知里幸恵『アイヌ神謡集』前半

12
前へ 1 ・・ 3 4
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。アイヌ口承文学における「竜」「ヘビ」「ミントゥチ(河童)」「カンナカムイ」伝承は、周辺諸民族(日本、トゥングースなど)との比較で問題になる。巨大なヘビの伝承は民族を超えて広く分布するが、どこが起源かよく分らない。

2010-10-13 14:50:11
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。射殺されたチャタイの魔物ニッネカムイは放置すると再生するので、オキキリムイの指示で村人が細切れにする。細切れにしただけだとまた集まって再生するので、焼いてしまう。他の話では「草や木に分け与える=あちこちにばらまいて神々に抑えつけておいて貰う」ことも多い。

2010-10-13 14:53:28
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。細切れにする、という退治方法はアイヌ民族だけでなくてニブフ民族の伝承にもある。魔物を焼き捨てるという退治方法はシベリアまで広がる。そこでは焼かれた灰から「蚊」という人類(とトナカイ)の敵が誕生する起源譚となっていたりする。

2010-10-13 14:56:13
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。ニッネカムイはこうしてポクナモシリ(あの世)に送られる。本来はカムイは死んだらカムイモシリに行くはず。カムイモシリとアイヌモシリは往還可能だが、ポクナモシリはおそらく行きっぱなしなのであろう。なお、人間のあの世も「ポクナモシリ」と呼ばれるが別世界であろう。

2010-10-13 15:01:22
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。ここではポクナモシリ「下の国」はアラウェンモシリ「ひどく・悪い・国」とも呼ばれている。他の話ではアッテイネモシリ「ひどく・じめじめした・国」とも呼ばれる。魔物の追放先として定番の場所。そこからは基本的に再生できない。

2010-10-13 15:09:10
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。第三話の黒狐や、第四話のウサギは本質的には悪神ではない。人間同様、心がけによって善にも悪にもなる存在。つまりウェン「悪い」は一時的に悪い場合。だが、第五話の魔物ニタトルンペは善にはならない。ニッネ「悪い」はそのように本質的に悪い場合。

2010-10-13 15:14:24
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。ここで知里幸恵における善悪概念がそろう。第二話は残酷な笑い話(善悪に中立)。第三話では善神が悪神になる。第四話では普通の存在が悪神になる。そして第五話は本質的な悪神。第一話では「村人との仲直り」というおそらく新しい価値観が知里幸恵によって追加されている。

2010-10-13 15:19:37
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。つまり第一話に「仲直り」を置き、その後ろにさまざまな悪の形とそのオキキリムイによる成敗を配置してある。これは知里幸恵の主張である。彼女の何と結びつけるかは人それぞれ。私自身はあまりうがった見方はしたくない。

2010-10-13 15:24:07
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。第五話までで知里幸恵の善悪観がそろうが、第六話ではもうひとつの問題が提示される。つまり、オキキリムイは絶対的な善なのか?というもの。

2010-10-13 15:26:29
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。原稿では1~5話が1冊にまとめられているので、この話は追加ということになるか。だが、うまく並べられている。これも魔物退治だが、退治するヒーローはオキキリムイではない。

2010-10-13 15:36:18
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。話としても面白い。主人公が見知らぬ男の行く手をさえぎる。男は怒って「岬の今の名と昔の名を言え」と「物知り競争」をしかけてくる。主人公は岬の新旧の名、川の新旧の名をたちどころに答える。すると男は今度はウシンリッピタ「素性の解き合い」をしようという。

2010-10-13 15:42:02
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。ウシンリッピタ<ウ・シンリッ・ピタ「互いに・先祖・をほどく」。アイヌ伝統文化の価値観では、相手の正体(先祖や来歴)を知ることは重要である。それによって相手より圧倒的に有利となるから。現代でも同じだけれど。

2010-10-13 15:44:51
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。第三話~第五話までのオキキリムイが最初相手に対し正体を隠すのも相手に対し優位を保つため。巫術でわざと見えなくしている。逆に巫術で相手の正体を見抜く。この「見る」力は巫術ともいえるし、たんなる洞察力ともいえる。これがいわゆる「ヌプル」のひとつ。

2010-10-13 15:50:09
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。アイヌ口承文学の諸テキストで登場人物の「正体」が問題になる。これはたんにミステリー仕立てという技法ではなく、正体を掴むことが圧倒的な優位だから。ユカラ(叙事詩)などでは主人公が巫術でもやを立ち込めさせ、自分の姿そのものを隠したりもする。

2010-10-13 15:55:20
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。この話ではまず主人公が相手の男の正体を暴く。昔オキキリムイが小屋を建てたときに作った木製の炉縁(イヌンペ)。それが捨てられたのをカムイたちがもったいなく思って魚にした。それが男の正体、炉縁魚「イヌンペイチェッポ」である。

2010-10-13 16:00:52
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。「オキキリムイの作った炉縁が変化したイヌンペチェッポという魚がお前で、自分の正体が分らないので、人に化けて歩き回っているのだ」と主人公が指摘する。それを聞いた男は興奮し「お前は狼の子だ」と言うと赤い魚になって海に消える。

2010-10-13 16:07:21
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。「自分の素性が分らなくなった道具が、人の姿でうろつきまわり、人々に害をなす」という話はほかにもある。それらは自分の正体を知りたくて害をなすのである。だから正体を教えてやれば消え、二度と害をなさない。

2010-10-13 16:09:07
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。アイヌ伝統文化の価値観では、何事においても、来歴・正体・素性を知ることは大切である。これは先祖の名を記憶し、伝統を守る考えに通じる。哲学的なレベルでは「自らのアイデンティティを喪失することは他者にとっても危険である」ともいえよう。

2010-10-13 16:13:21
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。知里幸恵は哲学的なレベルで「アイデンティティの危機」に直面した世代とは必ずしもいえない。民族アイデンティティを喪失しようとしていたアイヌ民族の姿がイヌンペチェッポに重ねられていた、というのはうがちすぎであろう。むしろ逆に、現代人への警鐘ととりたい。

2010-10-13 16:16:15
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。この話ではオキキリムイは善神というより、元凶である。炉縁が曲がったのは、炉縁のせいばかりではない。それが変化して人々に害をなしたのは、炉縁の心がけが悪かったからではない。だが、人々は迷惑する。誰も悪くないのに生じた悪。これは第一話~第五話とは異なる。

2010-10-13 16:18:12
@paggpagg

アイヌ神謡集第六話。ところで、ここに登場する炉縁魚「イヌンペチェッポ」(他の伝承ではイヌンペイペなどとも)は謎。よく分らない魚。普通イヌンペイペと呼ばれるのは長い魚だという。ここでは「赤い魚」ということになっているだけで、長いといわれていない。

2010-10-13 16:21:13
前へ 1 ・・ 3 4