知里幸恵『アイヌ神謡集』前半

12
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。話の内容は、獲物になりたがらないウサギの話。昔まだウサギが鹿ほども大きかった頃。兄弟ウサギがいて、兄のほうが毎日人間の設置した「仕掛け弓」を壊している。日本語文では「弩(いしゆみ)」となっているが、注釈にもあるように、自動発射式の毒矢のこと。

2010-10-13 03:55:35
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。兄ウサギはたんに獲物にならないだけでなく、仕掛け弓を壊すという悪さをしている。そのために人間から苦情が入り、オキキリムイが退治に乗り出したのであろう。

2010-10-13 03:58:26
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。ただ、小動物は矢に当たらないので、ここで仕掛けられているのはおそらく上から下に締め付ける方式のものにちがいない。シベリアで用いられていたクロテン用の罠と同じようなものだろう。ただし、実際に最近までウサギを獲っていた罠はいわゆる括り罠。

2010-10-13 04:02:33
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。罠に関する描写はよく分らない。鹿ほどの大きさがあったウサギなら鹿用の仕掛け弓でもいいだろうが、矢が飛んだとは言わず、むしろ描写からは締め付け式の罠らしい。いずれにしてもオキキリムイの蓬製仕掛け弓であえなく捕まり、煮られてしまう。

2010-10-13 04:07:47
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。オキキリムイはウサギを解体せず、そのままバラバラに切って煮はじめる。ここでウサギは「悪い死に方」するのは嫌だ、と逃げようとする。ちゃんと解体されないと「再生できない」ということなのだろう。戦闘用の刀で細切れにするのは化物退治の方法でもある。

2010-10-13 04:13:07
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。ウサギは自分自身の肉片に変身して湯気に紛れて逃げ出す。「肉片」にあたるアイヌ語「カマハウ」はよく分らない単語。「煮えた肉」のことを指すか。そこでウサギが振り返るとただの猟師ではなく、オキキリムイだったことが判る。

2010-10-13 04:18:58
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。猟師の正体がオキキリムイだと気づいたのは偶然ではない。オキキリムイはそれまで自分の正体を悟られないように魔法の力でウサギの目を眩ませていた。ウサギが逃げて振り向いたときに、わざと自分の正体を見せたのである。それでウサギも「ああ、逃がしてくれたのだ」と悟る。

2010-10-13 04:21:36
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。ウサギは昔は鹿ほども大きかったのに、悪さをしたために再生不能にされかけた。そのため今のように身体が小さくなってしまった、という話。一種の「ウサギが小さい由来話」である。

2010-10-13 04:24:46
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。ウサギと鹿については、脚を取り替えたという話もある。つまり昔はウサギに鹿の脚が、鹿にウサギの脚がついていた、という話。などなど起源譚(由来譚)がある動物らしい。

2010-10-13 04:26:26
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。このウサギについては「イセポ・トノ」と表現されている。イセポは「ウサギ」、トノを知里幸恵は「首領」としている。「トノ」は「カムイ」とちょっと違う。カムイは神であり、また何かを呼ぶときの敬称。トノはもう少し具体的な代表者のことらしい。

2010-10-13 04:30:11
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。例えばホロケウカムイ「狼神」のカムイはいわば敬称。狼は各個体がカムイである。それに対しホロケウトノは「狼の首領」でトノは代表者の意味。狼たちの間で、首領である特殊な個体がいる、ということになる。

2010-10-13 04:34:50
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。トノは和人に対しても用いるが、カムイは和人を含め人間に対して基本的には用いない。イサントノ「医者」とはいうが、イサンカムイとは言わない。ちなみに「和人のうちで一番偉い人」を「カムイトノ」と呼ぶが、これは「神のようなトノ」であって「神様」という意味ではない。

2010-10-13 04:40:58
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。この話はウサギが死ぬところで終わっている。アイヌ口承文学には「死ぬ直前に言い残す」という形式が多い。ウパシクマ「言い伝え」はまさに「その人の人生の物語」であるから。この話でもパシクマ「言い伝える」という動詞が用いられている。

2010-10-13 04:46:00
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。第二話の狐の「見誤り事件」では狐は死なないから、話も死ぬところまで語られない。第三話は黒狐退治が事件の内容だから、話も黒狐の死で終わる。だが第四話は、ウサギが死ぬこと自体は事件と関係ないのに、話がウサギの死で終わる。これはアイヌ口承文学の特徴。

2010-10-13 04:52:47
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。第一話から第四話までの並べ方は、おそらく意図的。ここまででいわば第一部が終わる。簡単にいえば動物神が心がけによって善神・悪神になる、という内容の話。形式から見ると、第一話が本格的な長編で、第二・三・四話はそれぞれアイヌ口承文学の特徴が表れている。

2010-10-13 05:03:09
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。このあと第五話・第六話は小品。それからがいわば第二部で、第七話・第八話と人間を助けるカムイの長編で始まり悪神退治の小品が続く。そして最後に善行が報われる話で終わる。並べ方が決定された過程はよく分からないが、意図的。

2010-10-13 05:13:30
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。追記。少し前のツイートで「ウサギが死ぬこと自体は事件と関係ないのに、話がウサギの死で終わる。これはアイヌ口承文学の特徴」と書いた。第二話は死で終わらないが、そのような話はむしろ少ないことを追記しておく。

2010-10-13 06:55:16
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。これは小品だが魔物退治の典型話。話の展開としては第四話とよく似ている。原稿では第一話~第五話が1冊のノートに書き込まれている。ここまでが当初の構想だったのかもしれない(あるいは前半部)。

2010-10-13 14:17:04
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。この話を読んでから、第三話・第四話を見直すと、いろいろと合点がいくはず。魔物ニッネカムイが人間を脅かすのでオキキリムイが退治すること。オキキリムイは魔法の力(巫術)で魔物を挑発し、騙して退治すること。退治するときには細切れにすること。

2010-10-13 14:23:14
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。火の神が魔物から村を守る場面が出てくる。当たり前の行為なのだが、これが具体的な場面として語られるのは案外珍しいのではないか。火の神は金属製の杖を振りかざし火炎で攻撃するのだが、この魔物は意に介せず村に侵入する。恐るべき魔物である。

2010-10-13 14:28:01
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。オキキリムイは正体を隠し二人連れで魔物の住処に来る。そして連れの「顔色の悪い男」に「臭い臭い」と魔物を挑発させる。男の正体はオキキリムイが巫術を用いて自分の糞で作ったダミーである。糞に「臭い」と言わせる侮辱が面白い。

2010-10-13 14:33:01
@paggpagg

知里幸恵『アイヌ神謡集』は青空文庫で読めます。http://www.aozora.gr.jp/cards/001529/files/44909_29558.html。岩波文庫でも発売中。

2010-10-13 14:34:10
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。魔物ニッネカムイは男の正体が糞とも知らず飲み込んでしまう。そしてオキキリムイを村中追いかけまわす。村は大騒ぎ。火の神も火炎で攻撃してカオス状態。そんな中、オキキリムイは例によって蓬の弓矢でニッネカムイを射殺する。

2010-10-13 14:37:39
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。ニッネカムイといってもおそらく一種類ではない。「ニッネ」は「悪い」「悪魔的な」などという意味で、ほかの魔物に対する形容としても用いられる。ニッネカムイがどんな姿をしているのか分らない話が多い。この話ではなんと「チャタイ」である。これは日本語「蛇体」だろう。

2010-10-13 14:40:29
@paggpagg

アイヌ神謡集第五話。知里幸恵はアイヌ語「チャタイ」を「竜」とする。この話のニッネカムイはニタトルンペ<ニタッ・オロ・ウン・ペ「湿地・のところ・にいる・者」だから蛇体なのだろう。オヤウ(ホヤウ)と呼ばれる蛇体のカムイはしばしば登場する。チャタイというのは他であまり見ない言葉。

2010-10-13 14:47:29