130930 他人事になりゆく現実・小川未明「戦争」によせて

まとめました。
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岩上安身 @iwakamiyasumi

片山杜秀氏の評論「未完のファシズム」の冒頭に、小川未明の「戦争」という短編が取り上げられている。第一次大戦の嵐が欧州で吹き荒れていた1918年の作品。「海のかなたで、大戦争があるといふが」と未明は綴る。「実は心の底でそれを疑ってゐるのだ」。「それは作り話ぢやないのかしらん」と。

2013-10-01 03:03:10
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き2。なぜ、未明の書く「戦争」の主人公「私」は、世界史的な大戦争を「作り話」ではないかと怪しみ、疑うのか。東京では町を歩いていても、誰もが楽しげだから、である。「落着いてのんきに笑つたり」「みなが笑つた目付をしてゐる」からである。

2013-10-01 03:12:32
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き3。「一日に五万人も、十万人も死んだり、殺されるといふ新聞の報道が事実であるなら、誰でもかうしてぢつとしてゐられない筈」ではないだろうかと、「私」は考える。そして、世界の現実を絵空事のようにしか感じられないのなら、実は本当に絵空事なのかもしれないという幻想にとらわれる。

2013-10-01 03:17:48
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き4 「私」は郊外に住む友人を訪れ、この疑いについて尋ねる。「水晶のやうに澄み切つた」まなざしの、その友人は、「同じやうにその事実を経験しないものに、どうして同じ心がわかりませう。苦痛や煩悶が分かりませう」と答える。「戦つて血を流してゐる人間だけに『戦争』があるばかりです」。

2013-10-01 03:30:17
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き5。そして、その友人はこう続けた。「なんのために戦争をするかといふに、ただ生きるためです。より幸福に生きるためです。なんのために戦争を肯定するかといふに、やはり幸福に生きるためです。より多くの利益を奪ふためなのです」。

2013-10-01 03:36:28
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き5。第一次大戦は、戦場とならなかった日本に繁栄をもたらした。民生品の生産が落ちたヨーロッパの穴を埋め、大商いができた。儲かった、というリアリズム。そして、戦争の悲惨さは、結局のところ、直接に経験している者以外にはわからない、というニヒリズム。

2013-10-01 03:47:34
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き6。翻って、現代の僕ら自身を顧みるに、先の戦争のことは他人事だし、分けても侵略の犠牲者のことはわかろうとしない。すぐ近くまで迫っている次の戦争についても想像を巡らそうとしないのはもちろんのこと、現在、首まで浸かっている核汚染も、貧困の拡がりも、主権の喪失にも、痛痒を感じない。

2013-10-01 03:55:07
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き7。未明は、戦場と化したヨーロッパで、子供達がむごたらしく殺されてゆく様を思い描き、胸を痛める。そうした共感が彼に可能だったのは、彼が幼い愛息を失ったばかりだったからだ。そうでなければ、遠い戦場と彼はつながりえなかったと、著者の片山杜秀氏は述べる。

2013-10-01 04:13:22
岩上安身 @iwakamiyasumi

続き8。海岸線に原発を54基も抱えたまま、平然と戦争準備を整える神経がまるでわからない、と思うのは、僕が両親から、戦争の体験を聞いて育ったからなのか。我が身を振り返りつつ、そう考えてみて、しかしそんな人間はこの日本中にいくらでもいるだろうに、とも思う。

2013-10-01 04:20:42