、提督……私には、あなたが必要なんです」提督の唇を奪うと、扶桑は妖しく微笑みました。

2013-09-26 22:57:42
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

それから、扶桑はもう自分を「不幸だ」と言うことはありませんでした。なぜなら、扶桑は本当の幸せを手に入れたのですから。 めでたしめでたし #鎮守府昔話 「幸福の戦艦」 おわり

2013-09-26 22:58:39