悪い男に騙される山城【解】『HAruna's waRD』序章三日目
眠い…。 珍しく夜更かししてしまった事を軽く後悔する。いや、仕方ない昨日は。最上さんが悪いんだ。霧に気付かれないように声を押し殺すのが辛かった。 あくび混じりで着替える。洗い物カゴ内にある下着がいつもより1枚多いのを脱いだ寝巻きにくるんで隠す。
2013-10-28 18:38:56いつもよりも港に着くのが遅くなってしまった。ゴミ1つ落ちていないアスファルトの路を歩く。 ん…。 開発局へつながる方の通路に、奴の白衣の後ろ姿が見えた気がした。視界の隅に一瞬であり、すぐにそっちを向いたけども角を曲がったのか確認できなかった。 …。 一瞬で眠気が飛ぶ。
2013-10-28 18:43:50慌てて駆け出す。私はバカか。 昨日に見張りを付けたものの、今日は誰にも頼んでいない。3人の提督の話だと、奴が山城を見送ったという件は聞いている。では今日は? 今日に奴が何らかのアクションを起こす可能性は? 山城も私も出撃なのが幸いか。脇目も振らずに艦に乗り込む。
2013-10-28 18:46:55山城! 彼女の背中を見付けて声を掛ける。首を傾げて振り向いて私を見る。いつもと違う様子は感じられない。 どうしたの、榛名? 息を切らせているわけでもないけども、ここまで走ってきたのは察知されたようだ。 同時に気付く。何と言えばいいのかと。
2013-10-28 18:49:34言葉を決めかねている所に、後ろから声を掛けられる。振り向く。最初に山城が呼ばれて振り返り、その呼んだ本人が呼ばれて振り返る、という奇妙な構図と位置関係を引き起こしてしまった。 ハチベイ提督…。おはようございます。
2013-10-28 18:52:30傍に歩み寄り、私の肩に手を置いて小声で提督が告げる。表情は神妙そのものだった。私は頷き、肩越しに山城を見詰める。 ごめん、山城。また後でね。 首を傾げたままの山城が何かを言い掛け、口つぐんでから、わかった、とだけ答えた。 歩き出したハチベイ提督の後ろに続く。
2013-10-28 18:56:56お願いしたのは昨日だけだったのに、ハチベイ提督は今日も見張ってくれたのだろうか。ありがたい気持ちと、嫌な予感が頭の中に渦巻く。
2013-10-28 18:59:38@harunas_ward (今朝、見聞きした情報のすべてを榛名に開示) あの飲み物がなんなのかまでは探れなかった。悪いな ・・・俺が言えるのはここまでだ。榛名、奴には気をつけろよ(明らかに何かを知っているような口ぶり)
2013-10-28 18:59:41ハチベイ提督の話をまとめるとこうだ。 昨日と同様に、奴は今日も山城の見送りに現れた。幾つかの会話をした。ここまでは昨日と同じである。しかし、ここからが違う。 「山城の頭を撫でた」、 「山城に飲み物をあげていた」、 「山城はそれを飲み切った」。 …。
2013-10-28 19:02:19話だけを聞くのならば、そこまでおかしな事実ではない。見送りに飲み物の差し入れくらいは普通だし、頭を撫でるのも…、…異常と言える光景でもないだろう。 けれども、昨日は何もせずに、今日に? 距離が縮まったから、とも見れる。 だけど。 昨日は見張りがいて、今日はいない。と踏んだのなら。
2013-10-28 19:04:36…ありがとうございます、ハチベイ提督。感謝します。 頭を下げてから背を向ける。出発までの時間はもうあまり無い。 黒と紫の絵の具をぶちまけたような、嫌な感覚だけが胸に溢れる。 考え過ぎであってほしいと、一度降りた艦へと乗り込む。 かもめが、今日は見当たらない。
2013-10-28 19:07:16山城、気分が悪いとか、そういうのは無い? …頭が痛い、とか。 ほんのわずかに残っている自分自身の記憶を元に、山城に尋ねる。 彼女は笑顔で首を振り、むしろ調子がいいくらいだと返してくれた。ほんの少し頬が赤い。熱とかではなく、照れたりしてる時の赤さ。 嫌な予感は消えない。
2013-10-28 19:10:00山城といくつかのやり取りを交わしてから、今日も頑張ろうね、という山城の締めで手を振り合ってお互いに離れる。 本当に機嫌は良さそう。体調もいいんだろう。 今は。 思い込みと予感に過ぎない。だけど山城がこのまま普通に今日の出撃を終えるようにはどうしても思えなかった。
2013-10-28 19:13:28太陽みたいな姉さんの満面の笑顔が、おだやかな優しい笑顔に変わって私を見る。昔からそんなに見る事の無い表情。 でも、姉さんがこの顔を見せる時は、本当に妹を心配している時だけだ。わかってる。 わかってるからこそ、私は目を背ける。
2013-10-28 19:35:04一瞬目を逸らした隙に、いつもの姉さんの調子と表情に戻っていた。おでこをつつく指を手で払いながら、気付かれないように笑む。 私が泣きつくまでは、それ以上聞かないようにしてくれているんだと、姉さんの優しさに感謝する。
2013-10-28 19:42:29