【第一部-九.伍】誰かを見つめる時雨と山城 #見つめる時雨

時雨×山城
7
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

空を眺める。星はひとつも見えない。僕の吐いた白い息が宙に舞い、そして消えた。 青いマフラーを口元まで巻く。息がこもり、中の空気が温まる。…一瞬だけ。 「もうすぐって聞いたんだけど…」 ここは鎮守府の入り口。僕は日帰り出張を終えて帰ってくる、提督と山城を待っていた。

2014-01-12 19:29:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

携帯の画面を見る。そこには山城からの一通のメール。 「今最寄り駅に着いた。あと10分くらいで到着するね」 山城らしい簡素でちょっと素っ気ない感じの文章。でも、この素っ気なさに、山城に気のおけない関係だと思ってもらえてることを感じ、嬉しく思った。

2014-01-12 19:33:37
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

携帯は艦娘全員に支給されているが、それほど使う機会はない。防水とはいえ、海へ出る時には持って行きづらいし、鎮守府内でも使う頻度は少なかった。たまに誰かとどこかで待ち合わせをするときに使うくらいだろうか。今の僕みたいに。

2014-01-12 19:37:40
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

受信メールの一覧を眺める。白露、夕立、村雨…山城。 姉妹艦とのメールの中に混じる山城からのメールを開く。内容は今日みたいな帰りを知らせるメールだったり、お土産は何がいい?といった他愛のないものだった。殆どが一行程度の短いメール。でも、読むのがこんなに楽しいのは、なんでだろうね?

2014-01-12 19:41:56
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

ふと、遠くにふたつの人影が見えた。女の人がふたり、話しながらこちらへ向かって歩いてくる。そのうちのひとりが僕に気づき、手を振ってきた。それを見て僕もその人に手を振り返す。僕の足が自然と動き出した。僕は早る気持ちを抑え、意識してゆっくりと歩いた。

2014-01-12 19:46:39
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「山城、おかえり、お疲れ様。…あ、提督も、お疲れ様」 提督が苦笑する。いけない、提督から先に言うべきだったよね…はは…。 「ただいま、時雨。わざわざ外で待っててくれたの?」 寒さのせいか、頬を赤くした山城が言う。 「え、いや、たまたま外に出てみたら丁度ふたりが見えたんだ」

2014-01-12 19:51:03
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

そう言うと山城が僕のマフラーをずらし、頬に手を当ててきた。 「うそ。さっきまで中にいたら、こんなにほっぺ赤くなるわけないでしょ」 図星。寒さで赤くなっていた僕の頬が、更に赤くなったような気がした。 コツンと山城の額が僕の額に当たる。山城の長い睫毛が僕に触れそうなくらい、近い距離。

2014-01-12 19:55:30
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「はいはい、あっち向いて」 え? 僕は両肩に手を置かれ、向きを変えられた。そして… 「ひわぁ!?」 「ふふ、時雨って暖かいわね」 首元に山城の手が突っ込まれた。いきなりのひんやりした感触に、思わず悲鳴のような声が出る。

2014-01-12 20:00:07
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ちょっと山城!やめ…くすぐったいよ…」 山城の細い指が僕の首に擦れる。ただそれだけなのに、ぞくぞくしたものが身体を走っているような感覚に襲われた。その感覚から逃げようと、必死に身体を動かす。 「あ!時雨、そんなに暴れないで…きゃあ!?」 ふたりして尻餅をついた。おしりが痛い…

2014-01-12 20:06:05
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「いたた…ご、ごめんなさい時雨…ちょっとふざけすぎたわ…」 山城が僕に謝る。でも山城の手は、僕の襟の中に入ったままだった… 「や…山城…そろそろこれ、抜いてくれると助かるんだけど…」 「んー…?どうしようかしら…」 え?ちょっと山城…

2014-01-12 20:11:25
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「ひゃん!?」 首元を軽く揉まれ、また変な声が出た。 「ふふん、さっき誤魔化そうとした罰よ。…本当はずっと待っててくれたんでしょ?ありがとね」 山城が手を抜き、僕の後頭部に頬を当てた。もう、山城ってば… 「ほら、いつまで遊んでるのよ。中に入りましょう?」 提督が呆れた顔で言う。

2014-01-12 20:17:03
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「あら、おかえりなさい、山城。あ、提督もお疲れ様です」 そう言いながら、玄関に扶桑が出てきた。 「姉様!山城、ただいま帰投いたしました!」 山城が扶桑に駆け寄る。そんな山城の後ろ姿に、少し寂しいものを感じた。 「ほら、時雨も、早く中に入りましょう」 山城が僕に手を伸ばす。

2014-01-12 20:23:13
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

…僕はこの手をとっていいんだろうか…? そんな考えが頭を過ぎる。そしてそのまま、僕は固まってしまっていた。 「…時雨!」 そんな僕の手を…山城は掴んだ。山城は…笑っていた。 「…ごめん、山城。…ありがとう」 僕も山城の手を握り返し、そしてみんなで鎮守府の扉をくぐった……

2014-01-12 20:30:53