旅猫『明』

だいけ @daike0000

ついこの間まで夏だったのに。それがいつの間にか、夜風を肌寒く感じるようになった。

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いつもの自転車での帰り道、そんなことを思った。ついでに、いつもの自転車乗りの人を最近見掛けないなぁ、なんてことも。

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その人もいつかしれっと戻ってくるだろう。それこそ、猫のような気紛れ気味に。私はそんな風に思っている。

だいけ @daike0000

そう、猫だ。

だいけ @daike0000

私が住んでいる場所はどっちかと言うと閑静な住宅街で、夕方なんかに自転車で走っていると猫を良く見掛ける。

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たまに目が合うヤツも居たりする。道路の真ん中、堂々かつふてぶてしく私の自転車の進路を阻むソイツは、茶色と白と黒の三毛猫だ

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存外、私はこの三毛猫の大物っぷりが気に入っていた。

だいけ @daike0000

車が通ることなんて余り無い道路で午睡を貪る三毛猫。

だいけ @daike0000

だが私が自転車で近付くと、いつも目だけを開いてこっちを見ている。

だいけ @daike0000

猫にどれほどの学習能力があるのか私は知らない。だがこの三毛猫との付き合いもおよそ１年。

だいけ @daike0000

夕方にすれ違うだけだけれども、でもきっとこの猫は私のことを覚えていてくれたに違いない。

だいけ @daike0000

だって、自転車乗ってる私が避けるのが当然だとでも言わんばかり。それはもう、堂々としたものだった。

だいけ @daike0000

私はその猫に名前を付けなかった。名前で呼んだことは一度も無かった。名前を付けようと思ったことも無かった。だが、その猫はきっと近所の子供達には何らかの名前が付いていたのだと思う。

だいけ @daike0000

だから仮に、今更ながらに私はあの三毛猫に名前を付けてあげたいと思う。それは私が呼びたい名前で、覚えている限りは覚えていよう、と思う名前だ。

だいけ @daike0000

『明』と書いてアキラ。それでいこう。

だいけ @daike0000

三毛猫の性別はほとんどがメスである、とは、どこで得た知識だったか。軽く調べてみれば、オスが生まれる確率は３万分の１らしい

だいけ @daike0000

とすると、『明』もきっとメスだったのだろう。

だいけ @daike0000

子供は居たんだろうか？近所の人達に可愛がられていたんだろうか？『明』のお気に入りの道路の辺りではやんちゃそうな小学生の姿も結構見掛けたから、イジメられたりとかはしてなかっただろうか？

だいけ @daike0000

――さて、それでは。そんな『明』の話を、少しだけ。

だいけ @daike0000

『明』と呼ばれた三毛猫は、実は御近所ではちょっとした人気者だった。

だいけ @daike0000

『明』は旅猫だった。

だいけ @daike0000

家から家を渡り歩く猫。行く先々で餌を貰ったり、可愛がられたり。

だいけ @daike0000

ある赤ちゃんの居る家では『ゴロー』なんて名前で呼ばれていた。その家の赤ちゃんも『ゴロー』のことはお気に入りだった。

だいけ @daike0000

だから『明』は、猫らしい相応の気紛れとして、『ゴロー』としてその家でたまには愛想を振りまくこともあった。

だいけ @daike0000

ある老夫婦の家では、『ハナ』と呼ばれていた。それはその夫婦の一人娘の愛称でもあった。