大罪戦闘企画

《幕間記録》
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ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

『憤怒』は一瞬顔を顰めて足を止めた。カツン、カツンと足音が近づいて来る。振り返ることはしなかった。 カツン、と背後に一際高い音。それから音の主は機嫌良さげに『憤怒』の正面へと回り込み、その薄い水色の髪を揺らして笑う。輝きの無い銀灰色の瞳に、けれども表情は何処までも楽しげで。

2013-11-27 23:39:52
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

けれども、その双眸は、『憤怒』の腕に抱かれた『暴食』を認識すると。 「むむむむむ〜?火遊びはいけませんよ〜?」 『憤怒』を鋭く睨みつける刃となった。 くっ、と美しい相貌の眉間に皺が寄り、口がへの字に曲がる。白い肌がじわりじわりと怒色に染まるのが分かる。

2013-11-27 23:40:22
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

女が何を想像したかなどは考えるまでもなかった。 ふう、と溜息を一つ。レンズの奥の青海に不快を浮かべ、睥睨し。 「……何を勘違いしているのかは分かりたくもないが、城の前で拾っただけだ。こんなんでも女だ。放って置くわけにはいかないだろう」 素っ気なく、そう答えた。

2013-11-27 23:40:43
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

女はぱちりぱちりと瞬きをして、次の瞬間には怒色は弾けるように解けていた。その顔に柔らかく穏やかな笑みが戻り、まるで輝くかのような笑顔を浮かべ。 けれども依然、その目は暗く。 「そうでしたか〜お兄さんは良い人ですね〜」 何も映していないかのような色の無い瞳で、女は笑む。

2013-11-27 23:41:02
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

『憤怒』はそれにそっぽを向いて、また一つ溜息を吐いた。 彼が『暴食』を見つけたのは城の前だった。城の前の、白の園。あの『傲慢』を象徴するかのような鈴蘭に包まれて、死んだように眠る『暴食』を拾って来たのだ。 それが、事実。けれども信憑性に欠ける話ではなかろうかと『憤怒』は思う。

2013-11-27 23:41:41
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

けれども眼前の女には疑う様子など無く、全面的に信じている。疑わぬことは確かに『美徳』かもしれない。けれど、疑うことを知らぬことは、むしろ−− 思考を切る。自身には関係の無いことだ。 「ところでですね〜」 女が口を開く。いったい何だと睨みつけても、女は変わらず明るい声で言葉を紡ぐ。

2013-11-27 23:42:56
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「お兄さんはハインリヒ先生を知りませんか〜?」 そして、その問い掛けに。 「ハインリヒ?……ああ、あの、」 ゲスか、と言いかけて口を噤んだ。 この女があの薄汚れた『強欲』に心酔していることは、この城に居るものならば誰もが知っていることである。

2013-11-27 23:43:37
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

『憤怒』には何よりも理解出来ぬことであるのだが、下手なことを言えば今此処で一戦交えることになるのは目に見えていた。そうなれば、己だけでは無い。愛しい彼女にまで火の粉が降りかかることとなるだろう。 それは、望むところでは無い。

2013-11-27 23:44:04
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「アイツなら居ない。あの子供も探しに行ったままだ。用があるなら自分でも探しに行ったらどうだ」 言いながら、足を踏み出す。あの二人について知っていることなど己には無い。もう良いだろうとその横を通り過ぎた。今はこの女に構っている場合ではない。 「う〜ふ〜ふ〜それもそうですね〜」

2013-11-27 23:44:20
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

楽しげな声はなおも背に届けられる。それに答えてやる気も、立ち止まってやる気ももはや無かった。 「ではでは私はお出かけしますので〜クレスセンシアさんを寝かせる時はちゃんと毛布をかけてあげてくださいね〜」 そんなことは言われなくても分かっている。心中だけで吐き捨てる。

2013-11-27 23:44:36
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

カツン、カツン、と再び足音。遠ざかっていくそれに、また溜息がこぼれ出る。 とりあえず、『暴食』は広間のソファにでも寝かせよう。毛布は自室から持って来て掛けてやれば良い。それから彼女のために紅茶を淹れて、目が覚めるか、代わりが来るまでは見ていてやらねばなるまい。

2013-11-27 23:44:46
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

ああ、面倒だ。そう思いながらも、『憤怒』は『暴食』を抱いたまま、廊下を行く。

2013-11-27 23:44:51