#僕の彼女の自傷癖がヒドい件(仮) 九話
- isibasitomo
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「………ごめん」 「何処(どこ)に、謝る必要があるの?」 「だって、僕は君に………」 「これは私が望んだことだもの」 「え………?」 「これは、そう言う『行為』なのでしょう?」 「ちが………」 4
2015-07-15 00:56:08「あなたが私を打(ぶ)つことで、あなたはあなたの、私は私の、欲求を満たそうとしているのでしょう? 単純で面白みに欠ける傾向(きらい)はあるけれど、確かに私は私自身でこの痛みを作り出せない………… ……いいじゃない」 「違うって!」 5
2015-07-15 00:56:33「何が、違うと言うの?」 「君があまりにもとんでもないことを言うモノだから、僕は………」 「僕は?」 「僕は………思わず………」 「思わず、衝撞(しょうどう)に任せる随(まま)に私を打った、わけね?」 6
2015-07-15 00:57:08「そうね」 「そうだよ」 「だけれど………一度叩いたくらいじゃ、あなたの衝撞は収まらないわよね?」 「だから!」 7
2015-07-15 00:57:27「あなたのそれは、弾みとか、気紛れとか、出来心とか、魔が差したとか、そう言った本来のあな たらしさを踏み外してしまったなんて言い様ではなくて、むしろ逆の………」 「………………………」 8
2015-07-15 00:57:49「本来のあなたに踏み込んだ、のではない?つまりあなたの欲求、願望、希望、欲望、渇求と言うモノが今 この瞬間、私の頬を打つという行為としてホンの少し発露してみせたのではなくって?」 「そんなことは………」 9
2015-07-15 00:58:06「そうよね」 「それだけじゃ、足りない」 「あなたはもっと、私を………」 ぱん! 「―――ッ」 打った。 もう一度。 10
2015-07-15 00:58:43「やめてってば!」 細い首が折れてしまうのではないかと思えるような勢いでKの喉頸(くび)が回り、そして傾(かし)いだ。 11
2015-07-15 00:59:02Kは。 ゆっくりと。 ゆっくりと僕の方に向き直りながら、その状態を確かめるように頬に手をやって。 12
2015-07-15 00:59:28彼女の頬を打った右の掌が痛い。 ならば――― 彼女の方はもっと――― 「痛い………よね?」 「………………………」 目と目が合う。 Kが肯いた。 「じゃあ、こんなこと止めようよ」 「………なぜ?」 13
2015-07-15 00:59:49「痛いのはイヤだよね?君を叩いた僕の手も痛いけど、きっと、君は、もっと………痛い」 「私の手………握ってもらえるかしら」 言われるがままにKの左手を僕の右手が掴む。 九本の指が絡み合い――― 14
2015-07-15 01:00:20「手を握っているという行為自体は同じで『やわらかい』という一つの感じ方まで同じなのに、どうして二人の間には別の部分で『温度差』が生じるのかしら?それは、つまる所、感じる、というモノはこうして触れ合っていてさえ主観でしかないからなのだわ。 17
2015-07-15 01:03:13そして私はあなたに叩かれても、この頬が痛いと感じていても、少しもイヤだなんて思ったことはないの。あなたはどうなの?私を叩いて、その手に痛みを感じて、そして、イヤなの?」 18
2015-07-15 01:03:19「あなたが私を打って得たそれはその手に感じたちょっとした苦痛よりも大きな何かを得たのでは ない?例えば言うことを聞かない生意気な同級生(オンナノコ)を黙らせる、とか?力づくで他の誰かを制圧するのはキモチイイ? 20
2015-07-15 01:05:47いま、あなたは誰にも咎められず、誰にも邪魔されず、それを行ってもイ イのだわ。私はそれに抵抗できないし、するつもりもない。だから、さあ、私を黙らせ―――」 21
2015-07-15 01:05:55パン! 右の頬を打った。 さっきよりも強く、力を込めて。 僕の左手と繋いだままの彼女の左手に力が籠る。 22
2015-07-15 01:06:38乱れた髪を直しながら、僕に視線を直して幽かに微笑み、 「あは………やればできるじゃ―――」 パン! 次は左。もっと力を入れた。 「噛むから喋らない方がいいよ」 警告が少し遅かったか、唇の端に血が滲んでいるのが見えた。 「やめて欲しかったら首を振って」 肯いた。 23
2015-07-15 01:07:23その貌から笑みは消えていたが、その眼(まなざし)はまだどこか冷ややかで、僕に出来ることを侮っている ように見えて、僕のことを見下しているように見えて、だから僕は――― 24
2015-07-15 01:07:48