大鎌を振るう。三本が弾かれて地面に転がる。しかし二本は女の左胸と右の二の腕に突き刺さり。 「悪い子は〜」 されど女が止まることは無く。走りながら短剣を引き抜き男へ投擲。溢れ出る血など無いかのように動きは軽く。 「こうです〜」 右下方から左上方へ。大鎌を振り上げ。
2014-01-10 11:54:41投げた短剣は、三つはこちらに向かってきていた女性の大鎌によって地に落とされ、二つは彼女の体に刺さり。それでも女性は止まらない。突き刺さった短剣は抜かれ、こちらに投擲された。 「……面倒だな」 痛みなど感じないような動きを見せる女性を一瞥し、飛来する短剣を一つ弾き、一つ腕に刺さる。
2014-01-10 13:16:08痛みに軽く顔を歪めつつも、振り上げられる大鎌に剣を添える。鉄を鉄が滑る歪んだ音が響き、大鎌によって剣は宙高く空へと飛ばされた。 それを見守ることなく、男は短剣を抜くと、後方へ跳び、カードを二枚。描かれているのは、炎と台風。重ね、宙へ投げる。カードは炎を纏った小さな台風へと変わり。
2014-01-10 13:32:41台風の威力は本物の三分の一程度。それでも人の肌を裂くことは出来るだろう。 ゆらり、と彼女の肩の花を見て、微笑む。 「花は燃えるもの、」 歌うように、言葉は紡がれ。 炎を纏った台風は、女性の肌を傷つけんと、そうして彼女(はな)を燃やすべく、渦巻き、向かう。
2014-01-10 13:33:41大鎌が剣に喰らい付く。弾かれた剣が宙を舞い、男は後退する。それを見た女もまた後方へと大きく飛び退き。 大鎌を二度、叩いた。 大鎌が、どろりと溶ける。銀の液体は意思を持っているかのようにぐにゃりと曲がる。そして再び、形を成す。現れたのは五十センチほどの四本の鎌。
2014-01-10 14:09:31そのうちの二本を大きく旋回させるように投げ、残りの二本を両手に握り。 女は強く地を蹴った。風の刃が、炎の牙がその身体を襲う。肌が斬られ、燃やされる。血が流れては焼かれて止まり、白い服は裂け、汚れ。しかし女が止まることは無く。 風と炎に包まれ進む。
2014-01-10 14:09:40燃やされる命など、女には関係が無い。女の勢いを削ぐものなど、何処にも無い。 前方に立つ男へと女は迫る。男の更に背後には飛来する二つの鎌。勢いよく風を切る音を聞きながら、女は握り締めた二つの鎌をクロスさせ、男に向けて振るった。
2014-01-10 14:09:44女性も後方に下がったかと思うと、大鎌が溶け、四つの鎌にその姿を変えた。そのうちの二本が彼女の手元から放たれ、残り二本を手に女性がこちらに向かってきた。 放った炎の台風が襲いかかるが、彼女は止まらない。 ふむ、と零した息は驚喜に満ちて。 ――背後からの風切り音を聴覚が拾う。
2014-01-10 14:47:31前方からは彼女が、後方からは二つの鎌が、迫ってきていた。 「前と後ろを塞がれたのならば、」 ぽとり、と一枚カードを地面に落とす。それを、片足で踏みつける。土くれで作られた塔が描かれたそれは土に交わり。 「上に」 周囲の土を巻き込んで、男ごと盛り上がり、三メートル程度の塔が現れる。
2014-01-10 15:05:03先程までの行動を見ていて、彼女がこれで止まるとは思えない。カードも乱用できるほどあるわけではない。暫し、思考して。 次に抜き取ったカードに描かれていたのは大きな槍をもった兵士の絵。握り潰すように掴み。 「『来い』」 出現するのは大きな鈍色の槍。それを構え、彼女の出方を窺う。
2014-01-10 15:40:41振るった鎌が、動きを止める。噛み合う刃が捉えたのは男ではなく塔の壁。突き刺さった鎌を無理矢理引き抜いて、器用にも塔を避け、飛び回る二本を回収し、後方へ飛び退いた。 男の姿は塔の上。あの高さでは女の鎌は届きようが無い。崩そうにも四つに分かれたままでは威力が低い。ならば。
2014-01-10 16:41:48女は二つを頭上高くへと投げる。残る二つの刃を重ねれば、それは一メートル強の一つの鎌へと変じ。 「う〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜」 それを塔に向かって投げる。旋回する鎌はその重みを伴って、塔を砕いてみせるだろう。女の両手に収まるように落ちた二つを握り締め、女は男へと駆け出した。
2014-01-10 16:42:33塔から少し離れたところで、二つの鎌が宙に舞う。それに目を向けつつ、女性を見下ろした。二つが一つに。彼女の手にあった鎌が一つになったかと思うと、それは大きさを増して。塔に向かって投擲された。 旋回する鎌にこの塔は耐えれないだろう。思考は短く、結論を出し、塔の縁を蹴り、駆け下りる。
2014-01-10 17:04:00下り切るよりも早く、鎌が塔にぶつかり、ヒビが広がって、——崩壊。飛び散る破片を気にすることなく。むしろ面白がるかのように笑んで、駆ける足に力を込める。 地面に下り立つと、一瞬だけ笑みを深め、女性に向き直った。向かい来る彼女にぶつけ、弾かんと、槍身二メートル程の大きな槍を薙ぐ。
2014-01-10 17:28:35地面に降り立った男に向けて、女は二つの鎌を振るおうとした。しかし、それは寸前で叶わず。 咄嗟に片方の鎌を投げる。狙いは定まらないまま飛び出した鎌の代わりとばかりに女の身体は槍に弾き飛ばされた。地面を転がる肢体。 「う〜ふ〜ふ〜」
2014-01-10 17:48:39しかし女の身体は何事も無かったかのように即座に起き上がり、残る一つを投擲。同時に、主の下へと帰り来たる一メートル程の鎌を握り、駆け出した。
2014-01-10 17:48:52槍は確かに女性を捉え、そして弾いた。しかし、直後飛来した鎌が男の肩を掠めた。痛みを感じるよりも早く、視界が闇に包まれる。 しまった、と胸の中で呟き、地を出来るだけ強く蹴る。重たい槍は手放して、回復した視界に安堵して、カードを取り出そうとし。——風切り音。
2014-01-10 18:36:18聴覚がそれを拾い、男はもう一度横に地を蹴る。——が、間に合わず、それは右腕を抉って地に落ちた。一瞬だが、思考が奪われる。そうして、闇の中、駆けてくる音を聞き、参ったなあ、と言いたげに笑った。 「闇は啄むもの、そうだね?」 問いは独白に近く。取り出したカードは黒い大鴉の絵。
2014-01-10 18:37:19「『行け』」 向かってくる足音の方に投げる。黒い大鴉が羽ばたき、滑空し、そうして。 「『啄め』」 男の言葉と共に、その身は小さくなり、その代わり、大群へと変わっていく。黒い鴉の群れは女性を啄ばまん、と宙を駆ける。
2014-01-10 18:38:58駆ける。駆ける。女はただ愚直に男を殺す為に向かう。駆ける。駆ける。最中、襲い来る黒の群れ。 「うふふ〜う〜ふ〜ふ〜」 標的は小さく、鎌は邪魔だ。どろりと全ての鎌が溶け、消える。 女は駆けた。黒の群れが、鴉が女の身体を食む。皮が破け、肉が割かれ、血が流れ出る。
2014-01-10 19:29:26それでも女は止まらない。鬱陶しい鴉を腕で掴んで地面に叩きつけながら、真っ直ぐに駆ける。 その目に映るのは男だけ。他は何も見えていない。ただ走り、ただ目指す。その片目を貫かれ、右肩に突き刺さるものが有ったとしても、ただ振り払い進む。
2014-01-10 19:29:40鴉達の喧しい鳴き声、断末の鳴き声。響くそれを聞きながら、地を蹴る。ゆるりと闇は晴れ、視界が戻った。そうして、鴉達に啄ばまれ、片目を失いながらも、こちらに進んでくる女性の姿に息を飲んだ。 「……まだ、止まらないか」 ゆるり、と頬を緩め、囁くように言葉を吐き出す。そこに落胆はなく。
2014-01-10 22:11:09目を細め、一枚のカードを手に、女性の方へと走り出した。あっという間に距離は近まり、彼女の鎌が左下から振り上げられる。 脇腹と胸部が裂けるが気にせず、カードを鎌に押しつけ、息をするように言葉を吐いた。 「太陽は熔けるもの、」 太陽が描かれていたそれは溶岩流を纏う灼熱の剣に変わり。
2014-01-10 22:45:38鎌を熔かそうと、そうして彼女を傷つけんと、伸びる。 続けて言葉を繋げようとし、違和感を覚え、脊髄反射で後方へ跳躍。男の思考は途切れ、視界は闇が覆い、彼の行動、全てが停止した。
2014-01-10 22:49:32