「スリー・ニンジャズ・アンド・ベビー」#2 ――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』(@NJSLYR )の二次創作小説、連載第二回です。 ・第一回(http://togetter.com/li/590041 ) ・第二回(このまとめ ) ・第三回(http://togetter.com/li/600028 ) ・第四回(http://togetter.com/li/605167 ) 続きを読む
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うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ハァ?なに言ッてンだ?」「お前が連れてきたのだ。お前が面倒をみるがいい」フェイタルはそう言うと、アグラしたイグナイトの膝の間に赤子の布包みを置き、「ではな、アンバサダー=サン」若き上司の肩をポンと叩くとドージョーを出て行った。……その時! 15

2013-11-22 21:39:28
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ホギャー!」フェイタルのあやしに沈黙していた赤子が再び泣き始めた。「うるせッ!」顔をしかめるイグナイト。「オイ、アンバサダー=サン、はやくしろ!」「なに?」「だから、早くそれで黙らせろよコイツを!」「待て、待て、手順が要るのだ」アンバサダーはシシマイ型UNIXに向かう。 16

2013-11-22 21:40:14
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

スリープ状態だったUNIXが再起動。アンバサダーの顔を緑に照らす。「ふむ……まずは人肌に暖めた湯で、この粉末を溶く、か」アンバサダーは文字情報を読み上げながら、「ヨロシイ&オイシイミルク」と書かれた長方形パックと哺乳瓶を取り出した。「ホギャー!」赤子は泣き続ける。 17

2013-11-22 21:42:24
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「チッ、なんだよソレ。アンタ、アイツに指示出し間違えたンじゃねェの?」「どういうことだ」「ホギャー!」「すぐ飲めるもん買ッてこいッて言やァよかったじゃねェか」「そうもゆかぬ。赤子はデリケートなのだ」「ホギャー!」「アア!うるせェ!なんでもいいからはやくしろ!」「……」 18

2013-11-22 21:44:29
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

アンバサダーはUNIX操作、文字情報を転写したパンチドテープを手に、ドージョーを立った。江戸時代風のキッチンの明かりをつけ、チャを淹れた時のヤカンで湯を沸かし直す。その間に「ヨロシイ&オイシイミルク」のパックを開け、スプーンで適量を掬い出し、哺乳瓶に入れる。 19

2013-11-22 21:46:42
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

湯はまだ沸かない。彼は大理石シンクにもたれた。……二、三時間前、泣きじゃくる赤子を文字通り手にイグナイトが現れた時の、衝撃と脱力が甦る。彼は頭を抱えた……年若い彼より更に若いこの部下の無軌道な言動はいつものことだが、今回はその経験から予想できる範囲をはるかに超えていた。 20

2013-11-22 21:48:43
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

イグナイトは赤子を手に入れた経緯を話し、これ(赤子のことだ)は退屈しのぎのイクサの必需品だと述べた。ストーンコールドと名乗る謎の野良ニンジャは赤子を求めて現れる、それまでここに置かせてほしい。アンバサダーは咄嗟に回答を思いつかなかった。その間も赤子は泣き続けた。 21

2013-11-22 21:50:17
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

もう一人の部下、フェイタルを召喚したのは、本当に何も思いつかなかったためだ。彼女はイグナイトの報告と主張を一笑いし、泣き止まないのは空腹のためと指摘。アンバサダーは、いま一人のネオサイタマ常駐ニンジャ、アブサーディティに買い出しを依頼……そして今に至るというわけだ。 22

2013-11-22 21:52:47
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

シュンシュン……微かな湯気が立ち上るヤカンから湯をユノミに注ぎ、濡れたテヌグイ・チーフで覆ってこれを冷ます。すべてUNIXで調べた通り。ニンジャである身がなぜこのようなベビーシッターめいたことを……と考えて、はたと彼は思い至る。 23

2013-11-22 21:56:19
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

……翌日。昼下がりのネオサイタマが霧に煙る。窓越しに遠くカスミガセキの高層ビルが神話巨人の群れのように佇む。トコシマ地区カミオンナ・ストリートの商業ビル四階403号室は、キョート風の奥ゆかしいBGMに包まれ、午睡にたゆたうよう。 25

2013-11-22 21:58:59
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実際時刻は午後三時半、四人の子供たちは昼寝の最中だ。寝顔を確かめたヤツハシ・ミゴワが、静かにフスマを閉めてキッチン兼応接間に戻ると、共同経営者兼送迎運転手のジン・フォトダが、来客にチャを勧めるところだった。来客用ソファに座るのは……若い女。 26

2013-11-22 22:00:33
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「アリガトネ」女はあけっぴろげな笑顔でチャをすする。ZZZZZZ!ヤツハシはその奥ゆかしさのかけらもない態度に嫌悪感を抱いた。やってきた時の横柄な態度も、勧められる前に勝手にソファに腰を下ろす行動も、先程からじろじろと部屋を見回す視線も気に食わない。 27

2013-11-22 22:02:11
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

さらに!「ゴチソウサマ」作法を無視してチャを飲んだ女は、くちゅくちゅと口をゆすぎ、チャ・カップにガムだけを吐いた。……ヤツハシは彼女を典型的なヤンクと見当。見た目からしてそうだ。無数のジッパーと鋲に彩られた、耐酸性ブラックレザーコート。破れたジーンズ、ワイルドなブーツ。 28

2013-11-22 22:04:32
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

そこで、ヤツハシは女の側に置かれた布包みに目をやる。その中身がなんなのか、ヤツハシにはすぐさま理解。なぜならここは「ウサギチャン託児所」!ヤツハシ・ミゴワと彼女の内縁の夫ジン・フォトダが経営する、ネオサイタマ市の認可を得た託児所であったから!……とするならば、中身は明らか! 29

2013-11-22 22:06:15
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

しかし……ヤツハシの注意は、女がアーとかウーとか唸りながら、先ほど書き終えた書類とともにテーブルに置かれたものにひきつけられる。それはクレジット素子!ジンを見やれば、彼も託児契約説明の合間にちらちらとクレジット素子に視線を走らせている。金がほしいのだ。 30

2013-11-22 22:08:14
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「……というわけでこちらでは一晩につき……」ヨロシサンマグカップのチャで唇を湿らせたジンが、ここ……「ウサギチャン託児所」の料金説明を続ける。それを半ば聞き流しながら、ヤツハシは布包みから目を逸し……そこで女と目があった。「オバサン」女は言い、包みを放った。 31

2013-11-22 22:10:55
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「アナヤ!?」ヤツハシは慌てて両手を差し出す!間一髪!布包みはヤツハシの両手に収まった!「ホギャー!」騒々しい泣き声!ヤツハシは一瞬狼狽えたが、すぐにヘイキンテキを取り戻し、「オーヨチヨチ」何度となく繰り返したメソッドにしたがってゆっくりと布包みをゆすり始めた。 32

2013-11-22 22:12:17
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「ナイスキャッチ」女はせせら笑い、どかりと背中をソファに預けた。「ホギャー!ホギャー!」布包みは泣き続ける。ヤツハシはあやし続ける。「オーヨチヨチ」あやしながら、彼女は布包みを開いた。現れたのはやはり、頑是ない赤子であった。「あら……」ヤツハシの顔がほころんだ。 33

2013-11-22 22:14:21
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

やがて赤子の顔から緊張が消え、初々しい唇がゆるやかに結ばれる……鳴き声が止む。「ヘッ、大したもんだな」女が尊大な態度で言うのを耳にしながら、ヤツハシは過去を回想する……初めて産んだ子を……離婚した夫の跡取りとして、今もキョートにいるであろう我が子を……。 34

2013-11-22 22:16:25
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

しかし……ヤツハシは赤子をあやしながら女を見る。まるで気のないそぶりでジンの説明を聞いている女は、この赤子にとってなんなのか。見たところ年は若い。服装からするにネオサイタマにありふれた無軌道ヤンク。すると、無計画セックス行為の果てにこの子供を産んだのだろうか? 35

2013-11-22 22:18:25
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

だが、それならばなぜ託児所に?ネオサイタマの低収入層市民における育児事情の知識が甦る。現政権下の平均月収と育児にかける費用の比例グラフ、育児内容クオリティは実際マッポーめいた格差の中にあり、託児所利用はその中でもアッパー層の選択肢だ。 36

2013-11-22 22:20:51
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ヤツハシはそっと布包みを開く。赤子の着ているベビー服は低所得層にお馴染みのブランド。しかし、履いているオムツは高級ブランドの中級商品。そしてオムツの装着手際は悪く、明らかに育児に慣れていないものの手による。このちぐはぐさはなんなのか。 37

2013-11-22 22:23:18
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ヤツハシが考え込んでいると……「では、ご了解いただけましたか?」ジンの確認に、「アー、ウン」女がおざなりに答えるのが耳に入る。「それで足りる?」女が示すクレジット素子をジンが端末に通すのが見える。「……アイエッ?」ジンが呻く。「足りない?」「いや……しかしこれでは……」 38

2013-11-22 22:24:26
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「くどくど言わずに受け取りゃアいいンだよ」女が笑う。ジンがおずおずとそれらを収めると、女はソファを立った。「今からですか?」とジン。「文句あンの?」女の目が細められ、立ち上る剣呑なアトモスフィア。「イエ……アッハイ」ジンが答え、ヤツハシは契約が成立したことを知る。 39

2013-11-22 22:26:17