ケンペイ天狗「クローン・トループス・アンド・ウナギ」
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ANA
@ANIGR
……それは、おお、ブッダの奇跡であろうか！一糸まとわぬ吹雪自身の身体には傷ひとつ有りはしない！いや、それだけではなく寄生虫めいて吹雪の身体を蝕んでいた戦艦タ級の艤装、その全てが溶け落ちていたのだ！「う……」ケンペイの腕の中で吹雪が身じろぎし、黒髪が揺れる。 ６６ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:35:59
ANA
@ANIGR
この奇跡にはタネがある。対深海棲艦の戦闘を想定して作られたウナギイ級の胃酸は、深海棲艦の身体のみを溶かす強烈な酸に置換されていた。その狂気的な実験が結果的に吹雪の命を救ったのである。なんたるサイオー・ホースか、それとも本当にブッダの計らいだったのだろうか？ ６７ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:38:23
ANA
@ANIGR
「ん……、司令官……？」黒い瞳がケンペイを見上げる。デジャヴめいた感情にケンペイはオメーンで表情を押し隠し、努めて無感情に言った。「私はゴロザ提督ではない。だが、すぐ会える。帰ろう」それを聞くと吹雪は安心したように笑い、ケンペイに身を委ねるように気を失った。 ６８ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:41:55
ANA
@ANIGR
トチギ・ノースラントを流れる大河、キヌ・リバー。その中流を、３台のジェットスキーが起こす波が切り裂く。「自分羅流多流」という威圧ミンチョ文言が刻まれたスキーを操るのはいずれも屈強な黒人の男。全員がヤリやソードオフショットガンで武装したヤクザクランである！ ７１ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:48:06
ANA
@ANIGR
彼らの名はジブラルタル・ヤクザクラン。この川を縄張りとするウナギ密猟専門のヤクザクランである！少し前に同様の密猟クランが壊滅した空白地に滑り込めたのは彼らにとっては幸運だった。「ヒャッハー！」「シマッテコーゼ！」禍々しいチャントを上げながら川を蛇行していく。 ７２ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:50:18
ANA
@ANIGR
今日も大漁だ、リーダーのベンは良い予感に口許を歪める。しかしその予感は外れた。「いっけぇ！」突如砲撃がベン達を襲う！「ア、アイエエ！艦娘の巡回だ！」「逃げたら本当に当てちゃいますよ！投降して下さい！」黒髪セーラーの少女が滑るようにジェットスキーの前に回り込む。７３ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:53:13
ANA
@ANIGR
「よし、お手柄！」「アイエエ……」手錠をかけられガックリとうなだれるヤクザクランを前に、吹雪は無線機を取り出すと鎮守府のゴロザ提督へ連絡を入れる。『よくやった、寄り道せずに帰ってこいよ』「しませんよ！そもそもトチギには寄り道する場所も無いじゃないですか！」 ７４ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:56:14
ANA
@ANIGR
「ったくもう」吹雪は頬をふくらませながら無線機をしまう。全くおせっかいな司令官だ。だがそれが今の吹雪には少し嬉しかった。あの司令官がいるならこのトチギの土地も悪くない。あと一年間で転属というのも昔は長く感じたが、今では少し短くすら思える。 ７５ #ケンペイ天狗
2014-03-16 23:58:35
ANA
@ANIGR
結局吹雪にはケンペイ天狗と話す機会は無かった。自分の深海棲艦に身体が侵されていたというのも全く夢だったかのように実感が無い。唯一覚えているのはケンペイに抱きとめられた時に見た、まるでゴロザ提督と見間違えてしまうような優しげな、懐かしむようなオメーン越しの瞳。 ７６ #ケンペイ天狗
2014-03-17 00:00:28
ANA
@ANIGR
「あの人も昔提督だったのかな……？」「バモォ」思索にふけっていた吹雪を注意するように野良ウナギが水面から赤い鼻を覗かせる。「あっと、いけない」我に返った吹雪は鎮守府の方へ向き直ると、力強く敬礼をした。「ゴロザ鎮守府第一艦隊、旗艦吹雪！これより帰投します！」 ７７ #ケンペイ天狗
2014-03-17 00:03:02