古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #2

更新二回目のまとめです。 鎮守府で提督を務める雷が青葉に甘い理由とは。
7
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「それで?青葉は相変わらず古鷹から逃げ回ってるわけ?」 執務室で書類を読みながらながら提督が言う。私も秘書官の仕事を片づけながら答えた。 「うん、そう。理由を聞いてもはっきり答えなくってさ。失礼しちゃう」

2014-02-27 00:43:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「まあしばらくほっときなさい。時間が解決してくれる問題もあるわ」 「雷ちゃんは大人ねえ」 半ば本気で感心しながらそんな感想を漏らすと、執務机の向こう側から可愛らしい怒声が飛んだ。 「提督って呼んでって言ってるでしょ!」 そう、うちの鎮守府をあずかる提督は人間ではなく、艦娘なのだ。

2014-02-27 00:46:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

元々はちゃんと人間の提督がいたのだが、その提督はクッキーがどうたら狩りがうんたら言った挙句、「司令官、私がいるじゃない!」と胸を張った雷ちゃんに提督の権限を全て委譲して姿をくらました。仕方がないのでそれ以来雷ちゃんと第六駆逐隊の姉妹が提督業を代行している。

2014-02-27 00:50:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

仮にも軍隊なのにそんなことで大丈夫なのかと心配する艦娘もいたけれど、鳳翔さんや霧島さんなど各艦種から一人ずつ補佐役が立ち、今のところ上手く回っている。人手不足なせいか、上も特に何も言ってこないそうだ。深海棲艦に地球上の海の大半を奪われた今、形式にうるさくしている余裕はないらしい。

2014-02-27 00:55:32
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「それにしても雷ちゃんは――」 「てーとく!」 「はい、提督。それで提督は、なんで青葉にこんなに甘いの?今だって古鷹ねーさんと一緒の艦隊に入りたくないなんて青葉のわがまま聞いてくれてるし」 先般から抱いていた疑問をぶつけてみると、いかずじゃなかった提督が書類から顔を上げた。

2014-02-27 00:59:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「まあ古鷹は第一艦隊所属だし練度も高いけど、青葉はまだ演習で練度を高めてる状態だしね」 目を閉じて腕組みをし、軽く上を見上げながら理由を述べるのが、提督らしくて駆逐艦ながら結構様になっている。椅子が高すぎて床に届いていない足がぷらぷらしているのが見えるのがちょっと可笑しいけれど。

2014-02-27 01:09:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「それに皆やりたがらない夜間の当直や哨戒にも毎日のように手を上げるしね。川内くらいよ?夜間の当直になって喜ぶの」 ああ、あの夜戦バカならさもありなん、と笑いをかみ殺しながら頷いたところに提督が「だけど」と言葉をつないだ。 「青葉、最近ほとんど自分の部屋で寝てないんじゃない?」

2014-02-27 01:17:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

提督が心配そうな顔つきで言う。そういえば、青葉が昨日記事を仕上げに部屋に戻ってきた時、自分の部屋で青葉と顔を合わせたの三日ぶりくらいかなあと思ったことを思い出した。 「あんたも姉妹艦なら、ちゃんと注意してあげなさいね?ぶっ倒れてからじゃ困るんだから」

2014-02-27 01:22:11
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

雷ちゃん、提督じゃなくてお母さんみたいねと喉まで出てきた言葉を飲み込んで、私は言い返した。 「そう思うんなら、提督からも言ってやってよー。古鷹ねーさんのこともさ」 「まあ、そうなんだけど……」 いつも元気のいい提督が言葉に詰まった。 「青葉の気持ちも、わかるのよねえ……」

2014-02-27 01:27:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「青葉の気持ち?昔古鷹ねーさんにかばわれて、それで古鷹ねーさんが沈んじゃったから申し訳ないとかでしょ?今更そんなこと古鷹ねーさんは気にしてないのに」 「理屈ではそうよ。でも……」 提督が言いよどんでいると、執務室の扉が音を立てて大きく開かれ、第六駆逐隊の他のメンバーが入ってきた。

2014-02-27 01:32:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

先頭に立っていた暁ちゃんがずんずん進み、執務机の雷ちゃんの前までやってきた。 「ちょっと雷!資源の在庫チェックがこんなに大変だなんて聞いてなかったわよ!?」 よく見れば、暁ちゃん以下響ちゃんも電ちゃんも頭から油やらススやらだらけになっている。

2014-02-27 01:35:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「説明する前に飛び出して行ったのは暁でしょー?私は『リストのデータと実際の在庫が一致しないわね』って言っただけなのに」 「むきー!だいたい、なんで雷が提督やってるのよ!?こういうのは長女で一人前のレディーな暁がやるべきじゃない!」 「はわ、はわわ、あの、暁ちゃん……」

2014-02-27 01:40:05
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

執務机を挟んで雷ちゃんと暁ちゃんの口ゲンカが始まり、電ちゃんがそれをおろおろしながら止めようとしている。一方、響ちゃんは何をしているのかと思えば、その光景を眩しいものでも見るように見つめている。察するに、姉妹がまた一緒になれて、こうした他愛もないケンカができることが嬉しいらしい。

2014-02-27 01:43:48
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あんたのどこがレディーなのよ!?本物のレディーは自分でレディーだなんて言わないと思うけど!?」 「言ったわねえ!?雷こそすぐムキになるくせに提督なんかできるの!?」 と、響ちゃんを見ている間に雷ちゃんと暁ちゃんのケンカが一段とヒートアップしていた。

2014-02-27 01:47:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

秘書官としては、床に散らばった書類がこれ以上犠牲になる前に止めねばなるまい。やれやれ、さっきまで提督らしかったんだけどなあと思いながら腰を上げると、開かれたままの執務室の入り口から、一人の軽巡洋艦娘が入ってくるのが見えた。その艦娘に気づいた暁ちゃんたちの動きがぴたりと止まる。

2014-02-27 01:51:13
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その艦娘の名は由良。軽巡洋艦娘から選ばれた、提督の補佐役だ。由良は両手で雷ちゃんの口を左右に引っ張っていた暁ちゃんのもとに近づき一枚の書類を差し出した。 「暁ちゃん、さっきの在庫チェックの時、これ落としてたわよ」 優しげで落ち着いた声とともに差し出された書類を暁ちゃんが受け取る。

2014-02-27 01:55:22
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あ、あの……ありがと……」 目を伏せ居心地悪そうにしながら暁ちゃんが礼を言う。ふと見ると、他の第六駆逐隊の子たちも同じような態度を取っていた。それを見た由良は、少しさびしげに笑い、「失礼します」の言葉とともに執務室から退出した。

2014-02-27 01:59:01
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

暁ちゃんと雷ちゃんは、すっかり毒気を抜かれた様子で、ばつの悪そうな顔をしていた。最初、私は由良のあの大人びた物腰が暁ちゃんと雷ちゃんを落ち着かせたのかと早合点したが、どうやらそうではないようだ。雷ちゃんに目線で問うと、小さなため息が漏れた。

2014-02-27 02:02:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「ね?理屈じゃないって言ったでしょ?こんなの、由良にも悪いと思ってるんだけどね……」 由良と第六駆逐隊の子たちの態度で、私にも思い当たることがあった。 「由良って、確か……」 「そうよ。私たちが間違った情報を伝えたせいで、由良は沈んじゃったの」

2014-02-27 02:07:25
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「でも、その時は情報が間違ってたどうかなんてわからなかったんでしょう?だったら……」 「でも、私たちが誤報を中継しなかったら、由良は沈まなかったかもしれない。そう考えると、由良に合わせる顔なんて私たちにはないわ。由良が気にしてないって言ってくれてもね」

2014-02-27 02:11:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

雷ちゃんが言葉を続ける。 「だから、青葉の気持ちもわかるのよ。ましてや、あんたたち古鷹型と青葉型はとっても仲が良かったんでしょ?なおさらだわ」 執務室の空気は、すっかり意気消沈していた。 「電。暁と響も汚れだらけだしお風呂に入ってきなさい。衣笠ももういいわ」

2014-02-27 02:16:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は頷き、ひと段落した仕事を執務机の上に置いて執務室から出ようとした。青葉も雷ちゃんと同じような気持ちを抱いているなら、下手に手を出される方が辛そうだ。ひとまず青葉のことは放っておくしかないのだろうか。そんなことを思いながら歩き出すと、背中から雷ちゃんの声がかかった。

2014-02-27 02:20:19
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あとね、青葉のことは古鷹からも言われてるのよ。『青葉のお願い、出来る範囲でいいですから聞いてあげてもらえませんか』って」 ああ、古鷹ねーさんならそういうこと言いそうだ。いつだって私たちには優しいひとだから。そんなことを思ったわたしの頭を、雷ちゃんの次の言葉が打った。

2014-02-27 02:25:28
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あと、古鷹はこうも言ってたわ。『青葉は私を恨んでると思うから』って」 そんな、バカな。雷ちゃんの言葉が、私の胸の中でむなしく反射して響いた。

2014-02-27 02:27:26