高関健さん、ABrの版問題について語る

あまりに興味深い内容だったので、まとめてみました。
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高関 健 @KenTakaseki

第2楽章ではTrioでの楽想の大きな変化やHarpの追加はもちろん、木管を含む管弦楽法に劇的な改善が見られ、全編が新しく書き直されたことが明らかだ。第3楽章では、中間的な「88年稿」も参照することにより、改訂の進行がさらに良く理解できる。

2010-10-11 10:59:28
高関 健 @KenTakaseki

第3楽章までは1880年までに行われた「自分の意思」による改訂と同じ発想によるものと理解できる。87年稿にも魅力的な部分は多く認められるが、90年稿への改訂により無駄が省かれ、音の選択および進行の必然性、凝縮された表現の獲得にも成功している。つまり明らかに良くなっていると思う。

2010-10-11 11:00:32
高関 健 @KenTakaseki

ABrが「自分の意志」ではない、演奏を前提とした改訂に取り組むようになるきっかけは、第7交響曲の初演にあったのではないかと、私は推測している。Leipzigでの初演にあたり、作曲家は指揮者Nikischと事前にかなり綿密に打ち合わせをしている。

2010-10-11 11:01:14
高関 健 @KenTakaseki

さらにMünchenでLeviが指揮をした際の大成功は、ABrの生涯における最大のものであった。Leviは決して尊大な性格ではなかったと私は考えるが、作曲家がLeviに対し「芸術上の父」と呼んで、第8交響曲の写譜を送り評価を求めるほどの相関関係になったことは疑いのないところだ。

2010-10-11 11:02:31
高関 健 @KenTakaseki

Leviたち擁護者が、ABrの音楽を深く理解していたかどうかは、相当疑問のあるところだが、第7交響曲の成功後、ABrは自分を取り巻く(擁護する)演奏家たちの意見を聞き入れるようになる。第3、第4交響曲の第3稿への改訂はこうして雰囲気の中で行われていった。

2010-10-11 11:03:21
高関 健 @KenTakaseki

87年稿と90年稿との比較により、この2種類の改訂はかなりのところまで分離できると思う。その意味でNowakが87年稿を出版した意義は大きい。Nowakは出版にあたり、全く新しく版を起こしたが、Haas版を版下に使った90年稿とは同じ部分でも記譜がかなり異なり、この点も興味深い。

2010-10-11 11:04:40
高関 健 @KenTakaseki

第8交響曲の第4楽章では、「自分の意志」による改訂と、「演奏の前提」による改訂の2種類が混在していると考える。しかも自筆原稿に直接改訂が加えられたので、状況はかなり錯綜しているのではないか?このあたりは校訂報告の公開が待たれるところだ。

2010-10-11 11:05:18
高関 健 @KenTakaseki

90年稿への改訂のうち、楽想の発展、楽器法の改善、音の選択の必然性などは「自分の意志」による改訂の範疇にあるものと考えられ、全面的に支持できるものである。しかし曲を寸断する短縮を含む改訂部分については、必ずしもそれが改善につながっていると言い切れないのではないか。

2010-10-11 11:06:38
高関 健 @KenTakaseki

作品のありのままの姿を研究し、作曲家が書いたものを徹底して洗い出し、原典版として出版する態度は、全く正しいものであり、私もその姿勢を高く評価する。ABrの作品では、Nowakを引き継ぐ第3世代の研究者たちがNowakの姿勢を引き継ぎ、その延長線上で研究を続けている。

2010-10-12 23:51:01
高関 健 @KenTakaseki

Haasたち第1世代の研究者が、それまで「改竄版」によって知られていたABr作品の本来の姿を示してくれた。Haasは改竄される以前の作品が持つ本質的な美しさに魅了され、残されたそれぞれの稿のうち、最も完成度の高いものを選び、演奏版として紹介することに大きく寄与した。

2010-10-12 23:51:29
高関 健 @KenTakaseki

Haasの研究は第2次世界大戦の終結とともに中断し、未完成に終わる。第3交響曲をはじめ、予告されていた第4交響曲の88年稿、第8交響曲の87年稿の出版も実現できなかった。部分的に完成した校訂報告も、限定版の大型スコアのみに付属したので、現在ではほとんど目にすることができない。

2010-10-12 23:52:13
高関 健 @KenTakaseki

Nowakは1937年頃からHaasの校訂作業を手伝っていた。したがって第8交響曲において編集の際、Haasが結果として原典に手を付けてしまい、「ミイラ取りがミイラになって」しまったことを十分に認識していたはずである。

2010-10-12 23:52:35
高関 健 @KenTakaseki

戦後Haasに代わって編集を担当したNowakは第2次全集版を、Haasの間違いを訂正する形で、稿の問題が少ない第9、第5、第6交響曲から出版し始める。その後1955年に第8交響曲の90年稿を、Haasにより87年稿から復帰させ、付け加えられた部分を取り外して出版した。

2010-10-12 23:54:53
高関 健 @KenTakaseki

90年稿の前書きでNowakは「すべて作曲家の書いた通りに」出版したと述べており、基本的にはその通りであると私も思う。同じ時期に行われた第1(90年稿)、第3(89年稿)、第4(88年稿)についてもABrが自分で書いたか、あるいは承認したものに間違いはない。

2010-10-12 23:55:17
高関 健 @KenTakaseki

Nowakが果たした最大の業績は、1つの交響曲に複数の稿の状態があることを明示し、各々を分離して出版したことにある。これによりABr自身による改訂の段階が、また「改竄版」との類似や違いもはっきり解るようになった。

2010-10-12 23:55:43
高関 健 @KenTakaseki

1960年代の終わりまでにNowakは主要作品についてそれぞれ一つの稿の出版を果たす。Haasが「改竄」した部分、Haasとは意見が異なる部分を明らかにして、より原典に近い形での演奏譜の出版が目的であった。複数の稿が存在しない作品については、これをもって原典版として定着する。

2010-10-13 09:27:39
高関 健 @KenTakaseki

Nowakは引き続き1970年以降に複数の稿がある作品、第8、第3、第4交響曲の第1稿などの出版を続ける。特に第3交響曲ではさらに73年稿と78年稿が分離して出版されたことで、3種類の稿の状態が確認できることになった。

2010-10-13 09:28:12
高関 健 @KenTakaseki

ABr3:3種類の稿を比較することにより、改訂の姿勢がより明快になる。Roederの校訂報告によれば、第2稿への改訂は第1稿の原稿の上に行われれ、変更の必要がない部分は第1稿をそのまま使い、全面的な変更や楽想の変わった部分についてのみ、新たに作曲した五線紙と差し替えられている。

2010-10-13 09:30:06
高関 健 @KenTakaseki

73年稿(第1稿)から78年稿(第2稿/正しくは77年稿)への改訂は、初演を目指したものであるが、他人の手を煩わすことなく、完全に「自分の意思」による改訂と認められる。前述したとおり、改訂により無駄を省き、構成も緊密になり集中力も高い。私も78年稿が最も優れていると考えている。

2010-10-13 09:30:34
高関 健 @KenTakaseki

第4、第8交響曲においても、第1稿から第2稿への改訂はほぼ同じように行われ、ほとんどの部分で大幅に改善されている。ただし第4交響曲ではFinaleがさらに新しく書き直された。そして第8交響曲において、問題のFinaleで改訂の状況が複雑になっている。

2010-10-13 09:31:29
高関 健 @KenTakaseki

ABr3:これに対し、89年稿(第3稿)への改訂は、すでに出版された78年稿に書き込む形で行われた。またFinaleでは部分的にFranz Schalkが写譜した手稿の上にABrが書き込みをしている。89年稿への改訂にSchalkがある程度関与したことは明らかであると考える。

2010-10-13 09:34:03
高関 健 @KenTakaseki

第3稿への改訂の結果、第3交響曲では、第2稿で完成していた均整のとれた形式感や美しい継続性が、特にFinaleにおいて著しく後退してしまったという印象は免れない。また当初一般化した「改竄版」と89年稿は、構成の上では全く同一と言って良い。

2010-10-13 09:34:39
高関 健 @KenTakaseki

2004年にKorstvedtが、第4交響曲のいわゆる「改竄版」とほぼ同様の内容を、全集版の88年稿(第3稿)として出版した。Korstvedtは前書きで、88年稿への改訂についても、ABr自身の全面的な関与がはっきりしたので、出版に踏み切ったと書いている。

2010-10-13 09:37:46
高関 健 @KenTakaseki

第3交響曲では構成そのものに手を付けるなど、78年稿を短縮する方向に改訂が進んでいる。第4交響曲でもScherzoおよびFinaleでは曲を寸断する形での短縮が行われた。2曲とも管弦楽法が全面的に変更されており、第4交響曲の88年稿への改訂も、第3交響曲と状況が酷似している。

2010-10-13 09:42:14
高関 健 @KenTakaseki

第4交響曲における短縮(カット)は、後の「改竄版」での第5、第9、および第8交響曲でのカットと状況が同じと判断できる。問題の第8交響曲では、90年稿のFinaleにおける曲の構成が2か所を除いて「改竄版」と同じになっている。87年稿と比較すると、構成の違いは明らかになる。

2010-10-13 09:42:58
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