- hosidukuyo
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「ねえ………?」 蜘蛛が這うような、掠れた、そして幽かな声が僕の首筋で蠢いた。 「あなた、私の□□□を見ていたでしょう?」 ぎょっとした僕が振り返ると目の前には昏い、とても暗い深泥(みどろ)色の瞳が、僕を睨(ね)め付けていた。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:02:33それは軽蔑と期待、倦厭と想望とが入り混じった不思議な、混然と、そして混沌とした輝きで――― 「ああ―――見ていた」 ―――僕はKに魅入られていたのだ。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:03:13『それ』に気が付いたのは始業式の直後、一人の女生徒がプリントを配布する役目を率先して引き受けた時のことだった。 多くの者が僕と同じく物好きな者がいるものだ、と思っただろう。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:03:55これがキッカケで今後も教師に何かと用事を言い付けられたり、もっと悪ければ面倒な役割を押し付けられてしまったり、と言うこともあるだろう。 だけど、とにかく彼女は自ら、やった。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:04:17そして僕はと言えば彼女の、皆と同じものを纏っているとは思えないほど良く似合っている暗い青藍色の制服の、少し膝に掛かるスカートが歩みに合わせて揺れるさまと、キレイに切り揃えられた暗幕のような長い黒髪と、 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:05:22その人形のような佇まいに似合わない、良く言えば落ち着いた、端的に言ってしまうと可愛らしさに欠けた、掠れた声に興味を覚えて―――どのような顔をしているのだろう、と―――注視していたのだった。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:05:40異変の始まりは、プリントの束を渡そうとした教師からだった。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:06:08プリントを受け取ろうと両手を差し出した彼女に対して、明らかに驚きの色を隠せない、と言った様子で一歩、後退(あとずさ)った。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:06:27そして、それがとても罪深い行為であるかのように、己の教え子から―――正確には教え子の、その、一部から―――目を逸らそうとして逸らしきれぬままプリントを手渡した。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:06:44続いて教室の一番前に座っている生徒に列の人数分を手渡す、先頭の生徒がまたビクン、と体を震わせて、おずおずと顔を上げる。 僕の視線もまた、隣の席の出席番号一番からその視線の先―――すぐ前に立つクラスメイトの顔―――に向かうと。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:07:12淡く、弱々しく鈍くそして儚げで―――だが確かな意思を持って輝く泥濘のような双眸がそこにあった。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-15 01:07:29「―――□□□くん?」 「え?―――ああ、ごめん」 「これ―――後ろに回してね?」 「うん―――ええと―――」 ここで僕は初めて彼女の名を認識した。 「□□―――Kよ」 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:26:45もっとも、その時点では前半を聞き損ねてしまい苗字を聞き損ねてしまったのだが。 「そ、そう―――その、僕の名前―――」 「覚えているわ、はい、プリント」 とKが差し出した左手――― #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:27:01その手を見た時に、一瞬総毛立ち、僕は何か見間違いをしてしまったのではないかと改めて、その顔から、指先までをまじまじと二度見してしまった。 が、それはやはり間違いの類ではなく。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:27:57確かに手の先には指が四本しか―――いや、五本あるにはあるが、薬指が、第二間接から先、欠けていた。 その断面はふっくらと肉が盛り上がっていて、指先が失われたのは近い日の出来事ではないようだった。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:28:34だが、本来あるべきモノがそこにないと言う状態―――しかもその、失われた指以外が美しければ美しいほどに―――は何とも言えない異質さを醸し出して僕の視線と興味を惹き付けていた。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:28:54痛くないのだろうか。 いつ失ったのだろうか。 不便ではないのだろうか。 どんな気持ちなのだろうか。 身体が欠損(かけ)ているというのは。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:29:16触ってみたら、それはどのような感触なのだろうか。 硬いのだろうか、柔らかいのだろうか。 触られたら、それはどのように伝わるのだろか。 イタイ、と貌を顰めるのだろうか。キモチイイ、とその貌は綻ぶのだろうか。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:29:47それとも―――ナニモ、カンジナイ、と眉一つ動かさずにその雑音のような声でただ呻くように呟くのだろうか。 「□□□くん―――?」 僕の妄想は抑揚のない潤いに欠ける音吐(おと)に中断された。 「あ、ああ―――」 「よろしくね?」 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:30:10Kはス―――と手を引くと更に隣の席へとプリントを配る為に移動して行った。 僕はその背から視線を外せずに、ただ、再び隣の席の、更に隣の席のクラスメイトたちがKの失われた指先に戦(おのの)くさまを呆然と眺めていた。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:30:23一時間後。 始業式の日なのでその日はすぐに解散となった。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:30:38親が待っている者、前の学校が同じ者同士、近くの席の者同士、早くも声を掛けてグループを作った者など、めいめいが帰宅の途に就く中、僕はどうすると言うこともなく机に突っ伏していた。 そこへ――― #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
2013-10-16 01:30:53「ねえ………?」 足が一本欠けた蜘蛛が這うような、掠れた、そして幽かな声が僕の首筋で蠢いた。 #僕の彼女の自傷癖がヒドい件2 #ののがヒ
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