SecretLover3【R-18】
- gara_panda
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26)頬が微かに熱い。 戻ってきた視線に充てられて胸が痛い。 「…じゃあ、改めてよろしく。 俺は今から8時間、桃の彼氏って事で」 「…よろしくお願いします、颯人さん」 動揺する心を悟られないように、声が震えてしまわないように必死で言葉を紡ぐ。 彼は今度こそ嬉しそうに笑って頷いた。
2013-12-27 01:57:1327)「今日はデートエスコート付のコースだから、時間はあるよ。どうする?ここから移動する?それとも歌ってく?」 彼が照れ臭そうに視線を逸らして歌本に成り変わっているその大きな機械を手に取った。 人見知りだからとの自己申告が嘘じゃないのはこの短時間で理解してる。
2013-12-27 16:01:0228)だが、私はこのまま、彼が慣れるまでここにいるつもりはない。 歌うより他に、やらなきゃいけないことがある。 それに何より、彼は見た目がお洒落だし、色々教えてもらえるかもしれない。 「………私、買い物に行きたいです」 「………買い物?」 「買い物です」
2013-12-28 01:40:2829)その表情が、わざわざ?と疑問に思っている事を鮮明に教えてくれていた。 だがここで怯むつもりなんかない。 今日の目的の第一はこれなんだから。 「――…颯人さん、私の事、抱きたいと思うような女の子にかえてください」 「え?」 「私、変わりたいんです」 「…変わりたいって…」
2013-12-28 01:44:1130)今度は怪訝そうな顔つきに変わった。 それも当たり前だろう、少なからずのお金を使うのに、それなことに?とか思われていても不思議じゃない。 けれど、私にとってはそれが死活問題で、それだけ必死なのだ。 「……こんな、野暮ったい私じゃなくて、可愛くて綺麗な女の子になりたいんです」
2013-12-28 01:47:2431)「…今でも充分だと思うけど?」 相変わらず怪訝な表情のまま、彼がそう言ってくれる。 たとえそれがお世辞であっても嬉しいけれど、私が欲しいのはこんなにわか仕込みの可愛さではなく。 「……違うんです、今日は、お金かけて綺麗にしてもらってんです。そうじゃなくて…」 「?」
2013-12-28 14:49:5732)欲しいのは、日常的な、言うなれば充実していて身の内から滲み出る綺麗さだ。 きっとそれは、心に寂しいとか、虚しいとか、どうせ無駄だという諦めがあっては手に入れられないものなんだろう。 同じ会社の綺麗な女の子達を見ていて出した結論なのだ。 それは、自分一人じゃどうにもできない。
2013-12-28 14:53:1633)きっと、プロなら、その道のプロの人がそう思ってくれるのなら、それはきっと私の自信に出来ると思った。 だから、貯金を叩いてSecretLoverに依頼したんだ。 私の話をじっと聞いていてくれた彼が苦笑して、私の顔をじっと見つめた。 「…まぁ、言いたいことはわかったけど」
2013-12-28 14:56:4034)「…ダメですか、こんな動機じゃ」 「いや、ダメって事はないけど。出来る限りの要望には応えるってシステムだし。けど…」 本当にもう充分な気がするけど、彼がそう呟いて、私は首をかしげる。 「…まぁ、いいか。じゃあ買い物行く?」 「…っ…はい!」 勢いよく頷くと、また笑われた。
2013-12-28 15:00:5535)たった30分で部屋を出た私達を店員さんは少し不思議そうな顔で見ていた。 だが、傍から見ただけじゃ私達がお客とキャストだなんて事わからないだろう。 むしろ、彼から絡められた指と手を見たら普通のかっこいい彼氏に冴えない彼女の恋人同士だと見られている可能性の方が高いと思う。
2013-12-28 23:13:2336)少しだけドキドキする胸を抱えて、彼に手を引かれるまま街を歩く。 家族連れも多い道では確かに手を繋いでいてもらえなかったらはぐれてしまいそうだった。 「…買い物って言ったら服か。どういう系統が好きなの?」 「…系統?」 「そう。色々あるじゃん。可愛い系とか、クールな感じとか」
2013-12-28 23:15:4737)問われて少し考えてしまう。 今まで服を買う時はそんな事考えてなかった。いつも決まったように白いシャツか、派手じゃないデザインのものばっかりで、今着ている物でさえ今日の為にと店員さんに聞きながら勧められるままに買った物だ。 自分に似合ってるとは到底思えない派手な服である。
2013-12-28 23:21:0838)そもそも自分にどんなものが似合うのか、よくわからない。 眉間に皺を寄せて考え始めた私に彼も何かを察したのか苦笑して足を止めた。 「…俺が、選んでいいならコーディネートするけど。それでいい?」 「…え」 「だって変えて欲しいんでしょ。まぁ今の格好も悪くはないけど」
2013-12-28 23:22:5839)派手なのが好きそうに見えないから、そう続けたその人に、私は一も二もなく頷いた。 「お、お願いします…!」 「わかった。…俺の好みになっちゃうからさ、他の奴が気に入るかどうかはわかんないけど。…桃ちゃんに似合うの選ぶよ」 「…ありがとうございます」 嬉しくて涙が出そうだった。
2013-12-28 23:25:2140)たかがお客のうちの一人にしか過ぎない私にそこまで言ってくれるとは思ってなかった。 彼の事を信じよう、そう決めて、引かれるままに彼についていく。 彼が向かったお店は可愛いが落ち着いた、どこか大人の雰囲気を纏った服を置いてあるお店だった。 「上でも下でもいいから、自分で選んで」
2013-12-28 23:28:0041)「え?」 「桃ちゃんが好きなの選んだらそれに合わせて他の選ぶから。普段から着まわし出来る方がいいでしょ」 「…あ。は、はい!」 1枚だけで構わないからとの彼の言葉に慌てて棚を見始めた。 色々なデザインがあってどれも可愛い。 目移りしながら漸くその1枚を選んで彼に見せる。
2013-12-28 23:31:0242)彼はそれを私に当てて、何かを考えてから私の手を引いて他の棚を見始めた。 何度か私に当てて、頷いた物は私に預けて、首を振ったのは棚に戻していく。 正直、何が違うのか、どれも洗練されたコーディネートに見える私と彼とは見え方が何か違うんだろうという事ぐらいしかわからない。
2013-12-28 23:33:2543)大人しく、彼に手渡された物を受け取って後をついていると、少し重くなってきた所で彼が選ぶのをやめた。 「そんなかでなんか気に入ったのあった?」 「え?あ、あの、どれも可愛いとしか…」 「……」 「…ご…ごめんなさい…」 しまった、もうちょっとちゃんと自分の意見いえばよかった。
2013-12-28 23:41:0744)焦りが一気に吹き出して一人であたふたしていると、彼がふっと笑った。 「…いいよ、そんな焦んなくて。俺もぽんぽん投げすぎた。とりあえず試着してみなよ、それ。絶対似合うから」 「…あ…」 「そんで、俺に見せて。一番可愛いの、選ぶから」 「…はい…」 何故だか、息が苦しくなった。
2013-12-28 23:43:1945)向けられた自然な笑みに胸がきゅうっと締め付けられたような気さえして、慌てて試着室に逃げ込んで胸を押さえる。 気のせいだと必死で言い聞かせて、とりあえず先に試着を済ませてしまおうと渡されていた洋服を置いて自分の服に手をかける。 トップスが数枚にスカートも何枚か。
2013-12-28 23:46:0146)そのトップスのうち1枚は一番最初に私が自分で選んだものだ。 彼はその一枚だけで、私が好みそうなデザインを選んでくれたのだろう。 その審美眼に尊敬しつつ、最初の1枚に着替えてカーテンを開けると、彼が「うん」と呟いてから上から下までじっと見つめてきて、少し居心地が悪い。
2013-12-28 23:48:2247)洋服とコーディネート自体はすごく可愛いけれど、いかんせん中身が伴ってない気がして仕方ない。 冷や汗が背中を伝い落ちて、息を飲んで彼の言葉を待っていると、真剣な視線と目があった。 「…っ…」 「確か、緑でチェック柄のプリーツスカートも渡したでしょ。下、それに変えてみて」
2013-12-28 23:50:2248)「あ、は、はい!」 それから何度か、彼の言われるがままに着替えて少し疲れてきた頃、漸く彼が「よし」と頷いた。 「…え、と」 「それ、一番可愛い」 「…ほ、本当ですか…!」 「本当」 彼自身も納得いくコーディネートだったのか、笑顔が出し惜しみすることなく晒されている。
2013-12-28 23:52:2449)何度も可愛いを繰り返されて、恥ずかしさで頬が熱くなった。 「それと、後は…これとこれ、それとこれかな…。これくらいあったら着まわしするにも十分だろうし、どれに合わせても平気だから」 財布的にもこのくらいの量なら平気でしょと問われて、値札を見てまた驚いた。
2013-12-29 00:16:5150)諭吉さんが何枚も飛んでいくのを覚悟していたのに、多分これ、2枚くらいで済んでしまう。 目を丸くして彼の顔と値札を見比べると、彼の大きな掌が私の頭に乗った。 「おしゃれってのは高ければいいって訳じゃないから。いかに安くていいもの見つけるかって過程も面白いんだよ」
2013-12-29 00:19:04