＃角川小説 「エフ・エム」 vol.1

水木ナオ＊ @nytf_fm

これは勝つか負けるかの戦いだからだ。どの店にどのくらい入荷し、何時から販売されるのか。情報を収集し、己の手で全種類コンプリートできたときの達成感たるや……！とはいえ個人の力には限界もある。【80:47】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

水木ナオ＊ @nytf_fm

例えば全国でご当地限定版なんぞ展開された日には、個人じゃ時間も金も無い。そんな時はTwitterで知り合った仲間と共闘するわけで、現に先日もオフ会で各々が確保した地域限定ボトルキャップの交換会を――【80:03】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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そこまで回想したところではっ、とした。ちょっと待て。さっき、この男が俺に見せた携帯の画面。Twitterの画面だった……ということはこいつのアカウントがどこかに出ていたんじゃないのか？【79:25】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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「あんた、俺のフォロワーか？」「いいえ」「オフ会で会ったことがある！」「違います」くそっ。「もう１回、携帯を見せてくれ！」「駄目です。僕のアカウントが分かると、あなたが気付いてしまいましたから」【78:59】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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ぎりっと奥歯を噛み締める。思い出せ、どんなアイコンがあった、アカウントは……畜生、なんでもっとちゃんと見てなかったんだ！「おい、スマホ返してくれ」「駄目です」「フォロワーじゃなきゃいいだろうが！」【77:31】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

水木ナオ＊ @nytf_fm

「あなたがスマホで探ろうとしているのは記憶ではなく、記録です。そこに私は居ませんよ。それに」男は子供が拗ねる様に口を尖らせた。「メールやＬＩＮＥでこっそり誰かに連絡とられちゃったら困りますもん」【77:10】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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「そうか。それで、最初にスマホを……！」まんまと相手に渡してしまった己の迂闊さに歯噛みする。握り締めていた手の平にはじっとり汗が滲んで、俺は舌打ちするとそれをごしごしと膝で拭い取った。【76:49】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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些細なことから大切な思い出まで……じゃあ身近なところで、「家族関係か？」「具体的には？」男はにっこりと首を傾げる。その細められた一重の吊り目、父方は一重瞼が多い気がする……が、それだけだ。【75:57】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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祖父母は両方とも既に他界している。親戚とも、たまに法事の時に集まる程度の付き合いだ。流石に従兄弟の顔は忘れないし、後は顔こそ覚えていなくとも歳が離れていて、到底この男とは合致しない。【75:02】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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言ってはみたものの、家族は無いだろう。こんなことに巻き込まれている俺が言うのもなんだが、俺を含めて皆至って普通の人達だ。父は今年で四十年勤め上げた会社を今年定年退職するサラリーマンで、母は専業主婦。【73:35】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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あまり考えたくないが、「家族の誰かを恨んでる奴、とか」「誰かじゃ分かりません」実家には父と母がいるだけだ。姉は2年前に結婚して、今は長野に住んでいる。目の前の男を狐とするなら、義兄は熊みたいな男だ。【74:12】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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俺にも普通を求めて、道を外したり、保証の無い生き方を選ぶ事は許されなかった。大学の頃、「映画の道に進みたい」と話したら勘当されかけたくらいだ。ま、だったらやめようと思う程度の夢ではあったが。……あ！【72:46】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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そうか、それがあった。「大学ん時の、サークルの先輩？」「いいえ」「じゃあ後輩」「いいえ」大学で所属していた映画の自主制作サークル。苦楽をともにした同期の顔は忘れない。じゃあ、「……ノリコの関係者？」【71:58】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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サークルの同期で、映画の脚本担当であり女優も務めていたノリコ。俺にとって、人生で二人目の彼女だった子だ。肩で切り揃えた茶色の髪がふわふわとした、笑うとふにゃんと目がなくなる、背の小さな女の子だった。【71:11】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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大学入学とほぼ同時に入ったサークルでノリコと出会い、4年間付き合った。ノリコと一緒にいる時間は楽しくて、何より楽だった。女の子は言われると嫌がるそうだけど、多分、お互いに、空気みたいな存在だった。【70:46】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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大学卒業後、ノリコは地元の宮城に帰って就職することになった。遠距離となった俺を慰めるつもりだったんだろう、就職して半年たった頃、友人のブチが合コンに誘ってくれた。そこでハルミと出会った。【70:13】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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ノリコに電話で別れを告げたのは、それから1週間後の夜だった。それから今までノリコとは会っていない。あの時、電話の向こうで泣いていたノリコの声は今も忘れない……が。やっぱりノリコは無いな、と思い直す。【69:35】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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だって、「関係者とは？」「……ノリコの旦那、とか今更無いな」「ええ、違います」そう、結局ノリコは俺と別れて半年後にあっさり地元の男と結婚したのだった。付き合ってほぼ一年だったそうだ。【68:54】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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ふうと息を吐きながら、知らず力が入っていた肩を落とす。今になって思うと、あの時ブチは、ノリコが他の男と付き合っていたことを知っていて俺を合コンに誘ったんじゃないだろうか。あいつは友情に厚い男だから。【68:08】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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そんなぼんやりした思考を打ち破る様に、突然、ピリリと聴き慣れた電子音が響いた。向かいの男の手元で鳴る、それは俺のスマホがメールの着信を告げる音で。「おや」男は何の迷いもなく画面に人差し指を滑らせる。【67:37】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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そして、「ゴミブチさんからメールですよ」にっこりと俺に見せ付けたスマホには確かに、さっきまで思い浮かべていたブチからのメールが届いていたが、その前にだ。「あんた、どうやって、画面ロック解除したんだ」【66:46】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

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「はい？ああ、パターンを先程拝見していましたので」何でもないことの様にさらりと男は言う。さっき？店に入って俺がスマホを出した、あの一回で？なんだこいつ、気持ち悪い、怖い、ぐうっと吐き気が込み上げる。【65:54】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO

水木ナオ＊ @nytf_fm

縋る様にスマホに目を走らせる。『カミヤ町で爆発ってニュースでやってるけど、お前生きてる？無事ならメールよこせ』ぶっきらぼうだが心配が伝わってくる文面にじわり目頭が熱くなって、俺は慌てて目を擦った。【65:19】 #角川小説 http://t.co/0AYyCe5POO