機械化された記憶 -今夜の川内裏-

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

…とでも、言うと思ったかい？ この程度、想定の範囲内だよぉお!? ハハ、ハハハ… ヒャハァアハハ!!!! 貴様等を幸せになど、してやるものかぁぁ!?

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

『機械化された記憶・下』 #今夜の川内裏 始まります

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

舞台は大湊、水雷戦隊寮の前 いつもは訓練を終えた駆逐艦たちが談笑しながら行き来していたその正面玄関を、今はオリーブ一色に塗られたトラックが扇形に取り囲んでいた 幌のはずされた荷台からは黒光りする重機関銃が、同じく全身オリーブの隊員と共に寮の戸口を睨んでいる #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「…ホントに、来るんでしょうか？」 指揮官と思しき将校の脇にいる隊員が、小銃を構えたまま不安げに口を開く 「…さあな」「もし戦闘になったら、勝ち目は…」「…さあな、わからん」 二個小隊、およそ百人を率いた歴戦の指揮官も、今の顔に余裕の色はない #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「小隊長！」突然隊員から声が上がる 見ると匍匐で小銃を構えた隊員達の向こうに… 「…やはり来たか」 血に染まった橙の制服が姿を現す 黒煙に汚れたセミロングの髪が白かった筈の襟と共に風に靡いた 「撃てーｯ!!」 …一時止んでいた銃声が再び寮内に木霊する #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「…陸戦隊、交戦に入ったようです」 執務室の机上にある無線から聞こえる銃声混じりの報告に、そばにいた神通が静かに言った 「…一体、なぜこんなことになってしまったのでしょう…」悲しげなその声に、提督は何も応えずタバコを灰皿に押し付けた #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

…話は約６時間前に遡る 「…川内」 提督からの唐突な呼びかけに川内は書類をいじる手を止め、顔を上げた 「…もっと強く、なりたいか？」 質問に川内は小首を傾げる 「強く？」「ああ、なりたいか？」 川内はしばしうーん…と逡巡する #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「そりゃあ、なれるならなりたいけど…」 既に最大限の改造を終え、これ以上強くなりようのない腕の艤装を眺め呟く川内をよそに、提督は引き出しから一枚の書類を取り出す 「…それは？」「今から工廠にこれを持って行け」 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

真っ白な便せん用の封筒を手渡しながら提督は続けた 「これはお前の… 新しい可能性を開く物だ」「新しい、可能性…？」「行けば分かる」 怪訝な顔の川内に提督はそれ以上何も言わなかった よく事情が掴めないまま川内は渋々席を立つ #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「ああ、そうだ」 …と、ドアを出ようとした川内に何かが飛んできた 片手でぱしりと受け取ったそれは… 「…指輪？」 青い箱を開けた川内は益々意味が分からなくなる 「それは鍵だよ、お前の強化のための、な …無くすなよ」 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

それだけ聞くと、川内は工廠へと足早に向かう 「…意味は、自分で見つけてみろ…」 後にはタバコに火をつけながら、紫煙に包まれ天井に向かって１人呟く提督だけが残された #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「…はい、無事終了しましたよ！」 手術台の上で目覚めた川内を、無影灯と白衣にマスク姿な医官が見下ろす 「これで、君は晴れて××××だ！」 何やら声が霞んで上手く聞き取れない なんとか台の上で上体を起こす #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

まるで身体が身体でないような、脳だけが空中に浮かんだかのような不思議な感覚… 「はい、これは返しますね？」 医官から差し出される、提督からもらった指輪 「新しい自分を試してみたくなったら、これを付けるといいですよ？」 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「…あ、ただし！」ぼんやりしたまま薬指に指輪をはめようとして制される 「…この指輪と今回の強化、よぉ～く意味を考えてみてね？」 マスクから覗くニタニタした視線から一刻も早く逃れたい一心で、川内は指輪を手に工廠を後にした #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

…結局、考えてみても医官の言葉の意味はわからなかった 水雷戦隊ラウンジにある安楽椅子に腰掛けたまま、川内は指輪を天井の灯りにかざして眺める 銀色の、だがどこか普通の貴金属とは違う輝き… まるで「早くはめてくれ」と頭の中に声が聞こえてくるかのような… #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「…つけてみれば、わかるか…」 川内はそれを左手の薬指にゆっくり近付ける 指輪が関節を１つ１つ通過する度にぼんやりしていた視界が段階的に明度彩度を帯びてくる 『…システム、キドウ…』 指輪が完全にはまると頭の中で突如、機械音声が響いた #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

『…アナタノ帰還ヲ歓迎シマス』 音声ガイダンス共に視界が緑色を帯び、中心に突如浮かぶ『Ｗ』マークや速度計のような丸いマーク 右下には人間の肢体をデフォルメしたような人形と、「0％」の文字 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「これって、一体…」『…コレガ今回アナタに実装された、戦闘補助システムです』 機械音声から次第に人間の女性らしさを帯びたガイダンスが脳内で川内の疑問に応える 「私、どうなって…」『身体面に種々の強化を施しました これでアナタは全く新しく生まれ変わったのです』 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「全く新しい、私に…」『はい、そうです』 川内は今一度言葉の意味を咀嚼する 「強く…なれたの？」『はい』「どれくらい…？」『…今までの艦娘にはできないことが、今の貴女にはできます』「…例えば？」しばしガイダンスが止まる #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

『…知りたいですか？』「うん、知りたい」 『…システム、戦闘モード』 そう告げるなり、今まで暗視ゴーグルみたいだった緑色の視界が自然色に戻る 右下には武装の種類と残弾数 『…武装のテストもしますか？』「うん、お願い」 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

操作もしないのに腕の単装砲からガキガキン！と音がし、撃鉄が起きる 『…ジェネレーター出力再上昇…』 身体がふわりと軽くなる 『…神経回路を切替…』 いきなり低くなった声にゾクリとする間もなくその言葉の意味を川内は身体で理解することとなった #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「ええいクソ!! どうなってるんだコイツは!?」 重機関銃にすがりつきながら兵士が半狂乱で叫ぶ …だが、そのコンマ数秒後には重機もろともトラックが炎上し吹き飛ぶ 「撃て撃て、撃ち殺せ!!」 匍匐で散開していたはずの小銃分隊も、一瞬で消し飛んだ #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「だ、ダメです!! これ以上は持ちこたえられません!!」 無線の向こうからは修羅の巷と化した水雷寮入り口からの悲痛な叫びが聞こえる …既に当初の指揮官だった小隊長は戦死、今は無線手が直接戦況を伝えていた 「ひ、ヒイィ!? 化け物が…」 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

『…敵重機、沈黙』「アッハッハ!!! 何これスゴいね!?」爆炎の中央で川内が笑う 『…残るは歩兵のみです 速やかに排除を』「はいよ…っと！」 単装砲の釣瓶撃ちにたちまち肉塊が舞う 『…戦闘能力のある物は全て排除しました』 #今夜の川内裏

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

「いやぁスッゴいねこの威力!! これが私なの!?」『…はい、新しい貴女の力です』「こんな感覚、初めてだよ!? なんだかスッゴく愉しいの!!」 『…次は、どういった目標を？』「んーっとね？ …あ、ちょっと待って！」 #今夜の川内裏