「敗戦」をのりこえる―平石直昭「理念としての近代西洋」(1995年)

 1945年8月15日、いわゆる「玉音放送」をきっかけに、日本のひとびとは戦争の終結を知ることになります。それとともに、彼らは敗戦と日本社会の復興に向き合うことになりました。  以下では、とりわけ後者の復興について考えてみましょう。この点に関して重要な議論を提起している、平石直昭氏による「理念としての近代西洋」という論考からの引用の抜粋です。 参考文献 続きを読む
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dabitur @dabitur

[book] 今日はこのへんをひとつ / 平石直昭「理念としての近代西洋―敗戦後二年間の言論を中心に」 in:中村政則ほか編(1995)『戦後思想と社会意識』(占領と戦後改革第3巻) http://t.co/0Z61IBkmp3

2013-12-05 01:54:28
dabitur @dabitur

[quote] 「敗戦の年から翌年にかけての言論をみてゆくと、政治的・経済的な民主化の議論とならんで、しばしば『近代的人間類型の創出』や『封建的人間から民主的人間への変革』などが強調されているのが分かります」(平石直昭(1995:57))

2013-12-05 01:55:15
dabitur @dabitur

[quote] 「この議論は、当時一般には、ヨ-ロッパの歴史発展の図式を前提した上で、先進的な西洋近代をモデル化し、そこから後進国日本の当面する課題を提示したものとしてうけとられたようです。今日でもそのようなものとして理解される場合が多いのではないでしょうか」(ibid.)

2013-12-05 01:55:51
dabitur @dabitur

[quote] 「けれども当時の具体的な文脈のなかにおいてみると、こうした精神革命の強調が、〔西洋を理想化するような〕一般的図式のたんなる適用にとどまらず、もっと切実な問題意識に発していたことが分かります」(平石直昭(1995:58)) 

2013-12-05 01:56:56
dabitur @dabitur

[quote] 「まず第一に、戦後日本の改革が、占領軍による『外からの』改革として着手されてしまったことへの苦い自覚があります。日本国民の側には、民主的改革を自力でやるための思想的準備が、十分できていなかったということです」(平石直昭(1995:58))

2013-12-05 01:57:23
dabitur @dabitur

[quote]「財閥解体、農地解放、憲法改正、戦争責任の追及*しかりです。これを象徴的に示すのは、治安維持法の廃止をめぐる経緯です。それは国民の思想・言論・結社の自由を長くしばってきた悪法*にもかかわらず、それが廃止されたのは、国民や議会の発意によるものではありません」ibid.

2013-12-05 01:59:55
dabitur @dabitur

[quote] 「〔同法は〕占領軍の意志により、ようやく〔1945年〕10月になって廃止されたのです。8月15日に天皇のラジオ放送があり、占領軍の進駐や*降伏文書への調印があったのちでも、それを廃止させようという声は大きなものにならなかったのです」(平石直昭(1995:58))

2013-12-05 02:01:32
dabitur @dabitur

[quote] 「当時いわれた精神革命の主張には、こうした占領軍主導の民主化にたいして、こちら側がキャッチアップを試みたという一面がありました。すなわち『外から』の力によって始められた制度という外枠の改革を、いかに精神的な面で実質化してゆくかという問題意識です」(ibid.)

2013-12-05 02:02:21
dabitur @dabitur

[quote] 「大塚久雄の有名な『近代的人間類型の創出』という論説も、同様の現実認識にもとづいていました」(平石直昭(1995:59))

2013-12-05 02:02:58
dabitur @dabitur

[quote] 「たとえば彼は、『(日本)経済の民主的再建が単に外側から強力によって強制されつつ、その結果いはば魂のぬけた民主主義の制度的形骸、あるいはいはゆる『死せる機構』のみが創出されるというのではなく、』(平石直昭(1995:59))

2013-12-05 02:03:52
dabitur @dabitur

[quote] 「『再建日本それ自体の裡から自主的に、自発的に遂行されることによって、真底から民主的なものとして現はれなければならない』と強調しています。ここにいう『外側から』の『強力』が、占領軍をさしていたことは明らかです」(平石直昭(1995:59))

2013-12-05 02:05:39
dabitur @dabitur

[quote] 「そして大塚によれば、この自主的再建のためには民主的な政治的主体の形成が不可欠であり、さらにそのためには『人間的主体の民衆的基盤が広汎にどうしても成立していなければならない』とされます」(平石直昭(1995:59))

2013-12-05 02:06:21
dabitur @dabitur

[quote] 「第二に、*当時『個の確立』や『自律的人格』が主張された背後には、戦争にたいして国民はどう関わったのかを問い、あわせて敗戦後にみられた『民主主義』への大勢順応的な転向現象を批判する姿勢がありました」(平石直昭(1995:61))

2013-12-05 02:07:18
dabitur @dabitur

[quote] 「当時の日本では、占領軍による戦犯の逮捕・軍事裁判や、軍国主義者の公職からの追放、また日本共産党による戦犯リストの公表など、いろいろの形をとって、戦争指導者にたいする責任追及がなされました」(平石直昭(1995:61)

2013-12-05 02:07:39
dabitur @dabitur

[quote] 「それは戦時中に彼らのはたした役割からして当然のことでした。しかし太平洋戦争に限っても4年間も続いた総力戦が、国民による下からの支持や協力なしに遂行きれたとは考えられません。しかし多くの場合国民は、自己の戦争責任を暖昧なままにすませてしまったようです」ibid.

2013-12-05 02:08:21
dabitur @dabitur

[quote] 「むろん『一億総織悔』という議論はありました(一九四五年八月二八日の記者会見におけら東久邇宮首相発言)。しかしそれは、敗戦をもたらした原因には国民の道義の類廃もあったという敗戦責任の話であり、外国にたいする侵略戦争の責任を問うものではありませんでした」(ibid.

2013-12-05 02:09:06
dabitur @dabitur

[quote] 「また『戦争責任』という観念自体、そもそも国民の間に希薄だったという事情もありました。戦前の『教育勅語』『軍人勅諭』の下で国民に教えこまれた『責任』とは、『お上』や『お国』にたいするそれであり、『人道』にたいするそれではなかったということです」(ibid.)

2013-12-05 02:09:47
dabitur @dabitur

[quote] 「たとえば埴谷雄高は、『今までのわれわれは国民〔という概念〕は解ったが、人間〔という概念〕なんて殆んど解らなかった。ヒューマニズムと云ってもピンとこやしない』とのべ」(平石直昭(1995:62))  

2013-12-05 02:10:54
dabitur @dabitur

[quote] 「『非国民と云はれると怒るが、非人道的と云はれたって身に感じやしない』という友人の言葉を紹介しています(座談会「文学者の責務」『人間』一九四六年四月)。(平石直昭(1995:62))

2013-12-05 02:11:20
dabitur @dabitur

[quote] 「この座談会は、おそらく戦後はじめて、戦争責任の問題を主体的な立場から提起した画期的なものでしたが、そこで語られたこうした言葉自体、当時の日本で、国家をこえた普遍的な価値の感覚がいかに希薄だったかを示しています」(平石直昭(1995:62))

2013-12-05 02:11:54
dabitur @dabitur

[quote] 「そして今でもわれわれの周囲には、『お国』のために戦ったのに侵略戦争とはなにごとか、という意識が強く残っていることは、改めていうまでもありません」(平石直昭(1995:62))

2013-12-05 02:12:24
dabitur @dabitur

[quote] 「そうした中であらわれたのは、つい昨日までの戦争協力者が、今日は衣裳をかえて民主主義者として風をきるという現象でした。まさに占領軍主導による『天降り民主主義』の下で、国民的な規模で一種の大量転向が発生したわけです」(平石直昭(1995:62))

2013-12-05 02:13:29
dabitur @dabitur

[quote] 「自主的思考、自律的人格を前提とする民主主義とは、それが正反対の代物だったことは明らかです」「こうした状況の中で、国民にたいして自己省察を迫り、彼らの一人ひとりが意識を内側から変革することを求める主張が現われました」(平石直昭(1995:63))

2013-12-05 02:14:06
dabitur @dabitur

[quote] `「敗戦翌年に創刊された『展望』の編集長だった臼井吉見は、当時の思想状況にたいする彼の思いを、次のように回想しています(「戦後知性の構図」『展望』一九六四年一○月号)」(平石直昭(1995:64))

2013-12-05 02:15:01
dabitur @dabitur

[quote] 「『多くの人がこんどの戦争でだまされたという。じゃ、誰がだましたか? 軍や官や資本家だという。軍や官のなかへ入れば上からだまされたという。すると、最後に残る一人や二人で一億の人間がだませるはずがない』〔臼井吉見〕」(平石直昭(1995:64))

2013-12-05 02:16:20