大罪大戦WoS:第一戦闘フェイズ【第一の扉】

第一の扉 紅の嫉妬【 @gomoku_sin 】 対するは 黒の嫉妬【 @hana_7sin 】 演者よ踊り、紡げ
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@gomoku_sin

扉を抜ける。音もなくすとりと着地して、ひとまずその場に座り込む。 降り立った場所は、獣の毛並みと同じ銀灰色が広がっていた。風もないのに、身体から放たれる青波と、地の銀灰色はゆるくうねりたなびく。 奥へ奥へと続き、その途中でぐにゃりと歪んで、無理やり繋いだように景色が変わっていく。

2013-10-10 09:48:15
87 @blooomrain

黒い林檎に巻き付く蛇の刻印がされた扉をくぐり、狭間へと足を踏み出す。 罪の果実は七つ。 喰らうは七人。 物語は甘く熟す。

2013-10-10 09:50:31
87 @blooomrain

  収穫の時は今────。

2013-10-10 09:50:59
87 @blooomrain

背後に扉の閉まる音を聞きながら視線を巡らせる。 直線的な壁を登り、角で折れ、天井を通って、角を折れ、壁を下りる。 床も壁も天井も掠れた塗装の残る古い部屋だった。 見覚えのある部屋だった。 「───…」 言葉もなく吐息を吐き出す。→

2013-10-10 09:54:02
87 @blooomrain

背後の扉とは別に、目の前にもう一枚扉がある。 あれは外へと繋がる扉。覚悟が足りていないのか。扉の向こう側に己の始まりの部屋があるなんて。 『      』『        』『    』 幾つかの声が記憶の底から浮上して背中を押す。 「わかっている。 案ずるな──」

2013-10-10 09:59:25
87 @blooomrain

呟いて歩き出す。 簡素だが質の良い木製の扉を押し開けると、そこには広大な荒野が広がっていた。 足元は枯れた草がまばらに生える荒れ野。空は高く、薄い蒼に刷毛で乱暴に擦ったような薄い雲が棚引いていた。

2013-10-10 10:04:55
87 @blooomrain

吹き抜ける風が黒い外套を巻き上げて、珈琲色の前髪を空に散らす。それを鬱陶しそうに手で押さえつけ、何もない荒野をただ真っ直ぐに進む。 屋敷の一室を鋭利な刃物で無理矢理に削りとったような、不自然に真四角の部屋を置き去りにして。

2013-10-10 10:12:03
87 @blooomrain

どれ程歩いたか、不自然に草丈が低くなっているのが見える。空はある所から色が代わり、境目で広くマーブル色に混ざり合っている。 あの向こうに紅が居る。 腰の細剣の柄を手で撫で、進む。 境界の先の銀灰色を見て、感嘆の吐息を漏らした。

2013-10-10 10:15:36
87 @blooomrain

美しき、豊かなる銀野。 芸術家の性か、広がる景色に目を奪われる。 これが心象風景の投影だとするなら、枯れ果てた空ろな己の世界に比べてなんと豊かである事か。 男の心に微かな羨望が湧く。 火に誘われる蛾のようにふらふらと境界の先へ歩み出せば、吹いていた風がピタリと止んだ。

2013-10-10 10:24:27
@gomoku_sin

銀灰色のうねりが、ぴたりと止んだ。知らぬ者に踏み入られ、警戒するかのように。風が、何もかもが、停滞する。留まる。 その中心に、蒼を纏った獣は佇んでいる。さらさらと崩れ消える扉を背に、蒼穹の瞳は真っ直ぐに、訪った『黒』の男を、見据え。 ――誰が来ようと同じだと、そう思っていたが。

2013-10-10 11:12:34
@gomoku_sin

「貴公の『座』を訊ねよう」 捏ね合わせた老若男女の歪んだ声音は、響かなげでありながらよく通った。あえて、訊ねた。 尾ひとつ揺らさず、時を止めたかのように不動。纏う蒼のヴェールだけが、風も何も知らぬかのように、ゆうらり揺れていた。

2013-10-10 11:12:38
87 @blooomrain

風が止み、音が消え、銀灰色の波が凪ぐ。異物を感じ取った空間に拒絶された心地。 流れを止めた銀野に佇む蒼。 息を呑んだ。 様々な形をしていると識ってはいたが、この形のものは初めて目にした。動いておらずとも、骨格が、骨格を這う筋肉が、野生の躍動感を伝え来る。→

2013-10-10 11:21:30
87 @blooomrain

男にも女にも子供にも老人にも聞こえる複数の音を撚って束ねたような声が問い掛ける。 「黒の、プトノス。 抱くは───……『嫉妬』」 蒼穹の瞳を柘榴色で見返し、低い声でぼそりと答える。罪科を口にする瞬間は、厭わしそうに目を伏せた。

2013-10-10 11:26:15
@gomoku_sin

「…………ほう」 無感情に、僅かな愉悦が混じる。蒼穹が、細められる。興味深そうに観察する意図が、視線の中に含まれて。 「潰し合い、殺し合い、間違いなく侵して奪わなければならぬ相手、というわけだ」 言葉の物騒さとは裏腹に、獣の様子はあまりにも静かで、穏やか。

2013-10-10 11:46:59
@gomoku_sin

「私は『紅の嫉妬(チィートゥー)』」 厳かに、宣言する。 「名はない。強いて言うならば『座』が名であり、私の本質だ。『私は嫉妬以外に在らず』」 一度だけ、ゆるりと瞬き。並び立てぬ同罪の相対者がどういった反応をするのか。見つめる。

2013-10-10 11:47:07
87 @blooomrain

「紅のチィートゥー」 聞き慣れない発音の名を、出来る限り正確になぞるように口にする。 狼は憤怒のシンボルとされているから、目の前の狼も憤怒かと思っていたが、象徴する罪を聞いてぴくりと眉が上がった。→

2013-10-10 12:32:06
87 @blooomrain

「お前が、『嫉妬』──だと?」 声に動揺は表さない。しかし眼差しは、検分するようにまじまじと獣の全身に注がれる。 泰然と揺るがず自然の流れに身を委ね無欲であるかに見える、この、獣が。 「嫉妬なのか……」 同じ罪でもこうも違うものか、と。一瞬柘榴の瞳が歪む。

2013-10-10 12:36:04
@gomoku_sin

「らしくない、とは言われるな」 嫉妬は、本能で生きる獣には似つかわしくない感情であろうから。一瞬歪んだ、柘榴を見逃さず。 どんな野生の動物でも、嫉妬の感情は存在する。 「だが、私は間違いなく『嫉妬』。それ以外ではありえぬ。――貴公も、そうなのだろう」

2013-10-10 16:48:51
@gomoku_sin

尾が一度だけ、蒼の残滓を引いてゆらと揺れた。 「……ひとつ、訊ねたいことがある」 ふと、思案から思い出したようにぽつりと。双方『嫉妬』であるなら、訊ねてみたい。 「公にとって『妬むもの』は、何だ」 返事はあるだろうか。無くても構いはしないが。

2013-10-10 16:48:55
87 @blooomrain

「嫉妬するのは人間だけかと思っていたよ」 皮肉げな笑みを浮かべ言う。皮肉の矛先は無論、己。 揺れる尾を柘榴が追う。銀野に仄かな蒼が舞う。美しく幻想的な、一枚の絵画のような光景だ。 力強く地を蹴り風のように駆ける足がある。獲物を仕留める鋭い牙がある。この獣の羨むものとは何だろう。

2013-10-10 23:54:05
87 @blooomrain

問いを発する前に、獣が問う。 「────…」 問われるがままに口を開きかけて我に返る。 この問い自体が、相手の仕掛けた攻撃でないとは言い切れないではないか。 だが。──もしも、対価が得られるのなら。 「お前は、“何”を妬む?」 紅の嫉妬の闇を覗けるならば、答える価値はある。

2013-10-11 00:00:43
@gomoku_sin

彼方の笑みにあるのは、嘲り。その矛先が此方でないことに、微かな疑問が浮かび。しかし、それはすぐに弾けた。 問いに問いで返されても、何も思うことはない。 「私か」 ただ、問われた事象だけを思考で反芻し。 「私が、妬むものか」

2013-10-11 00:34:45
@gomoku_sin

「『変化』」 特に間もなくするりと、その言葉はまろび出た。 「変わること。変わってゆくこと。変わりゆくこと。変われること。変転するすべて」 世界は、人は、生は、変わってゆく。変えることが、できる。 「私は変われぬ」 『嫉妬の感情』は『生』ある限り、常に変わらず存在している。

2013-10-11 00:34:50
@gomoku_sin

置き去りにされた『嫉妬』は凝ってひとつに。ただ変わらず在る概念に。獣じみた激しさの感情は、獣になった。 再び尾が、揺れる。 「……さて、問いに答えた。私の問いにも答えてもらおう」 私の『疑問』を、『答え』に。

2013-10-11 00:34:59
87 @blooomrain

返答を聞いて目を眇める。 蒼波を発する銀灰の獣──という“器”でなく、その奥で器を動かす“魂”にあたる何かを透かし見るように。 「人の世に在りし生物ではない──か」 なるほど、変化。 変化とは進化に繋がる要素。成長してゆくものは眩しい。 それは理解る感情だ、と頷く。

2013-10-11 01:06:32
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