モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer XI~
- IngaSakimori
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「いや、何でもない。忘れてくれ」 難西はそう言って肩をすくめてみせた。 それは道化のように。後ろ指さされつつも踊るピエロのように。 ふと耳を澄ますと、4気筒のエンジン音が近づいてきた。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:15:18「よう……淳。遅かったな」 「少し寄り道したんでね。で、そっちは?」 「後でゆっくり話すさ。だがなあ、淳……思い出したぜ。 誰かと走るってのは、楽しいもんだよな」 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:15:32「そうか。そいつは……そいつは何よりだな。 ああ、何よりだ。くっくっく」 「へっ、結局お前の魂胆通りか」 ヘルメットをしたままで肩を上下させて笑う谷川。難西は抗議するような声で、しかし笑ってVTRにまたがった。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:15:41「じゃあな、ボーヤ……今日の怖さを忘れんなよ。 コーナーひとつを恐れろ。ブレーキ一回にビビれ。 そうやって……上手くなっていくんだ。公道を走るってのは、そういうことだ」 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:15:49「あ、あの……!!」 志智が発しようとした言葉は、『深紫(ディープパープル)のYZF-R1』とVTRの排気音にかき消される。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:16:02「あ……」 「行っちゃいました……ね……」 そして、二台のモーターサイクルが小河内湖の方へ走り去った頃、どこか力のないXR650Rの排気音が響いてきた。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:16:15「あ、姉さんですね。ずいぶんゆっくり走ってますけど……ひょっとして、釘でも踏んじゃったんですかね」 「確かに全然開けてないみたいだけど……」 未だ去らぬ恐怖と、難西の言葉と。 そしてかさぶた一枚よりも薄い勝利の実感と。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:16:27(なんなんだよ……くそっ。 一気に色々ありすぎて……頭がごちゃごちゃだ……) まだ心中の整理がまったくつかない志智は、川野駐車場へ滑り込んできたXR650Rを惚けたように見つめるしかなかった。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:16:39カチン、という音がしてそのエンジンが停止する。よろめくように亞璃須が下りる。 グローブを投げ捨てる。何事かと、慌てて駆け寄った吉脇へ、押しつけるようにヘルメットを渡すと、日原院亞璃須は力のかぎり走って━━そして叫んだ。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:16:57「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! 志智ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! 負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 悔しいよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:17:14「……お、お前、なあ……」 胸にすがりついて泣きじゃくる亞璃須の肩へ、申し訳のように手を置きながら、志智は心底迷惑そうに呟いた。 #mor_cy_dar
2013-09-30 23:17:28【モーターサイクルダイアリー・登場キャラクター名鑑】難西風男(なんぜいかざお)。谷川淳とは高校の同級生。バイクブームの生き残りで、あらゆるフィールドを走り込んだ男。事故で恋人だった幼なじみを失っている。愛機のVTR250はジムカーナ用のスペシャルでもある。#mor_cy_dar
2013-09-30 23:21:21