ケネス・ウォルツの国際システムと構造の概念

ケネス・ウォルツの国際政治理論の重要な概念であるシステムと構造という用語の解説をしました。
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政治学たんによるリアリズムの系譜の紹介と、毒舌な母による突っ込み

政治学たん @seizigakutan

国際政治学における現実主義(リアリズム)は、理想主義をユートピアとして批判したE.H.カー、国力に定義された国益追求を国家の行動原理としたハンス・モーゲ ンソー、大国の数と性質という国際システムで構造的に決まるとしてネオ・リアリズムを唱えたケネス・ウォルツが代表的人物です。

2014-01-07 18:09:29
学術たんの毒舌な母 @gakjutuhaha

何が決まるんです? RT @seizigakutan: 国際政治学における現実主義(リアリズム)は、(中略)大国の数と性質という国際システムで構造的に決まるとしてネオ・リアリズムを唱えたケネス・ウォルツが代表的人物です。

2014-01-08 00:03:36

国際政治学たんによる解説

ハスノ @Morgenthau0217

この学術たんの毒舌なお母様の突っ込みは的確ね。確かにリツイートした政治学たんの説明では「決まるって何が?」と言われそう(文字数の関係で仕方なさそうだけどね)。なので、ちょっと付け加えるわね>RT

2014-01-08 13:56:07
ハスノ @Morgenthau0217

「大国の数と性質という国際システムで構造的に決まるとしてネオ・リアリズムを唱えたケネス・ウォルツが代表的人物」…ここで「決まる」のは、国際システムの安定性ね。つまり、戦争が頻繁に起こるのか、それとも平和で安定した状態が続くのか…が「決まる」ということでしょう。

2014-01-08 13:59:42
ハスノ @Morgenthau0217

さらに、「大国の数と性質という国際システムで構造的に決まる…」とはどういうことなのか。まず、システムには二つの側面があるわ。一つは、構造。もう一つは、システムは相互に作用するユニットからなる、という側面。

2014-01-08 14:02:16
ハスノ @Morgenthau0217

ではウォルツのいう「構造」とは何なのか?ウォルツ曰く、構造とは制約条件のセット。システムを構成するユニットは、皆何らかの行動をとるわ。でもユニットは好き勝手な行動をとれるわけでなく、特定の行動に対して、報償を与えられたり、罰を加えられたりすることによって、制約が加えられていくの。

2014-01-08 14:05:17
ハスノ @Morgenthau0217

具体的にウォルツが述べる構造の三つの原理は、①アナーキーかハイエラルキーかという、秩序原理。②ユニットの機能の差異。③ユニットの能力の分布。この三つの原理が制約条件になり、ユニットの行動を決まったパターンに方向付けていくのね。

2014-01-08 14:07:48
ハスノ @Morgenthau0217

国際システムでは、①アナーキーであり、②ユニットに機能的な差異はない(国内システムであれば、ユニットには機能的な差異が生じるわ。例えば議会は立法を担当し、大統領は行政を担当し、軍隊は防衛を担当する…。でも国際システムでは、それぞれの国家はこのように分業したりはせず、みな同等の→

2014-01-08 14:10:42
ハスノ @Morgenthau0217

機能を有しているでしょ)。そして③ユニットの能力の分布は、多極システムか、二極システムか。ウォルツはその著作では単極システムについては言及してないのよね。

2014-01-08 14:15:00
ハスノ @Morgenthau0217

この国際システムの構造の三つの特性によって、システム全体が安定しているか、衝突が頻繁に起こるかが決まる、とウォルツは考えたのね。ちなみに、ウォルツ自身は二極システムが安定しており、戦争が起こりにくいと考えたわ。

2014-01-08 14:17:49
ハスノ @Morgenthau0217

これが、政治学たんの述べた「大国の数と性質という国際システムで構造的に決まる…」の意味ね。ただ一つ訂正するなら、“性質”という単語について。ウォルツは国際システムの構造的特性として“数”には言及したけど、“性質”には言及していなかったと思うわ。というのも、先ほど述べた通り、→

2014-01-08 14:19:45
ハスノ @Morgenthau0217

国際システムを構成するユニットには、それぞれ異なった特性はなく、みな同等の機能を有するとウォルツは考えていたの。どの国家も自律的な政治ユニットであり、A国の行政という機能をB国が担当するとか、C国の防衛という機能をD国が担当するといった状況は存在しないわけだから。→

2014-01-08 14:22:10
ハスノ @Morgenthau0217

→だから、“特性”という面では、国家間に差異はないのね。また、“特性”というものが、国家の政治制度(民主制か君主制か)や経済制度(市場経済か計画経済か)、平和愛好度、好戦度といったものを指しているなら、ウォルツはこうしたものを最初から排除しているわ。ウォルツは、こうした個々の→

2014-01-08 14:25:08
ハスノ @Morgenthau0217

→国家の特徴から国際政治を議論するやり方を「還元主義」として徹底的に排除したの。というわけで、政治学たんの述べたところを私なりに訂正するなら、「能力の分布という国際システムの構造によって安定性が決まるとしてネオ・リアリズムを唱えたケネス・ウォルツが代表的人物です。」…かな。

2014-01-08 14:29:41
ハスノ @Morgenthau0217

厳密には「アナーキー、ユニットの機能、能力の分布という国際システムの構造によって」とすべきだけど、国際システムがアナーキーであることは自明、ユニットの機能についても皆同等で差異がないことは明らかだから、結局は“能力の分布”だけを構造的条件として考慮すれば良い、という結論になるの。

2014-01-08 14:31:43
ハスノ @Morgenthau0217

以上、「もるたんによるウォルツの解説 〜学術たんの毒舌なお母様への疑問に答える〜」でしたっm(_ _)m

2014-01-08 14:33:19

二極システムが安定しているとする根拠は何か?

以上が国際システムと構造の解説でしたが、ではウォルツが「二極システムが安定している」とする根拠は何なのでしょう? ごく簡単に説明すると、以下の通りです。

ハスノ @Morgenthau0217

A、B、C、D、E、五つの大国からなるシステムでは、Aを対象とした同盟の可能性だけでも、B+C、B+D、…、B+C+D+Eの11通りあるわ。ウォルツは極の数が増せば同盟関係は柔軟になり、不確実性が増すと考えたの。多極では為政者が注視すべき情勢が複雑すぎて、誤認を導くという議論よ。

2014-01-04 08:10:57

多極システムにおける組み合わせは極めて複雑!

A、B、C、D、Eの五つの大国からなる多極システムでは、Aを対象にした同盟は、B+C、B+D、B+E、C+D、C+E、D+E、B+C+D、B+C+E、B+D+E、C+D+E、B+C+D+Eの11通りあります。一か国対一か国の戦争を想定した場合は、10通りになります。

ハスノ @Morgenthau0217

極の数が少なければ不確実性も誤認も減る、というのが二極安定論の根拠よ。二極システムなら、国家は同盟という対外的手段ではなく、自国の軍事力強化という対内的手段で互いに均衡する。注視すべき国家は一つしかなく、相手に不穏な動きがあればすぐ対応できる。だから衝突の可能性も低いんだって。

2014-01-04 10:10:49

多極システムの方が安定しているとする主張

多極システムの不確実性、複雑性に注目し、むしろそれが安定に寄与するのではないかと唱えた学者もいます。不確実で複雑だから誤認を導きやすいというウォルツの考え方に対し、逆に、いやだからこそ指導者は注意深くなり、慎重になるのだ、という主張です。

さらに、極の数が多ければ、柔軟で臨機応変な同盟の組み換えも可能になるという点も、安定性に寄与するとも言われます。

ハスノ @Morgenthau0217

多極システムの安定性を主張したのはシンガーやドイッチュ。大国の数が増えれば国際関係がより不確実になるから、国家の指導者は警戒心を高め、軍事力の行使に慎重になる。また臨機応変に同盟を組み替えることもできるため、現状打破を目論む大国を効果的に牽制できるだろうというのが彼らの根拠なの。

2013-10-03 23:10:49

「システムの安定性って何よ?」という問い