大罪戦闘企画

第十八公演《邂逅白く歪みて》
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カーデ @ratan_ruten

目を開け、その文字列を瞳でなぞる。 並べられた単語、その意味を拾い合わせて出来た言葉。 それはつまり 「お前はあいつであって、あいつじゃないのか……?」 奇妙な問いかけ。言ってる本人ですら良く理解は出来てない。

2013-12-04 09:21:12
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

《あなたの、しってるひと、は》 無表情の下で、少年は懸命に歯車を回す。 《『あかのふんぬ(フェンヌー)』》 かちり、かちり。くるり、くるり。 《ぼくは、『たいだ』》 文字を綴り。 《ぼくは、かれ。かれは、ぼく、じゃない》 言葉を作り。 《『ふんぬ』の、しってる、こと、》

2013-12-04 09:57:23
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

《『たいだ』も、しってる、でも、》 問い掛けには答えを。 《『たいだ』の、しってる、こと、『ふんぬ』は、しらない》 錆び付いた歯車が止まることのないように。 《かれは、ぼく。ぼくは、かれじゃ、ない》 応えを。 《あなたは、ぼくを、しらない》

2013-12-04 10:01:18
カーデ @ratan_ruten

「……あーダメだダメだ、謎掛けは分からねえんだ」 くしゃりと短い金髪をかき上げ渋い顔をする。難しいことを言われて理解出来るような頭をしていない。 でも。 「あいつ、フェンヌーって言うのか」 一つだけ分かった、と笑みを浮かべた。

2013-12-04 10:20:35
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

浮かべられた笑みを、少年はぼうっと見つめて。 ——ああ、 ぱらぱらと、黒が隊列を乱し始める。割れて、別れて、黒の一部が少年へと帰り、更に背後の木へと流れた。音もなく黒は増え、木を覆い尽くして。 ——ゆめに『まよう』 黒が晴れ、少年へと帰る。その時には木は枯れ果ててしまっていたが。

2013-12-04 14:23:23
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

まるでそれに代わるかのように、少年の手が僅かに動き始めた。ゆっくりと、ゆっくりと、その手は白いテディベアを抱いて。 《フェンヌーが、》 黒は再び文字を綴り始める。けれども、今度は問いへの答えではなく。 《あなたのこと、ノウキン、って、いってた。》

2013-12-04 14:23:43
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

その顔は変わらず無表情のまま。けれども、ふわふわと、微かに形を持ち始めた己を留めて。歯車は先程よりも滑らかに動いて。 《ばかなひと、だ》 ——こわしたのに、わらうなんて。 《あなたの、なまえは?》 そう、問い掛けた。

2013-12-04 14:24:58
カーデ @ratan_ruten

「『ノウキン』ねぇ……あの野郎」 心の中でそう思われていたとは。 が、中々本性を表さなかった男からの隠されていない言葉。 そう考えてみればどこか可笑しく思え、眉間が緩む。 「俺は……アプレースティア」 質問には、少し揺らぎながら答える。 この名をまだ使って良いものなのか。

2013-12-04 21:34:22
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

——ああ、へんなひと。 ノウキン、は、悪口なのに。怒らないで、少し、穏やかな顔をして。へんなひと。 『少年』は、まだふわふわとして、定まらない。確かな形を持った時には、彼の表情の意図も分かるのだろうか。少年には、分からないけれど。 《アプレースティア、》 教えられた名を、綴る。

2013-12-05 00:11:52
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

覚えようとするかのように、二度、三度。 《きれいな、なまえ》 それから、ぽつりと。 《あなたに、よく、にあってるね》 零すように、黒は少年の心を書いて。 《ねえ、アプレースティア》 片方の手の、片方の指。少しずつ、動かして。 《あなたの、おはなし、ききたい、な》 本に、触れる。

2013-12-05 00:12:13
カーデ @ratan_ruten

目の前の少年が、段々と定まっていく。 無論その形は始めからなんら変化もないのだが、何処か雰囲気というかオーラというかそういう言葉に出来ないものが、会話する度に変化していっている。 そして、無表情な彼が意思表示をするように本に触れる。 向けられた言葉はお願い。

2013-12-05 00:17:53
カーデ @ratan_ruten

「お話……か」 顎に手をあて暫し記憶を巡らせる。 さてはて自分に、この少年に話せるような事柄があっただろうか。 「どんなもんでも良いのか」 少し不安気に尋ねる。 もしてきとうな話をしてつまらないと一蹴されたら、という不安が胸を過るのだ。

2013-12-05 00:21:20
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

問い掛けに、黒が蠢く。まるで躊躇うかのように文字を綴ろうとしては崩れ、崩れてはまた新たに綴ろうと列を成す。 それを何度か繰り返し、ぐちゃぐちゃと、まるで子供の落書きのような様相を呈した紙面上、その黒の下に。 《『くろ』、の、》 微かに、そう書き出されていた。

2013-12-05 18:46:50
カーデ @ratan_ruten

「『くろの』……。黒の城のことか?」 緩んだ顔が引き締まる。 もし、あの黒の城の事ならば途中から入ってきた自分に話せることなどたかが知れてる。 「話せることはあまりないぜ?」 それでも良いなら、と。 何処かあの時の口調に戻しながら、少年に尋ねる。

2013-12-05 21:29:38
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

《う、ん》 彼の言葉に、躊躇いがちに黒は形を作っていく。 《はなせること、だけ》 全てで無くても、良い。 《しりたい、》 ただ。 《だれにも、きけなかった、から》 ——『くれない』のだれにも、『ふんぬ』が、きくことはなかったから ——のぞむことは、なかったから

2013-12-05 22:22:04
カーデ @ratan_ruten

「そうか……」 何処か崩れがちな”黒”に一抹の不安を感じながらも、口を開く。 「最初に会ったのは、珈琲男だったかな。色々教えてくれた、すげえヤツだ」 大して会話をしてもいないのに、名前を覚えてるわけでもないのに、言葉が飛び出る。

2013-12-05 22:38:41
カーデ @ratan_ruten

「他にいたのは、鎧着た変なヤツだな。ガキみたいだったが……目に熱いものを灯した奴だった。今でも元気だろうな」 零す笑み。その後、どうなったのだろうか。少し心配が残る。 「あと、オクネーリア。こいつが動く石像って面白い奴でよ。こいつも物知りで……でもどっかほっとけないやつ」

2013-12-05 22:52:13
カーデ @ratan_ruten

「次はマルギア。こんなちっこい女の子でよ。凄く遊びたがっててよ……なんか妹が出来たみたいだった……」 腰に手を当て少女の形を思い出す。 最期に遊んだ時、幸せな思い出が残ってれば良いのだが。 「あとバケツ……。しっかりした奴、苦労してんだなって思いながら見てた」

2013-12-05 22:59:52
カーデ @ratan_ruten

思い浮かべるは最初に見た、バケツで手を塞いでた姿。 そんな会話を交わしてないことに、あの場から消えた今は後悔が残る。 「最後に、エロ女だな。俺をオモチャにして遊んでやがった」 歪む顔。今思えば悪い気は全くしないが、当時の自分を考えるとき恥ずかしさが浮かぶ。

2013-12-05 23:03:22
カーデ @ratan_ruten

「……すまん、ぺちゃくちゃ話すぎたな」 思い出も短いのに、過ごした時間も少ないのに ーー話せることは一杯ある。 記憶を無くした自分に居場所と名前と座を与えてくれたあの城は、それほどにアプレースティアの中に主張していた。

2013-12-05 23:16:09
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

次から次へと彼の口から溢れるように出てくる言葉。無表情のまま聞く少年に変化は無いが、紙面上の黒は動いて。 《ありがとう》 話を終え、謝る彼に向けて、そう綴った。温かい、や、冷たい、は少年にはよく分からない。けれど、ころころと表情を変えた彼の、そのどの表情も何処か穏やかだったから。

2013-12-06 00:18:34
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

きっと。 《『くろ』も、みんな、いいひと、だったんだ、ね》 『憤怒』が居た、『紅』がそうであったように。『黒』もまた、いい場所だったのだろう、と。 少年はゆっくりと瞬きを一つした。ほんの一瞬訪れた暗闇に、『紅』の姿を見て。 ——ああ 黒が動く。形を持つことも無く、ただ、動く。

2013-12-06 00:24:05
カーデ @ratan_ruten

「……おう」 感謝を述べられる。水を流すように喋り続けたので、むしろ気恥ずかしさがぼうとまとわり付く。 「……紅の奴らもな」 あいつ……フェンヌーに黒に来ないかと誘った時断られたのだ。それ程、彼にとって紅も重要な場所だったのだろうと推測。 「どうした?」 動く黒に疑問。

2013-12-06 01:17:42
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

ぐるり、ぐるり。黒が、動く。 ——ああ、 『黒』も、『紅』も、揺籠の外だった。外を、『憤怒』が望むことはなかった。『憤怒』に『迷った』『怠惰』が望まなかったからだ。 けれども、その手に確かに得られた、 《『くれない』は……『くれない』、は、》 浮かぶ姿が、懐かしいのに——

2013-12-06 01:50:20
カーデ @ratan_ruten

「……おい?」 目の前の少年、それと動きに不自然さを滲ませてる”黒”。 ぐるりぐるりと動き、浮かぶ言葉は意味を為さず。 「紅が……どうした」 肩を、掴む。

2013-12-06 02:13:41