知里幸恵『アイヌ神謡集』前半

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@paggpagg

アイヌ神謡集第二話。この話もちゃんと「カムイは自分の世界では人間の姿をして暮らしている」を踏襲している。最後に家が火事だと見間違える場面。妻はアワを脱穀しているし、そもそもちゃんと火事になるような家に住んでいる。

2010-10-11 14:52:04
@paggpagg

アイヌ神謡集第二話。この話には、「トワトワト」という素晴らしくやりやすいリフレイン(アイヌ語では「サケヘ」という)がついている。類話の録音もあるけど、自分なりに曲調(節)を考えてひそかに自分の神謡にしちゃうのにちょうどいい。

2010-10-11 15:06:09
@paggpagg

アイヌ神謡集第二話。歌い方は、トワトワト シネアントタ/トワトワト アラモイサムン/トワトワト ヌニペアシ/トワトワト クスサパシ/トワトワト スマトゥムチャシチャシ (トワトワト)/トワトワト ニトゥムチャシチャシ (トワトワト)/てな具合。

2010-10-11 15:11:00
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。人それぞれ着眼点はあるだろうけど、私にとっては興味深い話。登場人物が「オキキリムイ、シュプンラムカ、サマユンクル」の三人で知里幸恵によれば従兄弟同士。誰だこの「シュプンラムカ」って、と思う。誰だって思うだろう。

2010-10-11 23:25:32
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。基本的に道南(西)の諸口承ではオキクルミと呼ばれる文化英雄神が、ときに力の劣るサマユンクルと二人組で登場する。いっぽう道東では逆にサマユンクルが文化英雄神。樺太では文化英雄神はオキクルミでもサマユンクルでもなくヤイレスプと呼ばれる。

2010-10-11 23:37:17
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。スプンラムカsupunramkaを文化英雄とする伝承を持つ地域は寡聞にして知らない。おそらく樺太のヤイレスプの相棒「ポニポニクフ」「パーリオンナ」などと同じ、たんなる脇役なのだろう。

2010-10-12 00:16:34
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。主人公はシトゥンペカムイ「黒狐神」。狐は普通は悪神だが、黒狐は善神。シトゥンペは知里真志保によればシトゥ・ウン・ペ「山・にいる・者」で狐の敬称。だが、地域によってはシトンピとも呼ばれ、そのときにはトンピ「光」とイメージが重なるに違いない。語源はどうあれ。

2010-10-12 00:36:34
@kamomenohiko

@paggpagg なるほど、黒狐は善神。ちょっと手元の「狐 http://t.co/UTqZtAG 」という本をめくってみたのですが、続日本書紀には、伊賀国が玄狐(黒狐)を祥瑞として朝廷に献じたという記載があるそうです。黒狐出現と稲荷創祠との関連性も若干だけ示唆してますね。

2010-10-12 00:58:44
@paggpagg

@kamomenohiko アイヌ伝統文化のキツネ伝承の多くは日本の影響だと思います。もちろん部分的には北周りの伝承もあったでしょうし、もとは中国大陸でしょう。キツネに関する伝承は類似のものがモンゴルにも広まっており、どこがオリジナルかはよくわかりませんが。

2010-10-12 01:14:35
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。主人公の狐がオキキリムイたちの船を見ると「私の持ってる悪い心がむらむらと出て来」る。「心」の原語は「プリ」。この語は「ふるまい」も含む。思っただけじゃなくて行動も当然伴う。この狐は高位のカムイだが、普段から悪いことをしていることがうかがえる。

2010-10-12 02:40:48
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。黒狐はシリウェン・ニッネイ「悪天候・魔」を呼ぶ。カムイは善悪に関わらず、単独ではなく仲間がいる。ちなみにここで「つむじ風」は原語「スプネ・レラ」。渦を巻いた風のこと。中野にあったアイヌ料理店「レラチセ」は「塊になった風」のこと。ちょっと違う。

2010-10-12 02:57:30
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。「レプンクラトゥイ ヤウンクラトゥイ ウウェウシ」(外国人の海と本島人の海の中間)まで漕ぎ出していたオキキリムイたちのレパチプ(外海用の船)は、黒狐が呼んだシリウェンニッネイ(悪天候魔)の暴風に翻弄される。

2010-10-12 14:28:36
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。オキキリムイたちが暴風に負けないので、黒狐はもっと暴風を強くする。するとサマユンクルが倒れ、スプンラムカが倒れる。よくある展開だが、多くの話ではスプンラムカは登場しないので、サマユンクルが倒れてすぐオキキリムイの番になる。

2010-10-12 14:31:34
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。オキキリムイは怒ってヨモギの弓矢で黒狐を射殺してしまう。「ヨモギの弓矢」は必ず登場するわけではないが、よくあるアイテム。知里幸恵の註に「遠出するとき必要品の一つに数えられ」とあるのは貴重な情報だが、意味がいまひとつはっきりしない。

2010-10-12 14:37:40
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。オキキリムイより「オキクルミ」のほうが一般には有名か。この名前を「翁」と結びつける説もあるが、ちょっと無理。それよりオキキリムイのキキリ「虫」のほうが気になる。もちろんスプンラムカ「ウグイの胸骨(?)」という名前も。

2010-10-12 14:59:42
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。例によって魂は黒狐の耳と耳の間にいて、オキキリムイと対峙する。この場面でオキキリムイは「ニコニコ笑って」いるが、原語ミナ「笑う」は「親しみ」「嘲り」に中立的。「ニコニコ」という知里幸恵の日本語表現は、次の残酷な展開(頭骨を便所の土台にする)を際立たせる。

2010-10-12 15:10:50
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。頭骨を便所の土台にされる、あるいは便所に落とす、などは再生を防ぐため。大きな送り儀礼などでは全ての骨を回収するが、日常的な狩猟では頭骨だけが保存され送られることが多かったらしく、再生に際して最重要。黒狐の魂は頭骨ごと便所行きとなった。

2010-10-12 15:15:54
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。この話では省略されているが、サマユンクルとスプンラムカはオキキリムイが事件後すぐに蘇生させた。そして3人とも何事もなかったかのように生き返って船を漕いで帰る。だから「2日後」にオキキリムイは単独で黒狐の死体と魂に会いにきた。

2010-10-12 15:21:07
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。オキクルミが悪神・悪魔を退治する話では、実はオキクルミがわざと挑発していることが多い。この話でも、普段から黒狐が船を沈めていたのだとすると、オキクルミはわざと先に手を出させたのかもしれない。

2010-10-12 15:25:14
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。この話は全体がオキキリムイによる策略であり、増長して悪事を重ねていた黒狐が懲らしめられた、という可能性が高い。おそらくオキキリムイのところに(人々からのカムイノミによって)苦情が入っていたのだろう。似たような話ではそういう事情が語られていたりする。

2010-10-12 15:41:23
@paggpagg

アイヌ神謡集第三話。結末は容赦ない。黒狐が改心しても許されることはない。オキキリムイは「おとり捜査」的手法でやっつけ、笑いながら再起不能にしてしまう。この厳しさがアイヌ口承文学の価値観。第三話以降はこのような勧善懲悪パターンが続く。

2010-10-12 15:56:06
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。ウサギの話。アイヌ口承文学においてウサギはあまり良い扱いはされない。大抵は悪役。「ウサギの呪いは最も恐ろしい」などともいうが、狩猟対象としては一般的だったらしい。女性や子どもでも簡単な罠で捕獲できるありがたい動物。ちゃんと褒めながら食べなくてはならない。

2010-10-13 03:34:55
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。この話のポイントは、全体の構成。まず兄ウサギが罠にかかり、弟は急を知らせに村に向かう。だが弟は途中でそのことを忘れてしまい、村に行かずに再び現場に戻る。すでに兄ウサギは獲物として持ち帰られた後である。ここからは今度は兄の視点で始めから物語が語り直される。

2010-10-13 03:41:41
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。話の視点が途中から変わり、しかも始めから語り直される、という構成は珍しくない。これこそ「一人称で語られる」というアイヌ口承文学の最大の特徴。最初から語り直すのは通常は混乱を避けるためで、単に視点変更だけのことも多い(そこに工夫が凝らされることもある)。

2010-10-13 03:45:16
@paggpagg

アイヌ神謡集第四話。この話はおそらくリフレインが2種類ある。弟の視点では「サンパヤ テレケ」(「走れ走れ」というような意味であろう)、兄の視点では「ケトカウォイウォイケトカ ケトカウォイケトカ」(「わーんわーん皮を剥がれた」というような意味であろう)。

2010-10-13 03:51:02