古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #3

更新三回目のまとめです。 青葉の真意を質す衣笠。そして加古。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

執務室を出た私は、提督のさっきの言葉を頭の中で繰り返しながら廊下を歩いていた。 「青葉は私のこと恨んでると思うから」 そう、古鷹ねーさんは言っていたらしい。そんなの、どう考えてもおかしい。かばわれた側がかばった側を恨むなんて。まさか、青葉が古鷹ねーさんに何か言ったのだろうか。

2014-02-28 03:03:21
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

あるいは、古鷹ねーさんがそう思うようになったきっかけめいたものがあったのかもしれない。古鷹ねーさんに直接問いただしたいけど、古鷹ねーさんはあいにく第一艦隊に編入されて出撃中だ。こうなったら、青葉の方を先にとっつかまえて話を聞くしかない。そう思った私は鎮守府内の食堂に向かった。

2014-02-28 03:06:04
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

非番の艦娘たちは大体ひがな一日食堂にたむろって、めいめいおしゃべりに花を咲かせているのが常なので、青葉の記事のネタも見つかりやすい。食堂は青葉の重要な取材場所でもあるのだ。食堂にたどり着き、入り口から中をのぞく。案の定、藤色のポニーテールが食堂の端に見つかった。

2014-02-28 03:11:25
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

意外なことに、青葉は取材中ではなかった。誰かと話をしているが、青葉は手帳を開いていない。テーブルの上に何か紙を広げ、相手に何か説明している風だ。近づいてみると、青葉の話し相手が分かった。夕張ねーさんだ。一体何を話しているのかと思いながら歩みを進めると気配を察した青葉が振り向いた。

2014-02-28 03:15:27
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「衣笠っ!?なんで、ここに!?今日は秘書艦のはずじゃ……!?」 青葉はうろたえながらもすごい勢いで机の上の紙を丸め、夕張ねーさんに押しつける。 「あの夕張さん、さっき言った通りにお願いしますね!じゃあ、青葉はこれで!」 これまたすごい勢いで逃げ出す青葉の襟首を私はふんづかまえた。

2014-02-28 03:19:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「なによつれないじゃない青葉。何の話なのか衣笠さんには教えてくれないの?」 「衣笠には関係ありませんから!」 振り向いた青葉にいつになく強い口調で言い返され、私はちょっと面食らう。夕張ねーさんはというと、委細承知といった顔で手を振り、何も言わずに食堂を出ていってしまった。

2014-02-28 03:22:37
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青葉が夕張ねーさんに何か頼んでいたようだけど、よほどのことなのか二人とも教えてくれる気はなさそうだ。まあ、本当に青葉に聞きたいことはこれじゃない。古鷹ねーさんの言っていたことを確かめなきゃ。 「あの、衣笠そろそろ離してくださいよ。青葉、次の取材の予定が……」

2014-02-28 03:26:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんな常套句にほいほい騙される衣笠さんではない。 「5分で済むわ。ちょっと青葉こっち来て」 「ええ~……」 青葉を引きずり、食堂の隅の衝立で仕切られて予備の机やいすが置いてあるスペースに入る。誰か他の艦娘に聞かれて困る話でもないけれど、青葉はこの方が話しやすいはず。

2014-02-28 03:30:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「一体なんなんですか衣笠。制服が伸びちゃうじゃないですかあ」 ぶうたれる青葉と向き合い、私は単刀直入に聞いた。 「青葉、古鷹ねーさんが『青葉は私のこと恨んでる』って言ってたんだけど、あんたなにかしたの?」 青葉の体がびくりと震える。 「なんですか、それ……」

2014-02-28 03:33:26
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こちらを向いた青葉の顔は色を失っている。 「そんなわけ、ないじゃないですか……青葉が、古鷹さんを恨む、なんて……」 青葉の声が震える。さっきまでの能天気な調子はどこへやらだ。 「でも、古鷹ねーさんは青葉がいっつも古鷹ねーさんから逃げ回るから、そんな風に思ったんじゃないの?」

2014-02-28 03:39:49
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食堂へ来る途中考えていた疑問をぶつける。古鷹ねーさんと顔を合わせづらい青葉の気持ちもわかるけど、古鷹ねーさんが青葉に恨まれてるなんてことを思うくらいなら、きちんと会って誤解を解いた方がいいに決まってる。青葉の絞り出すような返答が返る。 「でも、青葉には無理なんですよ……」

2014-02-28 03:44:42
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煮え切らない青葉の答えに、勢い頭がかっとなる。 「そんなこと言ったって始まらないじゃない!あんた古鷹ねーさんの気持ち考えたことあるの!?助けた青葉に避けられて、恨まれてるなんて思い込んじゃって!」 青葉は何も言わずに唇を噛みしめ、下を向いている。そんな態度に余計に腹が立つ。

2014-02-28 03:50:52
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もっと言ってやろうと口を開いたその時、視界の隅で何かが動いた。見れば、高く積み重ねられた椅子の棟がガタガタと音を立ててひとりでに動いている。いや、よく見れば椅子の隙間から見覚えのある青いセーラー服がちらついている。 「……ふあ~あ……あんまりうるさいから目え覚めちゃった」

2014-02-28 03:56:20
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「加古ぉ!?あんた何やってんのよこんなところで!」 思わず素っ頓狂な声が出る。積み上げられた椅子の陰から出てきたのは、加古だった。青葉もあっけにとられている。 「何って、昼寝……?昼ご飯食べた後部屋戻るの億劫だったからさ、ここだったら誰にも邪魔されずに寝られると思って……」

2014-02-28 03:59:27
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加古のふにゃふにゃした言い訳を聞いて、頭を抱えたくなる。加古も古鷹ねーさんと同じ古鷹型だから、一応古鷹ねーさんや夕張ねーさんと同じように私や青葉の姉貴分にあたるのだけれど、四六時中この体たらくなのでいまいち「ねーさん」を付けて呼んでやる気になれない。

2014-02-28 04:03:23
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今日は古鷹ねーさんが出撃でいないので、使われていない椅子を並べて寝放題だったのだろう。革張りの椅子の縫い目が顔に跡になって残り、どこぞの無免許医師のようになっていた。私と青葉がすっかり毒気を抜かれていると、その顔のまま加古が目の前に近づいてきた。

2014-02-28 04:08:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

意外に思ったのは、加古の目が普段のような眠たげなまなこではなく、ぱっちりと見開いて私を見つめていたからだった。加古が私に言う。 「衣笠、ちょっと言い過ぎ。そんなに青葉いじめたって何にもなんないでしょ」 別にいじめたつもりじゃない、と言い返そうとした時、加古が青葉に目を向けた。

2014-02-28 04:14:27
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そして、予想もつかないことを尋ねた。 「青葉はさ、古鷹のこと好き?」 いきなり何を聞くのだこのねぼすけは、と思いながら加古を見る。加古は青葉に顔を向けたままだ。青葉に目を向けると、相変わらず無言で下を向いている。まるで貝になったかのように押し黙っている。

2014-02-28 04:19:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

これじゃ全然らちが明かないじゃない。いい加減にしなさいと口を開こうとすると、加古に腕を引っ張られた。 「そろそろ古鷹が帰ってくるから、あたし部屋に戻るね。部屋で寝てないと古鷹心配するからさ。衣笠も行こ」 「えっ!?ちょっと!」 加古に引っ張られて私は青葉を残してその場を離れた。

2014-02-28 04:25:34
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加古に押し出されて衝立から出たところで、加古が衝立の中に残された青葉の方を振り向いて言った。 「あ、そうだ。念のため言っとくと、あたしは青葉のこと恨んでなんかないよ。青葉は悪くない」 その瞬間の、青葉の顔を何と表現したものだろう。一瞬顔をくしゃっと歪めたようにも、見えた。

2014-02-28 04:29:44
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食堂を出た途端、加古があたしの肩にのしかかってきた。 「ちょっと加古、重いわよ!」 「ん~、また眠くなってきた……衣笠あたしらの部屋までお願い……」 「衣笠さんはタクシーじゃないのよ!まったくもう、青葉は何考えてるんだかわかんないし、加古には邪魔されるし散々だわ!」

2014-02-28 04:34:13
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愚痴りながら加古を肩に担ぐと、眠たげな声で加古が言った。 「……でも青葉は……古鷹のこと……好きだよ……体の震え、止まってたもん……だからさ、大丈夫……」 え?と聞き返す間もなく、加古は再び安らかな寝息を立てはじめていた。

2014-02-28 04:39:04