『ラストエンペラー』を分析しよう  坂本龍一の作曲技法その3

前回のぶんはここhttp://togetter.com/li/626092 今回のは難しいかもしれない。
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It happens sometimes @ElementaryGard

『ラストエンペラー』分析いきます。2:31から2:36まで。例によってイ短調に移してドレミ化しますのでよろしく。

2014-02-06 18:04:02
It happens sometimes @ElementaryGard

旋律つまり右手は♪ラ~ド~ラ~ミ♭レ~♪ ベースつまり左手は一小節ごとにド→シ→シ♭と進む。

2014-02-06 18:07:04
It happens sometimes @ElementaryGard

この曲は旋律も和声もラに始まってラに終わります。城のなかでは絶対権力者でも外に出ることは許されない皇帝が、自由と自立を求めて引力に抗って駆け上がるけれど元の場所に引き戻されてしまう・・・その引力源(トニック)がラです。

2014-02-06 18:09:42
It happens sometimes @ElementaryGard

このパートで旋律はラに落ち着くのですがベースはド。先に分析したときベースはレでしたね。レ→ドと下降したわけです。これがさらにシを経由してラまで下降すれば、引力に抗ったけれども引き戻される皇帝が表現できます。曲がそこで一度きれいに完結するわけです。

2014-02-06 18:14:19
It happens sometimes @ElementaryGard

このベースのドを、どうやってシを経てラに着地させるか? これが2:31~2:36パートの課題。

2014-02-06 18:16:06
It happens sometimes @ElementaryGard

このパートの旋律は♪ラ~ド~ラ~ミ♭レ~♪ ここ、少しいじって♪ラ~ミ~ラ~ミ♭~レ~♪にしてみてください。ベースはさっきの通りに。おやおや、これでもちゃんと違和感なく聞こえてしまいます。

2014-02-06 18:23:23
It happens sometimes @ElementaryGard

さらに旋律を単純化してミ→ミ♭→レ(一小節ごとに下降)にして、ベースは先ほどと同じくド→シ→シ♭と鳴らしてみましょう。これでも違和感なく聞こえてしまいます。

2014-02-06 18:26:53
It happens sometimes @ElementaryGard

音を縦に並べてみましょう。一小節目ではド・ミが縦に並ぶ。二小節目ではシ・ミ♭。三小節目でシ♭・レ。それぞれ上と下の音が同じ音程です。それが半音ずつ下降しているのがわかると思います。

2014-02-06 18:30:58
It happens sometimes @ElementaryGard

旋律(の核となる音。実際には鳴っていないものもある)が半音下降し、それに連れ添ってベースも半音下降しています。論より証拠、ピアノかキーボードで指二本で鳴らしてみてください。こうやってドからラに向かってベースを下降させているのです。

2014-02-06 18:33:40
It happens sometimes @ElementaryGard

なのに作曲者はなぜミ→ミ♭→レではなく♪ラ~ド~ラ~ミ♭レ~♪の旋律を選んだのでしょう。それはですね、ラ・ド・ミ♭の縦の連なりが妖しくも不安げな響きになることを意識して♪ラ~ド~ラ~ミ♭♪と鳴らしたのです。

2014-02-06 18:38:02
It happens sometimes @ElementaryGard

ラ・ド・ミ♭の縦の連なりは、専門用語で「短三度音程が連なった状態」といいます。理屈は省略してイメージで説明するとですね、この「短三度音程が連なった」音を鳴らすと、妖しさや不安さに満ちた響きになるので映画でスリラーな場面でよく使われます。

2014-02-06 18:40:37
It happens sometimes @ElementaryGard

一小節目では「ド・ミ」、二小節目では「シ・ミ♭」、三小節目で「シ♭・レ」。これがベースをドからシを経由してラに下降させるために作曲者が当初考えた和音(コードではなくハーモニーですね音が二つだから)。ただできればミは鳴らしたくないと考えた。

2014-02-06 18:50:10
It happens sometimes @ElementaryGard

それにラを鳴らしたいと考えた。ラ・ド・ミ♭が鳴るようにすれば短三度音程が連なって妖しくも不安な響きが生まれて、まさにラストエンペラー溥儀の、見かけとは裏腹にいつもどこかびくびくした心象を表現できるから。

2014-02-06 18:53:08
It happens sometimes @ElementaryGard

こうして♪ラ~ド~ラ~ミ♭~レ~♪の旋律にそってベースがド→シ→シ♭と下降。もうちょっとでラに着地する・・・と期待してはいけない。旋律(の核となる音)とベースが同じ音程を維持しつつ半音下降するこの技を使うと、今度は下降が止まらなくなって無限奈落へ。これも鳴らしてもらうとわかる。

2014-02-06 18:56:54
It happens sometimes @ElementaryGard

この技でラにベースがたどり着いても、旋律はド♯(=レ♭)になるからイ短調から外れてしまうのです。これでは曲がきれいにまとまらない。

2014-02-06 18:58:45
It happens sometimes @ElementaryGard

いえそもそもベースがシ→ラと進まず(進めず)シ→シ♭にしか進めない。ド→シ→ラと進んでほしいのに。

2014-02-06 19:00:49
It happens sometimes @ElementaryGard

http://t.co/YXAVSQqYQa そこで2:36から和声進行をがらっと変える。ベースでいうならばシ♭からラに行かず、ファにジャンプ。和声でいえば「シ♭△7」から「ファ」に進む。なぜこう進めるかの説明は省略します。別の話になってしまうから。

2014-02-06 19:06:00
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It happens sometimes @ElementaryGard

コード表記するとB♭△7→F△7。これがEmに進んで、Amに着地。ベースはシ♭(→ファ→ミ)→ラと進んで、ようやくラに着地しました。シ♭からラに進むと旋律がおかしくなるので、少し遠回りしてラにフィニッシュをきめたのです。

2014-02-06 19:09:47
It happens sometimes @ElementaryGard

このとき旋律は♪ラソファミレミ、ド、ラ~♪ すでに一度ラに戻っていたもののベースはラではなくドまでしか下降していなかったので、それがラに遠回りで着地するまでの間、一オクターヴ下降で時間を潰しているのです。

2014-02-06 19:12:25
It happens sometimes @ElementaryGard

これで曲が一度一周しました。http://t.co/YXAVSQqYQa 2:40で最初に戻るわけです。

2014-02-06 19:13:52
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It happens sometimes @ElementaryGard

以前、拙著『宮崎駿の時代』で、なぜカリオストロ伯爵は時計塔のなかでルパン&姫様に機関銃を発砲させたのかを論じました。自分の花嫁がいるのにそこに発砲させるなんてよく考えたらおかしいですよね。宮崎の演出ミスと片付けてはいけない。あれは脱出路を塞ぐために作者が伯爵一味に発砲させた。

2014-02-06 19:19:21
It happens sometimes @ElementaryGard

ルパンが何か木の戸を開けようと鍵をいじっているところに機関銃の弾が来て、姫様がきわどいタイミングでルパンに飛びついて通路の影に避難させる。機関銃の弾が来るので戸を開ける余裕がない。そこで二人は時計塔の上に逃げる。逃げてくれないと伯爵との針の上での決闘シーンに持ち込めないから。

2014-02-06 19:22:04
It happens sometimes @ElementaryGard

宮崎は要するに、あの二人を時計塔内部から園庭のおじいさんの家に逃走させたくなくて(逃走してしまったら時計塔での伯爵との決闘、崩壊、お宝の正体に話が進まない!)、それで機関銃で戸を開けさせないように仕向け、上に二人を逃走させたのです。作者の神の手が働いている。

2014-02-06 19:25:11
It happens sometimes @ElementaryGard

「ルパンかっこいい」「姫様けなげ」「伯爵怖い」とかの表面的な興奮に留まらず、その奥でうごめく作者の計算を読み取ってこそ名作は楽しめる。それは音楽も同じ。『ラストエンペラー』にも同じ神の手が働いています。

2014-02-06 19:27:32
It happens sometimes @ElementaryGard

坂本そのひとがここまで自作を解説したものを見たことがありません。それは宮崎が『カリ城』の手口を過去にきちんと明かしたものがないのと似ている。

2014-02-06 19:29:51