牧眞司の文学あれこれ その6
できごとは一意的な原因→結果(順時間の因果)では計れず、外側から観察するように読む読者にとっては、時が逆行してみえるところ、尋常らざる暗合と思えるところ、ファンタジイと切りわけてしまうところもある。だが作品そのものに沿って読めば、しっくりとつらなっているとわかる。
2014-01-30 16:57:04ちょっとテクスト論的なことを言えば、詐欺師ゴールドが披瀝する芸術論(p.302)が、『ピース』世界のラフスケッチ(という言いかたが良いかわからないのだけど)になっている。主体(オリジナルな物語の絶対的な語り手)や、唯一の事実(起源となる正典)という発想が、そもそも錯誤なのだ。
2014-01-30 17:10:15『ピース』が記憶の小説だというのは、なんでもアリということではない。部分部分を見ると、どこかに「正解」が隠されているのではないかとミステリ魂を喚起する仕掛けがてんこもり。さりげなく細部の照応が凝らされているとか、視点の取り方や語りの順序とか、技巧的に冴えまくっている。
2014-01-30 17:25:46コンスタンチン・ヴァーギノフ『山羊の歌』(河出書房新社)読了。1920年前後、ペテルブルクの文化は急速に没落しつある。大衆は無頓着だが、敏感な詩人たちは悪夢のごとくそれを感じ取っていた。その感覚をなまなましく、独特な暗い幻想性をもって描いた作品。
2014-02-02 23:01:35強い物語性こそないが(むしろ壊れていてそれも迫力になっている)、グロテスクな都市小説としてブルガーコフあたりに通じるものがある。
2014-02-02 23:03:21アンドレイ・ベールイ『ペテルブルグ』も、この都市を主題とした迫力ある幻想小説だった。ベールイは日本ではおそらく『銀の鳩』のほうが有名だが、ぼくは『ペテルブルグ』のほうが数等凄いと思う。といっても読んだのはずいぶん前で印象もあやふやなのだが。
2014-02-02 23:22:13「NEWS本の雑誌」の杉江松恋さんの書評、こんかいは三上延『ビブリア古書堂の事件手帖 (5)』を取りあげている。 http://t.co/fdirUlputP
2014-02-03 14:19:42ぼくはこのシリーズを読んでいないのだが、杉江さんの紹介を読んでとっても気になった。その件を引用すると――
2014-02-03 14:20:15〔今回の目玉は、前作の最後で栞子と大輔の間に訪れた変化が、どのような形で決着するかという点にある。(略)本書のエピローグとプロローグが「リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)」から採られていることからなんとなく察していただきたい。〕
2014-02-03 14:21:36ええっ! 『ビブリア古書堂』ってそういう展開なの? 『愛のゆくえ』の原題はThe Abortion: An Historical Romance 1966。物語の芯になっているのは、まさしくAbortionの顛末なのだが。
2014-02-03 14:23:20しきたりごとが大嫌いなぼくはあらゆる年中行事を曖昧にやりすごしたいのだ。結婚以来、それが徐々に許容されるようになってきたのだけど、最後の難関――それが節分だ。細君は豆撒きをしないと気がすまないひとなのだ。クリスマスやバレンタインよりも重要らしい。
2014-02-03 22:17:42NEWS本の雑誌「今週はこれを読め! SF編」更新されました。こんかいはコニー・ウィリス『混沌(カオス)ホテル』(ハヤカワ文庫SF)を取りあげています。 http://t.co/yLkcN7OwJh
2014-02-04 19:46:08書評のさわり―― 良識作家といえばまずル・グィンが思い浮かぶが、ウィリスも同じくらい安心して読める。大作家ル・グィンは憂い顔で沈思するイメージだが、それに対して本書のウィリスは「ふうっ」「やれやれ」と肩をすくめるかんじ。 http://t.co/yLkcN7OwJh
2014-02-04 19:46:44瀬名秀明『夜の虹彩』(出版芸術社)を読みはじめる。最初の一篇「Gene」は20年近くも前の作品で、ITやゲームなどの道具立てはさすがにその時代を感じさせるが、小説の基本的なところはまったく新鮮で面白い。
2014-02-06 11:18:02「Gene」は悪魔の遺伝子解析というアイデアも、それにアプローチする主人公(女性大学院生)の感情や行動原理も、まさしく瀬名SF。それは別として、ぼくがいかにも瀬名さんらしいと思ったのは、先行作品(マンガ『アフター0』)へのリスペクトだ。
2014-02-06 11:18:47霊感源になった先行作品の存在を、小説のなかで明示するのはむしろ難しい(それは自作のオリジナリティの担保という問題よりも、むしろ小説としてのバランスを取るうえでの問題)が、瀬名さんはそれを躊躇しないし、かえって有効に作用させている。
2014-02-06 11:19:32その姿勢は、最新作『新生』でも貫かれている。『新生』で霊感源となっているのは小松左京作品だ。
2014-02-06 11:19:45『夜の虹彩』は日下三蔵の編集。巻末の「解説」がみもので、日下さんにしては珍しく(?)、作家論・作品論から逸れたちょっと強い主張をおこなっている。引用しよう――
2014-02-06 11:32:29〔ひとつだけ気になるのは、瀬名さんがしばしば「私はSF読者から嫌われている〕「SF業界から無視されている」といった意味の発言を繰り返していることだ。 →
2014-02-06 11:32:57→ SF界、SF業界などというのは、作家と読者がある程度の人数いる、というだけのことであって、明確に統一された意思があるわけではない。むしろ、個人個人の考えが違うのが当然なのである。〕
2014-02-06 11:33:18〔SFに限らずミステリでもそうだが、出自で作家を判断する悪ずれしたマニアがいるものだ。ホラー小説大賞出身の瀬名さんも、そうしたマニアに『パラサイト・イヴ』を「SFでない」と批判されたことがあった。 →
2014-02-06 11:33:41→ しかし、そういうマニアは声は大きいかもしれないが、決して多数派ではない。多くの読者は面白い小説が読めさえすればいいのであって、作家の出自などはどうでもいいはずだ。ジャンルがあって作品が付属するのではなく、まず作品がありきなのだ。 →
2014-02-06 11:33:54→ 細かいジャンル別けなどは書評家にまかせておけばいいのである。〕
2014-02-06 11:34:09ぼくは書評家のはしくれだが、「細かいジャンル別け」なんかしたくない。もちろん、自身が優れた書評家である日下さんは、そんなことはわかってあえてそう言っていのだ。
2014-02-06 11:40:57嬉々と「細かいジャンル別け」をしている書評家、また、そんなものをありがたく奉じている視野狭窄な読者については、かつて坂口安吾が痛烈に批判している。安吾先生、さすがです。
2014-02-06 11:41:28