猫と狼

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@hiragi30000

もふっ、てしっ。「…尻尾で遊ばないでくれ」「にぁー」胸に傷を抱えた狼男の、ぼさぼさの尻尾で遊ぶ、一匹の白いねこ。目と肩に深い傷があるその猫は、自分よりもずっと大きな狼男を、まるで自分の子分のように思っているようだった。「にぅ」「ああ、そうだな、行くか」孤独な猫と、狼男のはなし。

2010-10-23 17:14:15
@hiragi30000

が読みたい。おい、誰か寄越せ。

2010-10-23 17:14:40
@hiragi30000

狼は、ひとりぼっちだった。大きな体が怖いと、大きな口が怖いと、大きな爪が怖いと、みんなに嫌われていた。ひとりぼっちだった。さみしくはなかったが、自分より小さな獣をその爪と牙で狩りとって貪り生きる自分がみじめな気がしていた。ひとりぼっちの狼の目は、なみだの色をしていた。

2010-10-23 17:29:08
@hiragi30000

猫は、ひとりぼっちだった。まっしろな体に赤い目がおぞましと、ヒトにも仲間にも嫌われていた。ふん、俺はとくべつなんだ、おまえらと一緒にすんな。猫は、ヒトや仲間以外にも嫌われていた。大きな体をした茶色の獣の爪にやられて、目と肩に傷を負った。ひとりぼっちの猫の目は血の色をしていた。

2010-10-23 17:31:39
@hiragi30000

狼には手足があった。地を駆けるための逞しい足は、ヒトの姿を模すことができた。顔も、声も、ぜんぶヒトのまねをすることが出来たが、耳と尻尾だけはどうしても隠すことが出来なかった。ヒトにもケモノにもなれないひとりぼっちの狼は、ひとりぼっちで生きていた。

2010-10-23 17:35:16
@hiragi30000

狼と猫が出会ったのは、まんまるい月が昇る冷たい夜のことだった。狼は月を愛していたが、まんまるい月は狼を苦しめた。月が一周するごとに、狼は自分の胸を押さえて地面にのたうち回る。くるしい、いたい、こわい、無口な狼が、たくさんの泣き言を漏らす日だった。

2010-10-23 17:38:29
@hiragi30000

大きな木の根元で蹲って、グルル、と低く喉を鳴らして唸る狼を見つけた猫は、物怖じせず狼にぽてぽてと近付いた。異物の気配を感じた狼が腕を振ってそれを追い払おうとしても、しなやかに動く猫にその爪は当たらなかった。「…おまえ、だいじょぶか?」しろい猫の赤い目が、不思議そうに狼を見ていた。

2010-10-23 17:41:27
@hiragi30000

羽織っているシャツはぼろぼろで、ところどころ破れていた。よく見れば鋭い爪で己を抉ったらしく、シャツの下は血まみれだった。真っ赤な爪の痕が痛々しくて、猫はその傷をざりざりとなめてやった。いたいだろ、なにやってんだよ、くるしいのか、…泣くなよ。まんまるい月が、雲に姿を隠した。

2010-10-23 17:46:04
@hiragi30000

白い猫が傍にいると、くるしいのと、いたいのと、こわいのが薄れたような気がした。猫は、狼の剥き出しの爪が以前自分を切り裂いたものとそっくりであることに怯えていたが、狼がくるしそうに泣いている姿を見たら放っておけなくなっていた。大きな体のこどもが、膝を抱えて泣いているように見えた。

2010-10-23 17:48:18
@hiragi30000

鋭い爪は猫を切り裂くことはなく、寄り添ってくれた白くて小さな体をそっと包み込んだ。月も星も見えないまっくらな森の中で、猫の鳴き声がずっと聞こえていた。 朝が来ると、狼は自分でつけてしまった傷を川の水で洗い、森を立ち去った。

2010-10-23 17:52:20
@hiragi30000

「にぃ」ぽてぽてと歩く猫の後ろを、茶色の狼が歩く。ゆらゆら揺れる白い尻尾を見失わないように、追い越さないように、大きな狼が猫を追いかける。「んなぁぅ」おまえもうくるしくないんだろ、あっちいけよ。困ったように鳴いても狼は無言で猫のあとをついてきて、離れる気配を見せない。

2010-10-23 17:54:45
@hiragi30000

「…みゃぅ」ったく、しょーがねえなー。猫はするすると狼の体をよじ登り、その肩にちょこんと座りこむ。まあ、またおまえがくるしくなったらカワイソーだしな、ついててやるよ。みゃあ、と得意げに鳴く白い猫の頬にそっと自分の頬をくっつけて、狼は少しだけ笑った。ありがとう。

2010-10-23 17:57:27
@hiragi30000

ひとりぼっちだった狼と、ひとりぼっちだった猫が、ひとりぼっちじゃなくなった日の、おはなし。

2010-10-23 17:57:54