機械化された記憶 -今夜の川内裏-

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魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

…初めて彼女たちと会ったのは、沿岸の塹壕陣地だった 「太平洋の壁」と名付けられた強大な要塞線は今や各所から炎と黒煙が上がっている 「沿岸砲はどうした!? 砲撃援護はどうなっている!?」 「通信途絶!! 第二小隊が…」 #今夜の川内裏

2014-02-25 23:49:54
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

各無線は任務に忠実に、悲鳴のような将兵たちからの報告を吐き出していた 「司令部施設を後方の装甲列車へ…」「違う、まずは戦車から離脱させろと言っている!! 歩兵が殿だ!!」 (ああ、ここはもうダメだな…) #今夜の川内裏

2014-02-25 23:52:55
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

コンクリートに細長く開いたトーチカの銃丸から、眼下に炎上する沿岸陣地を臨みながら私は思った 「そこのお前!!」 突然上官からの呼び声がかかる 「貴様が小隊長だな?」 肯定する 「貴様ら小隊に、司令部移動の後方援護を命ずる 別命あるまでここで待機せよ!」 #今夜の川内裏

2014-02-25 23:57:26
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

(…私たちは所詮、捨て駒か…) そんな私の思念を瞳から読み取ったのか、上官はそそくさと戸口へと向かう 残されたのはわずか50人ほどの、戦力とすら呼べない義勇兵たち (…いくらでも替えの効く下士官にとっては、お似合いな末路ね) その時だった #今夜の川内裏

2014-02-26 00:01:00
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

近くに唯一残された無線からノイズ以外の音が漏れる「…遅くなって、申し訳ない」 間をおかずして爆轟と閃光、次いで至近弾の爆煙がトーチカ内に流れ込んでくる 「まさか、もう来たのか!?」「いや違う、アレを見ろ!!」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:04:38
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…こちらは海軍特戦隊、これより陸軍への支援作戦を開始する」 無線の声にざわめきが広がる だが窓の外には巨大な戦艦も雑多な砲艦も見えない あるのは沖合の、小さな6つの人影 「バーニング… ラァァァヴ!!」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:07:56
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

刹那、沿岸からトーチカまでに至る斜面が爆煙で埋め尽くされ、そこかしこに取り付いていた異形の者共を一掃する 「アー、誰か生き残ったの、いますカー?」 無線を聞き流しつつ双眼鏡を覗き込む #今夜の川内裏

2014-02-26 00:11:05
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

まるで死に装束のような白衣に身を包み、死に神を連想させる真っ黒なセーラー服を率いた、たった6人の艦隊 「沿岸の敵は掃滅しましター! 海岸伝いに他の陣地へ転身してくだサーイ!」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:13:18
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…せっかくの申し出、傷み入るが…」「お? ひえー、初めて生きてる人がいましたヨー!」 「自分らには、司令部から殿を申しつけられている」 「司令部? ああ、装甲列車の連中のことですかー」相変わらずの呑気な声音 「彼らならとっくに、三千世界の彼方デース!」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:17:23
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「まさか… そんなバカな…」 「…ホントですよー? 既に他の海岸からの連中が後方にまで浸透していマース」「それじゃあ、私たちは…」「早く逃げてくだサーイ」「…済まない、感謝する」私は無線機に向かって頭を下げた #今夜の川内裏

2014-02-26 00:19:55
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「いえいえー、そんなイイんですヨー!」少し照れたような声に、周囲も華やぐ 「そんなことを言われたら、わざわざ装甲列車への流れ弾を用意した甲斐も… おっと、今のは忘れてくだサーイ!」 …周囲が凍りついた 「…今、なんと?」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:25:07
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…なんでもありません」 澄んだ冷たい声が応える 「海岸は今は安全地帯です 速やかに移動を」 「…承知した」 背中をゾクリとした感覚が這い上がる 「…さぁひえー、行きますヨー!」 …こうして、私の初めての実戦は幕を下ろした #今夜の川内裏

2014-02-26 00:28:28
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…おい、おいったら…」 遠くから声が聞こえる 「…おい、川内!」 突然名前を呼ばれて、私はハッと我に帰った 「何をぼさっとしている!?」「申し訳…ありません …少し、考え事を…」 数年前のあの衝撃的な光景を脳裏から振り払う #今夜の川内裏

2014-02-26 00:33:14
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

あれから私はすぐ陸軍に辞表を出し、海軍に転向した …なぜそうしたのかは分からない 陸軍に愛想が尽きたのか、はたまた沖合に見た彼女たちに憧れたのか… 恐らくそのどちらでもないのだろう だから、この執務室でそれを聞かれても答えなかった #今夜の川内裏

2014-02-26 00:35:36
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

…するとすぐに鉄拳が飛んできた 「…目だ」 提督と名乗るその上官は言った 「お前のその、絶望したような目が気に入らん …お前には、司令部勤務を命ずる」真っ白な手袋が差し出される 「…ようこそ大湊警備府へ 新しい秘書艦君?」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:38:45
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…早く扉を開けてやれ」提督はやれやれと被りを振った 川内は言われた通りにする 入ってきたのは川内の姉妹艦、神通だった 「督戦隊、只今巡視より帰還いたしました」「報告を」 川内がバインダーの書類を用意しながら命ずる #今夜の川内裏

2014-02-26 00:43:15
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「報告いたしま…」「細かい話はいい」すぐさま話を遮る 「…戦況は、前線はどんな様子だ?」「はい …一言で言えば、末期ですね」 神通は表情を変えずに応える 「北方は相変わらずの睨み合い、攻勢に出ている南方は更に輪をかけて…」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:46:44
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「先月の駆逐艦だけでも北方が5、南方は8…」川内がKIA(戦闘時死亡)リストをめくる 「MIA(行方不明者)、戦闘不能を含めればざっとその5倍」「前線司令部の戦艦どもは何をしている?」提督はイライラと机を叩く 「既に士気は低く、場所によっては麻薬の蔓延も…」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:53:47
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…これからは」提督が重い口を開いた 「前線の駆逐艦比率を増やせ」「了解しました」川内はサラサラとバインダーに書き込む 「替えの効く戦力で前線を支える」「…あの、戦艦達は…」「…どうせ引き戻しても病院送りだろうな」「それは、その…」 #今夜の川内裏

2014-02-26 00:56:56
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

目を伏せる神通に命ずる 「…君の督戦隊に処理は任せる」 「…了解、しました…」神通はキッと敬礼をすると踵を返して執務室を立ち去る 「相変わらず、ひどいのね?」 部下がいなくなり、川内はいつもの口調で話し掛ける #今夜の川内裏

2014-02-26 00:59:24
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「ヤツらが招いた事態だろう、別に同情には値…」「そうじゃなくて」川内が隣から顔を覗き込む 「…神通のことよ」「それが彼女の仕事だろう?」「…それじゃ、私の仕事はどうなるの?」真っ直ぐに見つめる瞳 まるで心の奥底まで射抜くような… #今夜の川内裏

2014-02-26 01:05:50
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

提督はムリヤリな口付けでそれを封殺する 「…わかってたけど」川内は胸のリボンをスルリと外す 「私はアナタの秘書艦、身も心も… あの時から、ね」 執務室の外からは川内が要塞から逃げ延びた日のように、真っ赤な西日が降り注いでいた… #今夜の川内裏

2014-02-26 01:10:44
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

…今回は裏川内も、幸せな終わり方に…

2014-02-26 01:14:52