大罪大戦WoS:第一戦闘フェイズ【第一の扉】

第一の扉 紅の嫉妬【 @gomoku_sin 】 対するは 黒の嫉妬【 @hana_7sin 】 演者よ踊り、紡げ
0
前へ 1 ・・ 3 4 次へ
87 @blooomrain

「愉しいか」 再び問う。 「愉しかろう。私の奢りをお前は知っている。私の挫折をお前は知っている。渇望も。羨望も。憎悪も。殺意も。愉悦も。解放も。幻想も。虚脱も。空虚も。絶望も──お前は知っている」 それが男の錯覚だとしても、男にとってそれが真実。→

2013-10-11 23:25:55
87 @blooomrain

獣から放たれた遍く生き物の嫉妬の絶叫の中に、間違いなく男自身の声があった。声なき声で哭いていた。 何よりも誰よりも嫌う、才能に乏しい凡人を、己以外が知る事が許されるだろうか。妬むだけが能の卑俗な男を。誰よりも、何よりも醜い己を。己以外の中から消し去らなければならい。→

2013-10-11 23:29:03
87 @blooomrain

「私は認めない」 醜い己を認めない。今までもこれからも、意志ある限り否定し続ける。 「お前の中の私を、私は許さない」 狂った笑みで睨めつける、限りなく黒に近い血色の瞳。 その身を少しずつ灰色に変えながら、男は喉の奥で嗤った。

2013-10-11 23:31:15
@gomoku_sin

「貴公の事など私は知らぬ」 獣は獣であるが故に、『今』しか持ち合わせていない。 過去、かの男と出会ったことがあったとしても。それは今現在を判断する基準にはならない。 ただ、今が。変化し合う争いのこの瞬間が、愉しい。それだけ。 ――この男にそれは、届かぬだろうが。

2013-10-12 00:06:08
@gomoku_sin

しかし。 「どこまでも、……本当にどこまでも、我等は似ている」 嫉妬だから、だけではなく。奥底にあるものが近くて、遠い。 ひた、ひたりと半ば脚を引きずって、倒れる男の眼前に歩を進める。 灰に染まりつつある男の額に、獣の額が近づく。このまま避けることがなければ、ふわと重なる。

2013-10-12 00:06:18
@gomoku_sin

響く声は、意識に直接流し込まれるように。男に、届くように。 「私は『不変』の罪科たる嫉妬」 世界に生じた時、既に自身は嫉妬であった。嫉妬でしかなかった。 「変わりゆくもの。変わることのできるもの。変転するすべてを妬む」 自身から生まれる疑問。

2013-10-12 00:06:31
@gomoku_sin

何故私は変われぬ。何故私は変わらぬ。何故世界は変わってゆく。 何故世界は、世界は私を置き去りにして流れてゆく。 それすらも解けることはない。『不変』から生まれしものはまた『不変』であるから、それが、答えに『変わる』ことはない。 思案するように、紅の瞳が閉じられる。

2013-10-12 00:06:41
@gomoku_sin

ひとつの欲求のため、私は『約定』を交わした。 「私は『変わりたい』」 それは不変の自身を認めぬ事と、同義であり。 「私は『変わらない』私を疎む」 浮かぶ嘲笑。それは、男ではなく。自身に向けて。 「……どこまでも、似ているな?」

2013-10-12 00:06:47
87 @blooomrain

避けるどころか受け入れる。重たい両腕を持ち上げ迎え入れるように広げる。 己を否定する自虐的的な笑みのまま、寄せられる獣の頭部を男の腕が抱いた。 滴る体液は男の腹や肩を浸食してゆく。そこからまた灰色は広がるが、それをも構わず男は獣と額を合わせた。

2013-10-12 00:51:44
87 @blooomrain

肌色の残る額に柔らかな感触。 温度に体温はあるだろうか。 最早手のひらも腕も感覚を失い、手触りの良さそうな豊かな被毛に触れられているかさえ定かでないが、力を入れると感じられる物体の抵抗感を頼りに腕を移動させ、獣の胴体を抱え込む。

2013-10-12 00:54:09
87 @blooomrain

逃すまいと力を込めた瞬間、流れ込んでくる声。と、言うより、もっと剥き出しの、意識。 獣の成り立ち。概念。記憶。感情。 そういったものが男と交わり男の意識を引き摺る。

2013-10-12 00:57:28
87 @blooomrain

『何故私は変われぬ』      ────何故私の作品はいつも同じ評価を受ける。 『何故世界は変わってゆく』      ────何故あいつの作品は多彩な表情を見せる。 『何故世界は私を置き去りにして変わりゆく』      ────このまま私は認められずに忘れ去られるのか。

2013-10-12 01:02:38
87 @blooomrain

『私は』      ────私は . . . . . 『『 変わら(れ)ない私を疎む 』』

2013-10-12 01:05:50
87 @blooomrain

二色の嫉妬の聲(おもい)が交錯する。 「──確かに似ている」 罅割れた声が同調を破る。 己を嘲り蔑む色はなく、胸中を満たす諦めにも似た凪ぎそのままの声。 「しかし」 それでも。 「私はお前が羨ましい」 嫉妬は尽きぬ。おそらくは、死ぬまで永久に。

2013-10-12 01:10:30
87 @blooomrain

「不変を疎み、変われぬ己を厭いながら、お前は『嫉妬』たらんとする。変わらんとする意志がある。 そのひたむきさ、前向きさを私は『妬む』」 首から上と内蔵以外のほぼ全てを灰色に変えながら男はまだ生きている。大罪たる生命力が男の命を繋いでいた。

2013-10-12 01:14:48
@gomoku_sin

「私も公が羨ましい」 嗚呼、我等は『嫉妬』であるから。羨み、妬む、嫉妬の想いは尽きぬ。それこそ死ぬまで。自身が、自身で、なくなるまで。 「公には『可能性』がある」 生まれながらにして罪である、自身とは違って。 「公は『人』であっただろう。人としての意思があるだろう」

2013-10-12 01:31:40
@gomoku_sin

「『人』は、『変われる生き物』だ」

2013-10-12 01:31:44
@gomoku_sin

「『変われる可能性』を持つ貴公を、私は、『妬む』」

2013-10-12 01:31:55
@gomoku_sin

灰に変わる男に抱かれ、獣もまた紅の光を零してゆく。 ほろほろと崩れて、燃えたつ紅は時と共に柔らかく、小さく。珈琲色の髪に、すん、と鼻面を寄せた。 「『私を変えてみせろ』『嫉妬(プトノス)』」 意識に囁く声は何よりも静かに。けれど確かに、未だかつてなかった欲求を孕んで。

2013-10-12 02:14:36
87 @blooomrain

「私達は共に『現在(いま)』を疎んでいるのだな」 変われぬ現状(いま)を疎み、変わりたいと望み、望むが故に負の感情を抱く。 「 私はお前を憐れむ 」 男の喉も舌も灰色の石となった。 「 私は私を憐れむ 」 喉は震えず、声ももう出ない。→

2013-10-14 09:14:00
87 @blooomrain

男の体に肌色の部分は残っていない。髪の一房まで残らず冷たい石に変わった。 獣の重みも、吐息も、体温も、もう何も感じない。一瞬が永遠のように感じる静寂の中で、男の心臓は再び動きを止めた。 ──────────……。 永い間苛まれ続けた負の感情から、やっと、解放される。→

2013-10-14 09:29:45
87 @blooomrain

己に迫る死と敗北をにして、男の心は驚く程安らいでいた。これこそが男の待ち望んでいた結末。男の願いの成就する瞬間。   灰色に凍りついた静寂の中で、獣の声だけが響いた。 傲慢とも思える言葉の奥に、希(こいねが)う切実なる想いを見た。 嗚呼。→

2013-10-14 09:42:30
87 @blooomrain

獣の求めが、希求が、音のない絶叫となって男の中を震わせる。 「 お前は、私 」 時を止めた彫像の瞼が微かに震えてゆっくりと持ち上がり、黒柘榴の瞳が爛と輝いた──。

2013-10-14 11:13:58
@gomoku_sin

『歪む』。 抱えられた石腕から。喉の代わりに震えた空ろの声から。 歪んで、『変わっていく』。 弾けるように背負った炎は色を失くした。銀灰色の流れる毛並みもまた、急速に色を失い温もりを拭い去られていく。 灰の彫像に変わりつつある身体を抱え、まだ動く首を目の前の男に預けて息を吐く。

2013-10-14 16:35:04
@gomoku_sin

安らかに、一時だけ目を閉じる。再び開いたそこに、象嵌された『黒柘榴』を瞬かせ。 不変の私は、変化を求めていた。絶対不可避の変化を。 ――生が、死に、変わる時を。 それが、果たされる時。

2013-10-14 16:35:14
前へ 1 ・・ 3 4 次へ