大罪大戦WoS:第一戦闘フェイズ【第一の扉】

第一の扉 紅の嫉妬【 @gomoku_sin 】 対するは 黒の嫉妬【 @hana_7sin 】 演者よ踊り、紡げ
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@gomoku_sin

死の間際に想うのは『紅』のこと。過ぎ去った過去を、自身のいない未来を想像する。などと、どこまでもらしくない事を考えた。それほど私は変われたのか、と胸中にじわと喜びが滲む。 心残りと呼ぶべきものは何もなかった。傲慢は、私に勝てぬままであることを悔しがるだろうが。

2013-10-14 16:35:30
@gomoku_sin

――強欲。薄暗がりの中、大罪が震えるほどの悪意を抱えていた少女。獣の瞳を持った、大罪の女。変われたこの場を用意したのは、まぎれもなく彼女。 『いつか変化を与える代わり、それまで変わらず傍に在れ』 「……嬢、『約定』は、果たされた」 言葉はころと転がり、それきり、動かなくなった。

2013-10-14 16:36:31
87 @blooomrain

色彩を失いゆく獣を見ながら、男の形をした灰色が『歪む』。 水のように、泥のように、音も立てずに形を変える。 腕だったものは獣の前脚に。脚だったものは力強く地を蹴る後ろ脚に。鼻は前方に迫り出し、口には鋭い牙が生えた。瞳の黒柘榴はそのままに、瞳孔が縦に伸びる。

2013-10-14 23:22:33
87 @blooomrain

それはほんの刹那の変化。瞬きほどの間に、人間の男の形をしていたものは、体長2メートル程の巨大な狼の姿に変わっていた。 「グルルル…──」 喉が低く鳴る。 灰色の毛並みの石の狼は、動かなくなった獣の顔に鼻面を近付け、そっと触れた。

2013-10-14 23:30:51
87 @blooomrain

己と同じ黒柘榴の瞳に、己が写っている。美しく妬ましいと感じたそのままに、塊から像を掘り起こすように写し取った、野生の姿。 冷たい舌が伸び、一度だけ、獣の頬を舐めた。 前脚を揃えてじっと見下ろす。呼吸するように上下していた背が動きを止め、銀灰が輝きを失うその瞬間まで。

2013-10-14 23:41:01
87 @blooomrain

「約定──これがお前の望んだ『変化』か?」 狼の喉から人の声。 「だとすれば、   …───どこまでも、私と似ている……」 死は変化。死は解放。 同じ罪を背負い同じ終着点を望んだ獣。 「──私は妬む。 私の望む死(モノ)を手に入れたお前を、妬む」

2013-10-14 23:48:14
87 @blooomrain

獣の身体の脇に落ちていた、細剣月明かり《Mondlicht》を咥え、獣の脇の、石化した地面に突き立てる。と、銀は見る間に歪み、幾条もの細い細い糸となって、動きを止めた獣の身体を包み始め──やがて、月の輝きを宿す巨大な繭を形作った。

2013-10-14 23:54:32
87 @blooomrain

しゅるしゅると銀の擦れる音が鳴る。 繭の頂点から銀は更に伸びて伸びて伸びて、伸びて──ふわり。 銀糸で編まれたのは一対の翼。大空を翔る鷲の翼を想起させるそれは、ただ一度だけ羽ばたき、銀野に風を起こした。 はらら、はらり。自ら巻き起こした風に繭は解け、散ってゆく。そこには──。

2013-10-15 00:32:07
@gomoku_sin

――『人』。 2メートル弱はあろうかという身長。纏う衣服に色はなく。ただ。 銀灰色だった髪は珈琲色に、微かに開いた瞳は黒柘榴に色づいて。 ほどけ、空気に溶けゆく繭と共に、産まれ出でたその形もさらさらと崩れて溶けていく。 口端に残滓のように残された微かな笑みは、見えていただろうか。

2013-10-15 00:50:57
@gomoku_sin

砂の一粒さえ残さず――その姿は掻き消えた。

2013-10-15 00:51:04
87 @blooomrain

繭の中から現れた嫉妬(チィートゥー)の姿は、獣ではなく人の形をしていた。 まるで己と獣が入れ替わったかのような、その姿。 口許に刻まれた笑みに気付いて、嫉妬と安堵が同時に湧き上がる。

2013-10-15 01:03:45
87 @blooomrain

じっと見つめる視線の先で、横たわる男の身体が爪先からさらさらと崩れて消えてゆく。 . . ───『私』が消えてゆく。 . . 狼は最後にもう一度、灰色の瞼に鼻先を擦り付け、髪の一房まで崩れ去り消える最後の瞬間まで、穏やかとさえ言える男の表情を見つめていた。

2013-10-15 01:07:28
87 @blooomrain

一方の消滅を感知した空間が『揺らぐ』。 すっかり石化した草も大地も、まだ銀灰色のままの草原も、その景色を生み出した主が消えたように端から崩れて消え去ってゆく。 逡巡の後、地に突き立ったままの月明かり《Mondlicht》を咥え、獣の四肢で元来た道を戻り始めた。

2013-10-15 01:27:43
87 @blooomrain

歪に混じり合った境界を越え、終わりにしてはじまりの部屋の扉をくぐる。 がらんどうの四角い廃墟の奥の壁に、浮かび上がる扉の色は──黒。 中心には黒い林檎に絡み付く蛇の紋章。 蛇の瞳が赤く光ったかと思えば、鈍い軋みを上げて扉が開きだした。

2013-10-15 01:32:36
87 @blooomrain

じれったい程にゆっくりと開く扉から、冷たい石を組んで築いた黒の居城が見える。 だるがりの怠惰(オリファン)が用意した、黒の罪果達のための宿り木は、離れたのはほんの僅かの間であるのに、やけに懐かしく思えた。

2013-10-15 01:40:43
87 @blooomrain

扉が開いている時間はごく僅か。 狭間の崩壊は肌でわかる。今ある部屋の外は既に完全に崩れ去り、時空の闇に飲み込まれただろう。 ここも間もなく同じようになる。 獣の足が一歩。前へ進む。 扉の枠に前脚を掛け身を乗り出す。 ────黒の扉、消滅。

2013-10-15 01:47:16
87 @blooomrain

────閉じた扉の向こう。 黒の居城の冷たい床には、月明かり《Mondlicht》の銀の輝きだけが静かに鈍く瞬いていた。

2013-10-15 01:49:45
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