村雨視点
最近、時雨の元気がないのよね。食欲もないみたいで、ここ数日はご飯を殆ど残してる。廊下で私と会っても、私が声をかけるまで私に気づかないといった有り様。何かあったのかしら…
2014-01-25 20:30:20何が原因であのコが元気をなくしてるのかはわからないけど、今ソファーで私の隣に座っているコの元気がない原因ははっきりしていた。 「時雨…どうすれば元気になってくれるっぽい…?」 もー、時雨のばか…。夕立にこんな顔させるなんて…
2014-01-25 20:35:22塞ぎこむ夕立の頭を撫でる。小犬の耳のように跳ねた髪が、心なしかくったりしていた。 「何か思い当たることはないの?」 …心当りがないからこんな状態になってるのはわかってるんだけど、問いかけがきっかけで思いつくこともあるし、一応聞いてみた。でも、案の定… 「……わかんない」
2014-01-25 20:40:32時雨は滅多に自分の悩みを人に話すことはないのよね。全部ひとりで悩んで、抱え込んじゃう。きっと皆に迷惑をかけまいとしてるんでしょうけど、でも、それが空気に出ちゃってるのよね。もー!それって、周りからしたら心配でしょうがないだけなんですけど!
2014-01-25 20:45:29「時雨…何も話してくれない…。何にもわかんない…」 そう呟いて夕立が自分の膝に顔を埋める。時雨も重症だけど、こっちはこっちで重症みたい…。 「夕立、貴女まで凹んでちゃどうしようもないわよ。ほら、元気出して」 夕立の頭を私の方へ寄せる。夕立の柔らかい髪が頬に当たる。
2014-01-25 20:50:23夕立が私の胸に顔を埋めてきた。私はそんな夕立を抱きしめる。…夕立には何か気の利いた言葉をかけるよりも、この方がずっと効果的。人の温もりが、このコは大好きだから。 「…夕立じゃ、時雨の力になれないっぽい…?ダメっぽい…?」 …夕立もいつになく落ち込んでるわね。心配だわ…。
2014-01-25 20:55:25「…そんなことないわ。時雨は、いつも夕立から沢山元気を貰ってると思う。だから、夕立が元気にならないと時雨も元気になれないわ。夕立まで落ち込んじゃってたら、誰が時雨に元気を分けてあげるの?ね?」 そう言って、夕立の震える背中を撫でた。
2014-01-25 21:00:37うーん…どうしよう。こういう時ってあんまり詮索し過ぎても良くない事があるのよね…。かといってそっとしておいてあげた方がいいかといえば、微妙。時雨は一人にしてしまうと負の思考の渦に飲み込まれてしまいそうな危うさがあるから…
2014-01-25 21:05:32そんな時、グゥ…と大きな音が聞こえた。これは…何の音…? 「……夕立?」 夕立がぷるぷる震えながら上目遣いで私を見上げた。 「む、村雨……夕立、おなか…空いたっぽい……」 私は思わず吹き出した。夕立ったら…。
2014-01-25 21:10:21あ、そうだ、時雨にお菓子を作ってあげるとか良さそう。最近殆どご飯食べてないみたいだし、お腹が空いたままだと沈んだ気分からは中々抜け出せないのよね。食欲がないみたいだけど、軽いものなら少しは食べてくれるかも。これってシンプルだけど、一番効果あるかもしれない。
2014-01-25 21:15:23「夕立、お菓子を作りましょう!」 「え?」 夕立が目を丸くしながら私を見た。私が説明すると、疑問符が出ていた夕立の顔がパァッと明るくなった。 「時雨、元気出してくれるっぽい? 夕立、力になれるっぽい!?」 私は頷きなら夕立を撫でた。
2014-01-25 21:20:21「何を作るかは、あとで相談しましょう。私の部屋にお菓子作りの本があるから、それを見ながらね」 夕立が先ほどまでとは一転して、明るい笑顔を見せる。良かった…やっぱり夕立は笑顔の方がいい。この笑顔を見てると、何でも上手くいく気がする。
2014-01-25 21:25:31「夕立は時雨のこと、好き?」 「うん!夕立、時雨のこと大好き!」 ふふ、時雨が羨ましいわね。こんなに夕立に愛されてるなんて。知ってるよ。夕立のその大好きが、女の子としての大好きだって。私、夕立には幸せになって欲しいって思ってる。今回のこれも二人の進展のきっかけになればいいな。
2014-01-25 21:30:25時雨視点
僕はまだあの日の出来事を引きずっていた。食べ物も喉を通らないし、演習でも失敗ばかり…。僕、みんなに迷惑かけてる。駄目だ…こんなんじゃ…。でも…。 「山城……」 自分の唇に指を添える。僕はあの日、山城とキスをした。そして、その事実は僕だけが知っていた。
2014-01-25 23:40:08山城はやはり何も覚えていないようで、今までと変わらない様子で僕に接してくる。多分、黙っていれば山城に知られることはない。そして、これは黙っているべきだと思う。僕の中だけに留めておくべきこと…。 「はぁ……」 でも、心の何処かで…山城に知ってほしいって思う自分がいた。
2014-01-25 23:45:09今、僕の頭の中は霧に包まれていた。何を考えても真っ白で、何も見えてこない。そして、この霧を晴らす方法がわからない。僕は完全に道を見失っていた。航路を見失った船が行き着く先は……。 「……時雨!」 部屋の扉が開いた。そこには……夕立が立っていた。
2014-01-25 23:50:13夕立が僕の傍に駆け寄ってきた。そして何だか甘い匂いがする……? 「時雨!夕立ね、クッキー焼いてみたの!でね、時雨に食べて貰いたいっぽい!」 目の前に大きなお皿が差し出された。 「…え?く、クッキー?え?」 それはあまりに突然で、僕は困惑してしまった。
2014-01-25 23:55:11「時雨!食べて!」 夕立が興奮冷め止まない様子で言う。ちょ、ちょっと待ってよ…! 「ゆ、夕立…いきなりどうしたの…!?」 お皿を軽く押し戻し、夕立に聞いてみる。すると夕立はハッとなった様子で動きを止めた。 「ご、ごめんなさい…時雨…夕立、ちょっと興奮しちゃってたっぽい…」
2014-01-26 00:00:53「時雨、最近元気ないっぽい…。夕立、時雨のことが心配なの…。だから、元気出して貰いたくて…作ってみたの」 夕立が不安そうな瞳で僕を見つめる。 「時雨は悩みとか全然話してくれないっぽい…。頼りにならないって思ってるのかもしれないけど、でも夕立は時雨の力になりたいから…」
2014-01-26 00:05:12夕立の目から涙が溢れた。 「夕立ね、時雨の為なら何でもする。出来る事はあんまりないかもしれないけど、でも、精一杯頑張る。だから…元気になって欲しいっぽい…」 お皿に乗ったクッキーの1つに、夕立の涙が落ちる。…僕はそのクッキーを取り、口に運んだ。 「……美味しいよ、夕立」
2014-01-26 00:10:10夕立が本当に嬉しそうな顔になった。…その顔を見たとき、僕の頭の中の霧に光が差したような気がした。 「時雨…元気出たっぽい…?」 「うん…元気、出たよ…ありが…」 夕立がお皿を落とした。クッキーが床に散らばる。そして直後、夕立が僕に抱きついてきた。 「よかった…時雨…」
2014-01-26 00:15:10夕立は僕の肩に顔を埋め、小さな声で泣いていた。 ありがとう、夕立。…本当言うと、まだ少し頭の中には霧が残ってるんだけど、でも、こんなに心配してくれる夕立を見てると、僕はこのままじゃいけないって、心底思った。 やってしまったことはやってしまったこと。悔やんでも仕方がないんだ…
2014-01-26 00:20:09