一日一とうふちゃん(140字SSまとめ)

一日一とうふちゃんという悪魔的企画。 ネタがなくなるまでやる。 設定: http://togetter.com/li/611811 続きを読む
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kiri婦人 @lady_kiricream

口をカチカチ鳴らしてとうふちゃん人形を威嚇するキカイリュウ。「ふふ、このとうふちゃん人形の素材はほぼとうふちゃんと同じなんじゃ。簡単には壊れんぞ?」「じじい余計なことを……」キカイリュウがいくら噛み付いても、とうふちゃん人形は奇妙に変形するだけで壊れない。なんて忌々しい微笑みか!

2014-02-13 10:38:36
kiri婦人 @lady_kiricream

「ごめんください」ドアが叩かれる。「はいはい、何ですかな」老人がドアを開ける。その向こうに立っていたのは……少年が予想していた人物ではなかった。しかし明らかに怪しい集団だった。「とうふちゃん人形を受け取りに来ました」集団はお揃いの服を着ていた。顔には奇妙なマスク。

2014-02-18 18:42:29
kiri婦人 @lady_kiricream

有体に言ってしまえばフィクションの中の戦闘員的な格好だ。敵か味方かで区分するとすれば間違いなく敵。そんな敵であることを隠すつもりも無い連中に、老人は大量の箱を引き渡した。「確かに。では代金は後日」去っていく不審者集団。黙ってそれを見ていた少年とキカイリュウは顔を見合わせた。

2014-02-18 18:44:44
kiri婦人 @lady_kiricream

大量の箱を担いだ怪しい集団!街行く人々が全員振り返る!すごく目立つ!その背後にこっそりと着いていく者たちがいた!少年とキカイリュウ、それに老人だ!「なんでおじいさんも来てるんですか」「とうふちゃん好きの同志の顔を一目見ておきたくてな……」「多分同志とかじゃないと思いますよ」

2014-02-18 18:51:48
kiri婦人 @lady_kiricream

「だって怪しすぎでしょうあの人たち。何か裏があるに決まっています。そもそもとうふちゃんに需要があるのがおかしいんですよ。絶対に詐欺師か何かですよ!」「ははは、アルカは心配性じゃの。わしはそんなことはないと思うぞ。世界がとうふちゃんに追いついたんじゃよ」「……それはないだろ」

2014-02-18 18:57:21
kiri婦人 @lady_kiricream

集団が箱を運び込んだのは奇妙な施設だった。例えるなら悪の秘密基地みたいな。「持ってきました」「くく、ご苦労だったな」物陰に隠れて、怪しい会話をそっと覗き見る。不審者集団から、とうふちゃん人形の箱を受け取ったのはなんと、アルカたちもよく知る人物だった!

2014-02-18 19:01:55
kiri婦人 @lady_kiricream

「とうふちゃん人形……くくく、遂に手に入れたぞ!この角度!この表情!まさにとうふちゃんそのものだ!」肩にはボロいマントをなびかせて、頭にはとうふちゃんの顔を書いた紙袋をかぶっている。そう、彼は変態とうふ仮面!とうふちゃんを使ってなんか悪いことをしたりする悪党なのだ!

2014-02-18 19:04:49
kiri婦人 @lady_kiricream

「うわあ」一部始終を見ていた少年。ドン引きである。とうふちゃん人形がどうなるかなんてもうどうでもよくなっていた。それより何より関わりたくなかった。「正体はあの子じゃったか。同志が増えたと思ったのにのう」老人は残念そうに肩を落とす。「もう帰ろっか」少年は言い、キカイリュウは頷いた。

2014-02-18 19:10:25
kiri婦人 @lady_kiricream

「独自の研究により、とうふちゃんのこの何とも言えない表情には催眠効果があることが判明した!とうふちゃん人形を街角に設置して、まずはこの街の人間をとうふ信者に洗脳してくれる!とうふちゃんによる世界征服が成るのだ!ハーッハッハッハ!」大声で披露される野望の全貌。少年は立ち止まった。

2014-02-18 19:16:19
kiri婦人 @lady_kiricream

「ふざけるな……」少年はとうふちゃん人形が詰まった箱を、思い切り蹴り飛ばした。床にとうふちゃん人形が散らばる。「ふざけるなよ、この変態!」「おっ、お前はラボの豪腕助手!どうしてここに!」「いいか!よーく聞け!」少年はとうふの紙袋をかぶった不審者を真正面から指さした。

2014-02-18 19:19:55
kiri婦人 @lady_kiricream

「たとえとうふちゃんでも!おじいさんの大切な研究の成果を!悪用するなんて!この僕が許さない!覚悟しろ、変態とうふ仮面!」ゴーンゴーンゴーン。少年の背後で夕方の鐘が鳴る。「くっ……野郎ども!出あえ出あえ!敵襲だぞ!」

2014-02-18 19:22:06
kiri婦人 @lady_kiricream

怪しい施設のドアが開く!しかし誰も出てこない!部屋の中では、なんか戦闘員的な格好をしていた人達が、普通の格好に着替えて荷物をまとめていた!これはどういうことか!

2014-02-18 19:22:39
kiri婦人 @lady_kiricream

「お疲れ様でーっす」「定時なんで帰りまーす」「え、ちょ、ちょっと待って!ちょっとだけでいいから残業してって!お願い!」「えー」拳を握り締めて殴りかかるタイミングをはかっていた少年の肩を、老人は優しく掴んだ。「待つんじゃ。彼らにも、事情があるんじゃ」老人は首を横に振った。

2014-02-18 19:25:00
kiri婦人 @lady_kiricream

「えー」「えー」「ちゃんと残業代払うから!危険手当もつけるから!ここが一番大事なとこなの!だから帰らないで!」「あーでも俺たち今から別のバイトあるんでー」「なー」「あっ、そうなの?それは仕方ないね、引き止めてごめんね」「じゃあお疲れ様っしたー」「うん、お疲れー」

2014-02-18 19:28:55
kiri婦人 @lady_kiricream

「……そろそろ攻撃しても?」指をパキポキ鳴らしながら少年が聞く。「ぐぬぬ、こうなったら!」とうふ仮面は、足元に転がる一番大きな等身大とうふちゃん人形を抱え上げた!「こいつがどうなってもいいのか!?」人質ならぬとうふ質だ!なんて邪悪なんだ、変態とうふ仮面!

2014-02-18 19:31:10
kiri婦人 @lady_kiricream

「知るかー!」とうふちゃん人形の顔に容赦なくめり込む拳!「なんだとー!?」吹っ飛ぶとうふ仮面!とうふちゃん人形は大破!「おじいさんの作品が悪用されるくらいなら、あなたに壊されるくらいなら、いっそぼくの手で全て壊します!」

2014-02-18 19:32:28
kiri婦人 @lady_kiricream

「悪用されなくても壊している気がするんじゃが……」老人は覗き見ながら同意を求めたが、キカイリュウはちょっとよく分からないですねとでも言うかのように首を傾げた。「自分の愛したとうふちゃんを盾にするなんて……落ちるところまで落ちましたね!この外道!」

2014-02-18 19:34:29
kiri婦人 @lady_kiricream

「くっ、覚えてろよ!」とうふ仮面は逃げていった!徒歩で!今回もまた少年の完全勝利だ!

2014-02-18 19:37:21
kiri婦人 @lady_kiricream

少年による無慈悲なとうふちゃん破壊活動は日が暮れてしまうまで続いた。「気を落とさないでください、おじいさん」最後のとうふちゃん人形を片手で握りつぶしながら、少年は老人の肩にそっと手を置いた。

2014-02-18 19:38:02
kiri婦人 @lady_kiricream

「とうふちゃん人形の破片で、また新しい作品を作りましょう?……できればとうふちゃんじゃないものを」破片を手渡しながら少年は言った。最後だけはぼそぼそと小声で。「そうじゃな……」老人は立ち上がった。その目には一粒だけ、涙が浮かんでいた。

2014-02-18 19:39:31
kiri婦人 @lady_kiricream

「とうふちゃん人形大量発注事件」完

2014-02-18 19:39:46
kiri婦人 @lady_kiricream

青色の小さな鳥を、キカイリュウは追いかけていた。油と石炭の匂いのする街中を小鳥は飛んでいく。ゆっくりと大通りを行く馬の足音。大荷物の幌馬車。「あぶねーぞチビ!」馬車からの大声。慌てて馬車を避ける。小鳥の進行方向は狭い道に逸れる。道に張り出すように張られたテント。商人の声。

2014-02-19 22:22:36
kiri婦人 @lady_kiricream

行き交うたくさんの人間。街一番のマーケット。人々の頭上すれすれを掠め、テントに吊られた何かの干物の間を縫うように青い小鳥は飛んでいく。海よりもずっと濃い青。麻紐で吊られた商品と商品がぶつかり、音を立てる。後を追うキカイリュウ。しかし人波に遮られてその小さな後ろ姿を見失ってしまう。

2014-02-19 22:30:33
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