機械化された記憶 -今夜の川内裏-

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魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

川内はトラックの残骸の合間、黒焦げた死体の中に虫の息の無線手を見つけた どうやら無線は無事らしい 「アーアー、誰か聞こえるゥ?」『…川内か』「あ、提督ー? 久しぶりー!」『…自分が何をしたか、分かっているのか?』「もー何よ、怖い声出してー…」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:06:30
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

無線から聞こえる川内の声はいつもと何一つ変わらない、いやいつもよりも楽しそうな声音だ 『ねー提督ってばー 聞いてる?』「ああ、聞こえてるよ」 提督はギリッと奥歯を噛み締める 『ねぇねぇ、私このまま出撃しちゃっていーい?』 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:09:04
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…部下の駆逐艦と陸戦隊を皆殺しにしてまだ足りないのか?」『だーってー…』 無線の向こうからうめくような声 陸戦隊の生き残りだろうか 『私… すっごい愉しいんだもん!!』 ぐしゃりと何か柔らかいモノを潰す音が聞こえた 「提督、これって…」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:10:50
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

督戦隊として数々の修羅場を見てきたはずの神通が、今まで見たことがないくらい青ざめた顔で口を開く 「…ああ、失敗だったんだ…」 提督は憎々しげに机上の書類を睨む そこには海軍省からの「第○号、ケッコンに関する達」の文字 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:13:51
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

艦娘の能力限界のリミッターを外し、今までに無いような戦果をもたらす… この書類にはそう書かれていた 「こういう意味だったのか… …ふざけるな!!」提督は机上の書類もろとも、無線機を殴り飛ばす #今夜の川内裏

2014-03-06 00:17:33
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「提督…」「…既にアレは、川内ではない」 静かに拳銃の撃鉄を起こしながら神通に告げる …好戦的な人格の大元は恐らく、あの指輪だろう だがそれを破壊した所で、川内が元に戻る保証はない 「…よろしいんですね?」神通に向かって静かに頷く #今夜の川内裏

2014-03-06 00:25:13
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

それを見た神通は単装砲を構えて、そろりと扉に向かい… 「砲雷撃戦、よーい…」 …執務室に閃光が走った 提督が硝煙に霞む目を辛うじて開けると、吹き飛んだ扉とその前に倒れ伏す神通の姿 「あれ? 一緒にやっちゃった?」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:28:25
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「川…内…ッッ!!」 憎しみ恐れ怒り悲しみ、あらゆる感情を込めてかつて秘書艦だった、そしてこれから幸せな家庭を共に築くはずだった女の名を口にする 「あ、提督は無事だね! 良かった良かった!」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:30:44
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…何故だ」 既に拳銃は扉の爆破の際、どこかへ吹き飛んでいた 提督は視界の端に武器になる物がないか探しながら話し掛ける 「なんでって? そりゃあ、楽しいからよ!」 川内の足が止まった 「楽しくなきゃ、人生つまんないじゃん?」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:33:34
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「その為の犠牲、か…」「そう!」 悪びれる所か満面の笑みで応える川内 …コイツは、狂っている 「私、やっと気付いたの! 何のために生きてるのか、ってコト♪」 両手を広げダンスでも踊るかのようにくるりと舞う #今夜の川内裏

2014-03-06 00:35:38
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「私には戦いが、この修羅場が必要だったの! この血と硝煙の中でこそ、私は生きている実感が湧く! この地獄でこそ、命はより輝けるの!!」 「…そのためには、部下も妹も関係無いのか…?」「ないね!」川内は既に冷たくなった神通に近付き… #今夜の川内裏

2014-03-06 00:38:49
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「誰にも、私が生きているという実感を… 私の存在を、人生を… ジャマなんてさせない!!」 後頭部にライフル弾を叩き込む 「わぁ、スッゴくキレイ…」 床に咲いた血と脳漿の華に恍惚たる声が漏れる #今夜の川内裏

2014-03-06 00:41:33
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

その川内の頭に、後ろから冷たい銃口が押し当てられる 「…残念だ」「残念? 何が?」 横顔からチラリとこちらを振り返る川内と目が合う 「…私が幸せになるのが、残念? こんなにも生き生きと、生きてる実感が味わえてるのに?」 引き金にかけた指に力がこもる #今夜の川内裏

2014-03-06 00:44:42
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

乾いた銃声が執務室に響いた 「…あーもう、ダメだよ提督!」 …身体の奥が熱い 「いい加減、銃撃つときに息止めるクセ直さなきゃ、こうやってタイミングがバレて返り討ちに合っちゃうよ?」 喉の奥からゴボゴボと血が逆流するのがわかる #今夜の川内裏

2014-03-06 00:47:07
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

そのままドサリと床に倒れた 「トドメ、刺して欲しい?」「…あ、ああ」 「んじゃ、喜んで!」 視界が次第に暗くなる ふと自分が倒れている書類の散乱した床の、目の前に落ちていた書類に目が止まった 「婚姻…届…」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:50:08
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

ああ、そうだ… 今回の強化が終わったら、川内を我が家に迎えようと思っていたんだ… 「準備はいーい?」 …あ~、残念だったなー… コイツの作る味噌汁、もっかい食いたかったなぁ… 「…じゃあ、行くね? 提督、さよなら!」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:52:22
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…あれ?」 川内は気がつくと、見慣れない部屋に立っていた しばらくしてそこが、焼け焦げたかつての執務室だったと気付く 「あれ、なんでこんな… どうして…!?」 混乱して取り乱す川内の瞳に床の二つの死体が映る #今夜の川内裏

2014-03-06 00:55:18
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「神通と、提督…?」 見るも無残な光景に視界が滲む 「ねぇ、何があったのよ!? 誰か答えてよ!?」 『…全ては貴女の選択です』 人の代わりに機械音声が応える 『全ては、貴女が望んだ…』「ふざけないで!! 私はこんなの望んでない!!!」 #今夜の川内裏

2014-03-06 00:58:02
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

川内はそのまま床にへたり込むと既に冷たくなりつつある提督の上に倒れ押し殺した声で泣く 「なんで… 私はこんなの、望んでなんか… ただ、提督のために強くなりたかっただけなのに…」『…それは、表層上の意識です』 #今夜の川内裏

2014-03-06 01:00:39
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

『貴女の無意識下では、この結末を望んでいた』「望んでなんかない!!」『貴女は血と殺戮の世界をずっと待ちわびていた』「なんでよ!? どうして…」『…これが、貴女の選んだ結末です』 「違う… こんなこと…」 #今夜の川内裏

2014-03-06 01:02:42
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

川内は顔を挙げると指輪を睨みつける 「こんな結末、認めない…!!」『いずれも自分の選択…』強引に指輪を引き抜くと耳障りな機械音声が消えた そのまま指輪を投げ捨てると、提督の手に握られていた拳銃を逆手に持つ 「こんなの、認めない…」 #今夜の川内裏

2014-03-06 01:05:07
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

…警備府に最後の銃声が響いた 折り重なるように提督の上に倒れ込む川内の横で、壁に当たって跳ね返った指輪が床を転がる 「…ごめんね、提督…」 指輪は次第に速度を落としていく #今夜の川内裏

2014-03-06 01:07:18
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

…指輪は転がりながら横に倒れ込み、床で跳ねるように最期のあがきを見せるとやがて静かになった …後には血で汚れ文字がかすれて読めなくなった婚姻届と、その上に重なるように置かれた指輪だけが残った #今夜の川内裏

2014-03-06 01:09:53
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「提督、私ステキなお嫁さんになるよ!」「…そうか 期待してるよ」 …ふと、風に乗ってそんな声が聞こえた気がした #今夜の川内裏

2014-03-06 01:10:55